第8話―始まるは終焉の何か―

結局は奪われた会社を奪還できず失敗。

このころ織田信長の父として名を刻まれた前社長の信秀の主家であった清須織田と呼ばれる一族が経営はみるみる権威は落ちていた。

新しく社長に継承した織田信友おだのぶともは飾りものだった。

清洲城カンパニー社長室。窓越しから射しこむ陽光を背負う社長と向かいに立つ専務が二人だけ。


「なにッ!?信長らの名刺めいしを奪うだと」


「ええ、信友様。奴らは今川企業とカードゲームを興じて弱っていること。くくっ、今ならやれる」


専務の名は坂井大膳さかいだいぜん

清須織田家が代々と継いでいた権力はこの坂井大膳が握られており実質の社長であった。


「い、いや……そうだけど。うん?」


「おや、何か引っかかりましたか。完璧な作戦と自負していましたが」


「いや穴だらけと思うんだが。信長たちはカードゲームを遊んだなら疲れることはないだろう。

遊び疲れるのもあるけど、団体で遊ぶと仕事の効率や団結も高まるし責めるの考え直さないか」


なんて計画を立てたのか。そう口にはせず思いを留ませようと汗を垂らしながら信友は注意するが。


「え、ええい。うるさい!うるさいぃぃ。

いくら社長の意見であっても貴方だけの一人ではない。優秀な同輩がやってくれる。

今なら株を撮りまくって名刺を奪い放題だ」


認められなかったことに怒りがみなぎり叫び返す。

肩を揺らして戦慄する織田信友。


「そ、そう上手くいくかな」


「任せていただきたい。おとなしく見ていればいいのです。では失礼する」


もう決まったことで口を挟むな。そういわんばかりや態度をした大股で退室していく坂井大膳の背を見えなくなるまで困った顔で信友は見ていた。

なお戦国時代ではまだ名刺を渡す文化は無かった。

――カードゲームを楽しんで悔しい思いをした織田信長は赤塚の戦いの疲れを取ろうとしていた。


「ニイニイまたお茶漬けを食べている……ねぇねぇ

そんなに夢中なるだけ美味なの?」


自宅の早朝。リビングのテーブルに向かうの位置に戦国一の美少女と有名なお市が首を傾げて訊く。


「あたりめぇよ。こんな美味なものはどこを探してもねぇ!」


おかしいテンションで応じる織田信長。

彼の好物は干し柿や菓子類などの甘いものがよく知れ渡られているが茶漬けも好んでいた。

昔は茶漬けの原型となる湯漬ゆづけ。ご飯のうえに湯をかけた食べ物……それだけである。

具はもう少し先になるがここは現代。

信長の手には小さな具は盛りだくさん、もしそんな現代のお茶漬けがあれば織田信長は欣喜雀躍きんきじゃくやくすることだろう。


「ふーん。あぁぁーーっ!

もうニイニイたら妹と朝食とか取らないで自分の妻ともっと時間を使わないとダメだよ」


「そうなんだけど。なんとなく時間を隣で過ごすことがあまりなくて」


「なにを変な言い訳をしているのかなニイニイは。

はぁー、社長と秘書は夫婦と同然なんだから仲良くしないといけないよ」


この時間だけは色々なしがらみや悩みしなくて済む平穏な時間。暖かな空間に浸かっている信長は

箸を進めようとする。

ピンポーン。予備鈴の音に手を止めて玄関に向かいドアを開けると部下が血相を変えて来ていた。


「報告します!松葉城まつばじょう深田城ふかだじょうのダブルカンパニーが奪われてしまいました」


「な、なにィィィィィィィッ!?」


「加えて支えていた深田城カンパニーの社長が敵に招かれたとか。おそらく人質でしょう」


「くっ、卑劣な。深田城の社長といえば叔父の

織田信次おだのぶつぐではないか」


「あのどうして苗字まで口にされるのですか」


「気にするな。それよりも俺は行くぞ」


清須織田に攻めてきた。早朝でのんびりしていられず織田信長は那古屋城なごやじょうを出発。

部下を率いて自ら車を走らせる織田信長。

庄内川しょうないがわまで車を走っていき前方に見た事のある車が視認した。


「もしかして叔父の織田信光おだのぶみつなのか」


車を寄せて確認しようと試みる。みるみるスピードを落として窓を開けると精悍な顔つきが外を覗いて確信。


「誰だ。こんな嫌がらせを」


「俺です」


「信長か。お前も駆けつけてきたのか」


「なら叔父もここまで駆けつけて」


「そうだ。会社の守山城もりやまじょうからな」


「なら二社を取り戻すのため味方を分けていきましょう。叔父は俺ときてください」


また別の叔父と合流した織田信長。

勇ましい行動をとる織田信光は信秀を支えてきた優秀な社員そして信長の代になっても支えてきた。

しかし途中までになるが。

安全運転を守りながら萱津かやづで止めて降りる。


「よし。織田信長に続け。いくぞぉぉぉーー!」


「ふん。清須織田の偉い部下とか。

その下に働きながら裏切るとは。名刺を奪えぇ」


数刻の交戦。柴田勝家が敵の幹部クラスの名刺を奪うとそのまま破り去る。これで会社員としてのプライドがズタズタとなり討死に等しい屈辱に味わう。

撤退する清須織田。

そして別の部隊に分けていた戦果も上げる。

このまま松葉城と深田城の押し寄せていき敵は降伏して会社を開け渡す。

織田信次たちも開放されると織田信長は敵国の畑に火を使ったダンスをして帰還。


「聞いてくれよ。俺この戦いが初めてなんだよ。

一人の名刺を破ったんだ」


この凛々しき男は前田利家。

なおこの戦いを萱津かやづの戦いとされ前田利家はこの戦いが初陣を飾る。

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