第6話―鷺山殿とも呼ばれていました―

隣接するライバル企業との争いは長く続いていた

織田家と斎藤家が和睦。

それを導かせたのは織田信長の育ての親として務めてきた平手政秀ひらてまさひでだ。

彼の提案そして交渉の結果、あまり評判が良くない風来坊の織田信長と下克上を趣味のような帰蝶ことマムシのご令嬢がめでたく企業関係の夫婦になる。

故郷を離れることになる帰蝶は退屈そうな顔をして車の外を眺めていた。


「お嬢様もうそろそろです」


「そう」


このときが来てしまっまたかと帰蝶は新天地へ赴くことに不安でいっぱいだった。

震える手をどうにか抑えようと大きく吸って吐いて試みたが上手くいかない。


「長い別れになりますね。それで父上様にはお伝えしたいことがありましたら伝えますが」


「いえ。結構だわ……やっぱりありましたわ。

帰還されたら誰が噂をしているのかアタシが土岐頼純ときよりずみの妻だとか調査してちょうだい」


「えっ!?土岐に嫁いでいないの違うのですか」


諸説あるが土岐頼純に夫婦となっている。

その経緯は斎藤道三の形だけになったが主君は土岐家を追い出すような行為をした。

斎藤家のバックには朝倉家がおり加勢しておりこれに黙っておらずなんとか和睦にもって行く。

土岐家は元の社長として返還の条件かつ裏切らないよう帰蝶を嫁ぐ。

しかし土岐家は戻ってきたところで安静にしてはいられなかった。斎藤家の会社を乗っ取ろうとしたが露見され逆に返り討ちされてしまい土岐頼純は戦死した。

勝手に広まる噂に帰蝶としては事実無根だと憤激していた。

ここまで運転してくれた社員に車を降りた帰蝶は、短い労いを伝えると織田家の会社へと足を向ける。


「お、おい。アレって帰蝶じゃないか!?」


「バカッ!ちげえよ濃姫のうひめだーつの」


「それもなんか違うような。鷺山殿さぎやまどのとか」


「「それだけはない」」


「ハモってる!」


信長公記では道三の娘がと触れているが肝心の名詞には載っておらず簡潔的なものとなっている。

絵本太閤記えほんたいこうきによると信長の正室にマムシの娘は濃姫として登場してくるがこれは正確な資料として根拠するには弱い。

なら帰蝶ならその名詞が残されたものはと問われればあるにはある。

帰蝶の文字が書かれている書物は江戸時代で成立したもの美濃国諸旧記みののくにしょきゅうきである。

そしてヒソヒソ話をする三人の一人がポソッと呟いた鷺山殿も帰蝶が名前として呼ばれていたとされたかもしれない説。

結婚する当日で鷺山城から出発して古渡城へ到着したところから由来する。


「信長……いったいどん方なのでしょうか?」


――ここまで回想してきた帰蝶。

彼女に関する記録は非常に少なく表舞台から消えるのは嫁いでから。

二人の間には子はいない。


「うーん。ヒマ潰しは出来たかな!

じゃあ、また聞かせてね。バイバーイ」


ややあって数刻前にしてきた結婚話に飽きてしまったのか義妹お市は欠伸。立ち上がると間延びして手を振る。

どうやら出ていくようだ。


「ば、バイバイ……まるで風のような行動だ」


ぎこちない笑みを作りながら彼女は手を振り返して汗を垂らす。

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