第5話―どっちが本名―

腰が抜けるような安息。

敵対する古渡城カンパニーの社長に近づいて情報を流すのが帰蝶のミッションだった。

とある理由をつけて秘書、、の帰蝶は談話室で休憩を取っていた。


「ハァー。妻の役割である秘書をやるのは方が凝るし楽じゃないわね」


やる気がない。

昼過ぎから経っている。

この時間帯には誰も利用していないため帰蝶は肩を揉みながら本音を吐いていた。

戦略結婚すればヒソヒソと行動することなく堂々と正面からスパイ活動はできる。


「あの信長もそれを分かっていらから沈黙を貫いているわね。アタシがやることを……食わないわね」


信長の他所から送った令嬢。

蔑ろにすれば戦略結婚まで結びつけてきた努力は水の泡になるので大事に迎える。

仲を強めるだけの結びは表。裏は内情を探ること。

いずれ裏切るのも検討などをして情報が流れるよりも企業との恒久的な同盟アライアンスのメリット。


「それを捨ててまでアタシの動向を泳がせているのか?なにを考えているか読めねぇ信長。

まさか戦略結婚をスパイ許可を受けるのと定義でも知らないはずは……西愛知県の大バカ噂は本当?」


解せないことに苛立ちが募る帰蝶。

豪快に茶を啜り、コップをテーブルを叩くように置くと隣から可愛らしい悲鳴が聞こえた。

帰蝶は、こんな素を出したことに悔やんだ。

ゆっくり首を動かしながら乗り切るセリフを巡らしていた。

気配を悟らず近づき声を出したのは信長の妹お市。


「あ、貴方は…お市様」


ひっそりと入ってきたのは戦国一の美少女とまでうたわれたお市だった。

新雪さえ欺くような白い肌、パッチリとした瞳。

そして宝石でも溶かして溶け込ませたのかような

キラキラと光沢のある長い黒髪。

素顔を見られたくない人物に帰蝶は青ざめる。


「よしてよ様つけなんて。

ニイニイの妻に等しい秘書なんだから他人行儀はやめようよ。わたしの事は呼び捨てにしてね」


「いえ恐れ多い」


首をブンブンと横に振っていえないと断る帰蝶。


「わたしが良いと言ったからイイの!」


まったく折れず引こうともしないお市は両手を腰に当てて有無を言わさずの姿勢。

その強くまで求める行動にどれだけ断っても何度も同じやり取りされそうだなと帰蝶は折れた。


「そ、そこまで仰るのでしたら。

えーと……わかりましたよ……お市」


「うん、よろしい。隣すわっていい」


「どうぞ」


お市の容姿は控えめにいって幼い。

評価をなんの遠慮なくいえばロリっ子だ。

お市は見た目よりも十歳より若くみえる。


「それで聞かせてよ。ニイニイの初めてを」


「うぅ――グッ!ゴホッゴホッ」


ヒマワリのような無垢な笑みを浮かべてとんでもないことを口にしたお市。

驚いて気管に入ってしまい帰蝶はせる。


「だ、大丈夫。ごめんごめんニイニイと第一印象はどうだった聞けばよかったかな」


「うぅ、ロリにもてあそばれた」


「うん?気の所為かなロリって聞こえたけど」


「い、いえそんな失礼なこと滅相もありません。

今日もお市様は大人の色気でクラクラしてしまいました」


このセリフはいくらなんでも見苦しいか。

見え透いた言い逃れだなと自虐する帰蝶だったが効果はあり、お市は満更でもないように照れていた。

この姿を呆然と眺める。

この子、チョロい!と帰蝶は心の中で叫んだ。


「聞かせて」


「話が逸らしてくらませんか……聞いても楽しくありませんよ。それはそうアタシの父である道三どうざんが社長職を息子に譲られた翌年」


「はーやーくー」


両手を拳にしてテーブルを叩いて催促するお市。

強く握っていないないのか叩く音はそれほど響いておらず、どこか心地良さのあった。


かしないでください。

順に説明しますから。

アタシがとつぎ、つまり秘書として鷺山城さぎやまじょうカンパニーから出発する流れになって――」


帰蝶が信長に嫁ぐことになった想い出をさかのぼる。

まだ岐阜県で姫のように生活していて就職なんてしていない大事に育てられた箱娘がどうして戦略結婚され秘書になったかを。

この日のために秘書検定は早くから取っている。

だが新卒さえ体験もなくしていない経験の皆無な自分に選ぶなんて戦略結婚システムはなんて不合理だろうと感じて。

整理は着いた帰蝶はそろそろ信長の会社へ来た話を始めようと言葉を紡ごうと開く。

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