第2話―虎将―

織田信秀がある会社は愛知県の西部。

最高の資料として扱われる信長公記しんちょうこうきによると。

尾張おわりの国は八郡はちぐんから成っている】っと記される。

第一巻にあたる首巻しゅかん、その冒頭。

これだけでは満足しないかもしれないためここで

現代語を訳せずに解説したいと思う。

尾張国おわりのくにかみ下わかちの事さる程に尾張国は八郡なり】

慣れ親しみないため読みにくいがとても味がある。

信長公記は資料でもあり軍記物。

セリフはほとんど無くノンフィクションの史実に近いながらも小説のような言葉が装飾されている。

前置きが長く難しいさせてしまった。

この辺にして置いて話を進めたいと思う――

――西愛知にしあいちは各地で権力争いがある。


「おーい、織田信秀くん。

上司の達勝たつかつさまに言うことはないのか?」


上司に呼び出されて上の会社に来てみれば現在進行形パワハラを受けていた織田信秀。

速く終わらないかなと頭の中はそればかり考えていた。かてて加えて土田御前や今後の経営方針も。


「いやぁー、今日もご多忙の中お時間を割っていただき感謝の念に耐えません。

織田達勝さまのお元気そうでいらっしゃる様子で心より安堵しております」


爽やかな笑みを浮かべて上司にこびりへつらう。

持ち上げられた織田達勝は機嫌をよくする。


「ガッハハ。そうか、そうか。

心配してくれるとは殊勝な部下だ」


「恐れ入ります」


こんな奴に下げたくないと胸中で吐きながら表面上はうやうやしく頭を下げる織田信秀。


「なんでも立ち上げた会社の利益がうなぎのぼりと聞いたぞ。どんな手を使った」


「いや大したことは。父の信定のぶさだが勝幡城カンパニーを築き上げてくれたおかげです」


そう誇りらしく織田信秀は言われたとおり、織田信定は磐石な経済基盤となる日本有数の貿易港である

津島つしまを掌握。

そこで勝幡城カンパニーを継承した織田信秀は潤った資金で高い軍事力を得ていた。

それは息子の織田信長もこの貿易によって鉄砲を買えたのも経済力によるものだった。


「おいおい、謙遜をするな。

それよりも語ってもらわないといけないと。

これでも買っているのだ。

上司に刃向かっていい事はないぞ」


不穏な空気が漂う。萎縮させる鋭い眼光を向けられても織田信秀は涼しい顔をしたまま応える。


「いえいえ刃向かうなんてそんな……それよりも

パワハラになりませんかね?今のって。

ほら昨今は何かと厳しいじゃないですか。こんな平社員を痛めつけていいのですか?」


「何をいう。織田信秀ほどの敏腕社員を厳しく指導しているだけよ」


ゴゴゴッとまるで擬音語が視認化させるだけの凄みのある笑顔を作っているがそらは睨み合い。

このまま仲良く見つめ合うようで気分をそれぞれ害しながら嘆息する。

これでも織田信秀の上司は織田達勝であるが後に二人は争いはするが和睦していたと記される。


「延長線ですね。部下のイケメンな拙者せっしゃの顔を凝視なさられてもつまらないでしょう。

これで失礼させていただきます」


おもむろに立ち上がると清州カンパニーの一室、織田信秀は退室しようとする。


「ああ、道中には気をつけたまえよ。

残念なことに忙しくて見送れなくて心苦しい限り」


出し抜けに一方的に呼んだくせにと罵りたい衝動に耐えてドアノブを回す。

一刻も早く別れたい信秀からすればロビーまで見送れるのは迷惑なのでこの辺は肯定的だった。

――愛知の虎が出ていくの背中を見ていた織田達勝は盛大にため息を吐かれた。


「ふはァー、緊張して疲れてしまったわ」


背もたれに全体重を預けて全身を脱力するとスーツを着こなす若い一人の部下が入ってきた。


「ご対応お疲れ様でした社長」


茶をテーブルの手前に置く。


「おう」


それを片手に持ってゴクゴクと豪快に一気で飲み干してしまった。


「さっきの会話をドア越しから聞いておりました。

なんて慇懃無礼な奴なのでしょう」


「そう怒るな。この企業を乗っ取りしてきた前科はあるがあれでも清洲三奉行きよすさんぶぎょうの一人」


織田信秀は主君の部下でありこの清洲三奉行と呼ばれて主君を支える柱の一角を占めていたがそれでも地位は下級武士に変わらない。


「平社員の分際でよくズケズケと」


「あれでも西愛知の虎と恐れているから実力は認めざる得ない」


若き社員がここにいない信秀に憤慨したことで怒りが沈んでいく。

西愛知は説明でもうお気づきかもしれないが念の為に説明すると尾張国のことであり信秀は〖尾張の虎〗と称されていた。

その部下を持つ織田達勝は八郡の下にあたる下四郡しもよんぐんを治めている。


「塩をまきます!」


「そんな古いことを……コホン。それよりも教えてほしいんだが俺って歳がいくつか忘れたんだが知っているか」


「知るわけないでしょうがや」


「がやッ!?」


まだ怒りが収まらない部下からぶつけられた。

こんな織田達勝だが守護代として長く在位に就いていた。

生まれた年や没年はどういうことか不詳であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る