戦国企業

立花戦

第1話―ノブナガ生誕―

我々が幸せの権利を手に入れて戦った人がいる。

それは偉人。また先人とも呼ぶ。

今のような安定した暮らしを万民があまねき享受きょうじゅを受けれるのは先人たちのおかげだ。

感謝しよう。感謝に絶えない誠にありがとう不条理に戦ってくれた先人たち。

どうやら子供が産まれたと聞いて駆けつけた。


「急いで帰ったぞ土田つちだぁぁぁーー!」


「きゃあッ!?って、信秀のぶひでどうしてアンタがここにいるのよ。抱きつかないで」


せっかくの帰還すると怒られてしまった。

屋敷の渡り廊下で腰を下ろす、この儚げそうな美少女が拙者せっしゃの妻である土田御前つちだごぜんだ。

前の妻を失ってから新しく妻として迎えた。前に雑談で自然なタイミングを図って生まれはどこかと訊いた。

すると複雑すぎて諸説があるとかないとか応えており歯切れが悪くかったのはよく覚えている。

それは、さておき。


「そう照れなくても良いでは無いか。

上司が清州きよす専務取締役せんむとりしまりやくに仕えてあるからゆっくりも出来ん」


「はぁー。それでワタシにヨシヨシして欲しいと」


そう言った土田御前は身が凍えそうな態度をとる。冷ややかな眼差しと嘲笑を向けられてしまい心は

とてもドキッとさせられた。


「そう、そう。疲れを取りたいからヨシヨシをお願い致す」


「ア、アンタ人のプライドとか無いわけッ!?

ほらメイドの目を見なさい。呆れているわよ」


「フン。たかが侍女じじょがいるだけでこの信秀……土田の愛を告げずに折れるか」


「そういうもんじゃなくて。

ハァー、ワタシの負けよ。疲れたから膝枕してヨシヨシしてあげるわ」


なんと膝枕サービスまでしてくれるとは。

立場を捨てるような振る舞い。我慢していた感情が爆発すると気づいたらイチャイチャ。

ある一定に満足してから頭は落着していくと遅れて羞恥心が襲う。

ここ愛知県は斯波しば一族の企業が支配している。

織田信秀土田御前は我が妻であるが前の妻が不慮の死を遂げてから入ってきた妻。

これを継室けいしつという訳だが後継者として残していかないといかない。

まだ見えぬ未来に備えて思考の海に潜っていると土田御前の美しい顔に影を差す。


「んっ、暗い顔をして何か嫌なことあったか土田。

なにか悩みがあれば聞くぞ。打ち明けてくれ」


本音ほんね

もう、ええ、ええ。でも大した事ではないわ。

前の妻にもこんな甘い言葉を言っていたのかなって……」


呆れや好意をごちゃ混ぜにした瞳だけを隠して見下すようにリアクションをする。

もう夫婦なのだからツンデレしなくてもいいのに。


「ふぬ。つまりジェラシーか」


「違うわよ」


「違うのか?」


「違う……わないわよ」


愛おしい我が妻に強くハグをする。

出し抜けに抱きついてきたことに驚いた土田御前は腕をソッと後ろに回してギュッとする。

しばらく言葉を交わさずに続けていると何時間もやるだろう。

なので名残惜しいが今日はここまでと離れる。


「それで子が産まれたと聞いたのだが?」


「え、ええ。その為にここへ来たのでしたわね」


そのあと産まれた出来事を語ってくれた。

十分に聞いてから子供の名前はどうするかと話題となる。


「名前は吉法師きっぽうしだ」


「センスが無いわね。織田信長でよくない?」


「……なんか色々と失礼な発言に聞こえるけど。

そうだな子供は織田信長にしよう」


屈託のない笑みを向け合う夫婦がほのぼのとさせる場面を端からみていたメイドはスマホで写真を撮りたい衝動と戦っていた。

本能のままに撮ってしまえば辞めないといけないため堪えて目に焼き付けんとする。

なお織田信秀と土田御前の夫婦仲は良いと資料に残されている。


「それで信秀ここ、どこの会社か分かる?」


今になって思い出したかのようにキョトンとして土田御前は夫に居る場所がどこか訊いてきた。

そう土田御前らがいるのは一階になぜか渡り廊下ついている会社であった。


「おいおい、会社で出産したから移動したことまで失念してしまったのかよ。はっはは……はは……

ここどこだっけ?」


どういうことか織田信秀まで失念していた。

あまりにも歓喜して慌てて駆けつけたことで移動した経緯のすべては記憶のかなたへとやった。

汗を垂れ流す信秀。


「引っ越しされた古渡城ふるわたりじょうカンパニーような気がするようで。アンタが産まれた勝幡城しょばたじょうカンパニー……かも?」


「疑問形か。まあ人のことを言えないけど。

たぶん那古屋城なごやじょうカンパニー。

間違いなく、おそらく、高い確率で思う」


メイドは驚愕した。

まさか二人とも自分たちの土地や建物を忘れるものかと茫然自失とさせるのだった。


「やれやれ。思うだけで断言しないのね」


肩をすくめる土田御前に織田信秀は微笑する。

かてて加えると幼名である吉法師の織田信長が生誕された場所は複数とある。

それが古渡城。その二に勝幡城。最後に那古屋城である。なお第一資料からは那古屋城と記されておるため有力的で高い可能性は那古屋城である。

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