第10話 光の道をエスコート

 学校と思われる建物は、思った通り神社のような外観であった。

 いわゆる白い外壁の校舎では無く、赤い鳥居が似合いそうな外観。


 この建物を、なんとなく見たことあるような気がした。

 記憶は無いけれども、この世界の私も通っていたんだろうな……。


 校舎のような建物の周りには、大きな堀がある。

 そこには水が溜まっている。

 綺麗な神社と水の風景なのだが少し違和感がある。

 向こう岸に行くための橋が無いようであった。



 生徒と思われる人たちは、橋もない道を躊躇無く進んで行った。


 水の中に入らないように、三者三様な方法であった。

 走り幅跳びのように一気に飛んでいく者もいれば、優雅に水の上を歩く者がいたり、低空だが宙を浮いて飛んでいく者がいたりする。


「ここは、妖術の素養のあるものしか校舎へは入れないんだ。得意な妖術を使って入ってるんだ。だ」

「そうなんだ。面白い作りだね」


 結構な数の人が入っていくようだった。

 私の高校も都会にあったから、人数だけは多かったけれども、それと同じくらいの生徒数がいるのかな?

 巫女姫って特別な存在かと思ったら、妖術使える人って意外と多いんだな……。



 それにしても、この建物。

 普通の校舎とは違うものの、やっぱり最近どこかで見たんだよな。

 なんだったかな……。

 あ、あれだ。


「平等院鳳凰堂に似た建物だろ」

「それだ!」


 私の考えを読み取って、皓君が教えてくれた。


「天の国を模して作ったような建物。前世からしたら、ここは本当の天の国みたいだろ」


 不思議なものばかりで、不思議なことばかり起こって。

 なんだかよくわからない世界だけれども。

 妖魔が辺にいるから、天の国って言われたら違う気もするけど、明らかに元の世界とは違うんだなって思う。



「どんな世界でも、色々と問題を抱えてるってことだな。取り合えず、早く入っちまおう。遅刻扱いにされると厄介だからな」


 皓君は、私の手を取って、堀の方へと歩いていく。


「皓君、みんなは宙に浮いたりしてたけれど、私はそんなのできないよ……」

「大丈夫。俺の手を握ってろ」


 皓君は、水面が近づいてもスピードを落とさずに進んでいく。

 その勢いのまま、水面に足を踏み出すと、足元に光る道が現れた。

 池の向こう側の校舎まで続く光の道が見える。


「……なにこれ?……綺麗」

「俺たちは、光の属性だからな。前の世界で言うイルミネーションみたいだろ? ‌俺は、具現化するのが得意なんだ。だからこんな事でいつも登校してる。同じ属性でも、得意としてる能力が違うからな」


 空を飛ぶわけじゃないけど、これはこれでとても良い。

 とっても綺麗だもん。


 私は、『姫』じゃないって言われたけれど。

 皓君と一緒にいると、なんだか本当のお姫様になったみたいなんだよな……。

 私がお姫様なら、皓君は……。


「私の王子様」

「……そんなくだらないこと言ってないで行くぞ」


 光の道を、皓君に手を引かれて歩いていく。

 なんだか、シンデレラになったような気分。


 お城とは違って、和風な会場だけれども。

 今から、舞踏会でも開かれるみたい。


 いつかお姫様として、皓君にお姫様抱っことかもしてもらえる日が来るのかな?



「いきなりそんな日が来るかもな。千鶴子に合わせてたら、時間ギリギリなっちまってる。今日は、お前を持ってくぞ。遅刻すると厄介なんだ、この学校……」


 そう言うと皓君はしゃがんで、私の背中と膝辺りに手をかけて、私をひょいと持ち上げた。

 いわゆるお姫様抱っこだ。


「お前の夢、すぐに夢が叶って良かったな。しっかり捕まってろよ」


 皓君は、一気にスピードを上げて光の道を走り出した。

 というか、一歩一歩がとても大きいので、どちらかと言うと飛んでるようだった。

 三段跳びの選手のように軽々と光の道を飛んでいく。


 すごいスピードを出すものだから、皓君が走った後の道からは、水飛沫が飛んで行った。

 遅刻ギリギリな周りの人達も、なりふり構わずに進んでいた。


「……うぅ、早い」

「お姫様のみたいなエスコートは、また今度してやるから、我慢してくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る