第6話 光の社

「しばらく、ここで暮らすことになるから、この敷地内を案内する」


 皓君は、そう言うと私を連れて建物の外へと出た。

 建物の前には、神社の境内のような、庭園が広がっていた。


 綺麗に砂利が敷き詰められており、かなり広い。

 参道のように、複数の建物が綺麗に並んでいた。

 敷地の中には、五重塔のような建物もあるし。


 私は一度行ったことがあるのだが、浅草寺に似てる気もする。

 遠くの方に雷門のような門が立っている。


 まさに、神社という雰囲気。


 そういえば私は、『巫女姫』って呼ばれていたけれども、そういうことなのか。



 振り返って、今出てきた建物を見ると、神社そのものといった雰囲気であった。

 神社なのだが、それよりも遥かに大きい建物。


 神妙な雰囲気もあり、違う世界に来たのだとあらためて実感した。


 皓君が口を開いた。


「この庭も含めて、ここは結界で守られているんだ。結果の効果によって、敷地の外からは基本的には認識されないようになってる」

「……そうなんだ。でも、さっきは、妖魔が襲って来ましたけれども」


「そう、普通は認識されない。ただし、例外もある。中で大きな力が発生すると、認識されてしまうこともある。お前が目覚めたことで、妖魔が気付いたんだな」


 私が目覚めただけで……?

 なんで、ただそれだけなのに……?



「お前の魂が、やっとこの世界にたどり着いたんだ。そりゃあ妖魔も気付くだろう」


 皓君には珍しく、優しい顔で私を見てきた。


「良く帰ってきたな。おかえり」


 皓君はそう言いながら、私の頭を撫でてくれた。

 大きくて暖かい手は、懐かしさを感じた。



「この世界のことを覚えていないようだから、ここで生活するうえで守って欲しいことをあらためて伝える。守って欲しいことは、二つだ。一つは、ここの敷地から出ないこと。もう一つは、この敷地の中で力は使わないこと」

「わかったけど……。そもそも力の使い方なんて、私は分からないんだけれども……」


『力』っていうと、妖魔を倒した時の光のことだよね、きっと。

 たまたま上手くいったけれども、あれを使うなってことだよね……。


 あんな妖魔がいるなら、力をコントロールできないといけない気がする。

 皓君がいつも傍にいるわけじゃないし……。



「そうだな。力のことは、少し中で話そう」


 そう言って、先程いた本殿のような所へと入っていく。

 私もついて中に入る。



 なんだか、色んな事があって、頭が混乱してきた。

 私は巫女姫で、皓君はなんか強くて。

 この世界は、なんなんだろう。



 大きな玄関で、皓君は立ち止まった。

 私がついてきていることを確認して、玄関奥にある大きなお札のような物へと向かって行く。


 五芒星の形が描かれている。

 さっき言ってた結果を作っているものなのかな?


「これは、この辺りの地図になっているんだ。俺たちがいるのは光の社。この五芒星の左下の部分にあたるところが、ここの敷地だ。この白の部分」


 皓君は、星の頂点を指して教えてくれた。


「他にも、星の頂点部分に、火、水、地、風の社がある」


 地図には、うっすらと色が付いている。

 赤、青、緑、茶、白。

 星の頂点に、それぞれ色が塗られている。


「昔は、分け隔てなく暮らしていたんだがな。妖魔が出るようになって、外からの脅威に備えようとしたことで、こんなに分かれてしまったんだ」

「みんなで協力して戦えばいいのに?」



「それが出来れば良いんだけどな。互いに打ち消すように力が働いてしまうから、それぞれの社は離れているんだ。それもあって、互いに仲が悪いから気を付けてくれ」

「気を付けるって言っても、ここで暮らしていて、他の属性の人と会うことなんてあるんですか?」


 皓君は、五芒星の中心部分を指した。


「お前が学ぶ予定の学校だが、各地域の真ん中に一つだけある形なんだ。各属性の生徒が学びに来る。共同して戦えるように。そこまで、一緒に通おう」

「へぇ? 巫女姫って、姫様みたいにのんびりここで暮らせるんじゃないの? 姫の部屋みたいなところに、家庭教師みたいに先生が来たりとかじゃないの……?」


 皓君は、首を横に振った。


「残念だが、前世とあまり変わらないかもな」



 そうなのか。

 それは、すごく残念。

 姫待遇を期待していたのにな。

 けど、皓君も一緒に行くのか。


 ……あれ? 私一人じゃなかったの?


「学校って、私一人で行くんじゃ無いの? 皓君も行くの?」

「そうか。その説明もしなきゃだな」


 皓君は、地図から私方に向き直した。


「それぞれの社に巫女姫や、巫女姫見習い、巫女姫を補佐する従者が住んでいる。従者って言うのは、巫女を守る役目の者だな。一人の巫女に対して、一人の従者が付くのが一般的だ」


「なるほど。……もしかして、皓君が私の従者だったりするの?」

「そうだ。お前を守るのが俺の役目だ」


 たまに恥ずかしがるのに、今は堂々と言ってくれた。

 私を守ることに誇りを持っているみたい。


「……もう、どこにも行くんじゃねぇぞ」


 相変わらずぶっきらぼうな言い方だけど、少し優しさを感じた。

 いつもとは逆で、私が恥ずかしさに耐えれなくて、話題を変えてしまった。


「……あ、そういえば、巫女姫ってなんなの? なんかすごい力を使うけれど?」

「巫女の力を宿す者だ。力は、遺伝するというわけじゃないから、お前の親が巫女姫だったわけではないんだ。どちらかというと、魂に宿る力だ」



 優しい表情で真面目に話す皓君は、相変わらずカッコいい顔してる。

 自分で話題を変えちゃったけれども、もう少しこの世界での私と皓君の子と聞きたかったかもな……。


「……おい、ちゃんと話聞いてないだろ? まだ光の妖術をコントロールできていないようだから、ちゃんと先生のもとで勉強するんだぞ?」

「はい」


 この世界でも勉強っていうけれども、皓君と一緒なら乗り切れるかもな。

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