第5話 来世の世界

 ふぁーー。

 良く寝たーー。


 いつもと変わらない朝だ。


 うん。いつもと同じだな。

 なんだかさっきまで、怖い夢を見ていた気がするんだよね。


 私は、皓君と一緒に仏像を見ていたはずで。

 いきなり妖魔なんて言うのが出てきて。


 気付かない間に、部屋の中にお父さんと、お母さんがいた。


 そういえば、ここって、病院なのかな……。

 ここは、どこだ……。


「千鶴子、大丈夫だった?」

「心配したぞ、目を覚ましたか?」


 さっきまでのは、夢……だよね……?

 妖魔なんていうものが、現実にいるなんておかしいもんね。


 私は修学旅行中で、確か大きな地震があって。

 それを、晧君が助けてくれて。


 うっ……。

 頭が痛い……。

 視界にもやがかかって来て、段々と暗くなっていく。


 お父さんとお母さんは、黒いもやの中に消えていってしまった。


 すると、黒いもやの中から、手と脚が無数に生えている、おぞましい姿の妖魔が現れた。



 ――ガヤーーーッ!



 ◇



「はっ……!」

「お、気が付いたか」


 皓君が目の前にいた。

 ……これは、現実?


「いきなり力を使い過ぎたんだな。まだ横になってろ」


 ……記憶がはっきりしてきた。

 さっき、私は妖魔と戦っていたんだ。


 妖魔と戦った部屋で、私は寝ていた。



 私の手から光が出て、それを食らわせた妖魔は消えていったんだ。

 巫女姫の服っていうものを着させられて。

 ここで着替えさせられるっていう辱めを受けて。


 そうだ、私の服……!


 布団を剥ぐと、服は寝間着のような、薄い衣一枚になっていた。

 この服は、最初に目覚めた時と一緒……。


 私の行動を見ていた皓君は、頬を赤らめる。

 この薄い衣装が原因だって言うのは、なんとなくわかった。


 ……恥ずかしい。

 けど、皓君も、そんな表情が出せるのかって思った。



「恥ずかしいっていう感情も持った方が良いぜ、

「なに、その呼び方! 顔赤くして恥ずかしがってたのは、皓君もでしょ!」


 皓君はいつものように、すました顔に戻っていた。


「そろそろ行くぞ」

「えっと……、どこへですか?」


「まずは、意識が戻ったことの報告をしに行く」



 ◇


 そう言って、皓君に連れてこられた部屋には、お父さんとお母さんがいた。

 皓君は、膝を付き、畏まってお父さんとお母さんへと報告を始めた。


「皓、ただいま戻りました」

「よくぞ戻った」


 お父さんは、威厳がありそうに答えてきた。

 なんだか、おかしな感じ。


 変な状況に対してツッコまずにはいられず、畏まっている皓君に小声で話しかけた。


「(皓君、あれ、私のお父さんとお母さんじゃん? やっぱりここは日本なの? それに何あの格好? 昔の中国の王様みたいな恰好。お父さん達って、コスプレする趣味があったの?)」



 私の声に反応して、お父さんが私に向いた。

「千鶴子よ、聞こえてるぞ。コスプレとは何のことだ?」

「えっ……、コスプレ、じゃん……?」


 私が動揺していると、皓君が代わりに答えてくれた。

「千鶴子は、まだ記憶が混同しているようです。もう少し話す時間をくださいませ」

「分かった。今まで通り、千鶴子のことはお前に任せる。とにかく無事で何よりだ」


「はいっ!」


 低い姿勢から礼をして、私たちはその場を後にした。



 ◇



 部屋を後にして、先ほどの部屋まで戻るため廊下を歩く。

 気になったので、皓君にさっきのことを聞いてみた。


「皓君、あれってどう見ても、私のお父さんとお母さんだよね? そもそも何で、皓君と面識があるの?」

「色々と説明しなきゃな。今前お前がいた世界と、この世界は別世界なんだ」


「……ほぇ」


 別世界。

 確かに、妖魔なんている世界は知らないけれども……。

 私は、そんな世界に迷い込んでしまったの……?

 これも夢だったりするのかな……?



 疑問は湧いてくるが、皓君の真面目な顔をするので、皓君の反応を待った。

 いつも真面目だけど、より一層真面目な顔で皓君が語りだした。


「輪廻転生って知っているか?」

「う、うん……」


「お前は、前の生では死んでいるんだ」

「……そうなんだ」


 頭から血流してたもんね……。

 私死んじゃったんだ……。


「そこから見ると、今は『来世』と呼ばれるところだ。見たような顔ぶれがいると思うが、前世で関わりが深い者は、来世でも関係が続くことが多い。そうやって魂が関わり合っているんだ」

「へえ……。そう、なんだね……?」


 襖があいて、部屋の中がちらっと見える。


「その部屋の中にも、なんとなく見たことある顔がいるかもな」

「あ、あの人、先生に似ている」


「そうだな。ちょうどこの世界でも同じ役割だ。お前に光の妖術を教えてくれた先生だ。覚えておけ」

「そうなんだね」



 頭を少し切り替えないといけないかもしれない。

 本当に私は、別世界に来ていて。


 お父さんとお母さんみたいに関わりが深い人は、この世界にも同じ関係性でいることが多い。

 そう言われると、あの先生も私を良く面倒見てくれたなぁ……。

 一人ぼっちでいることが多い私だったけど、よく構ってくれたんだよね。


 それって、きっと関係性が深いって言うことだったんだね。


 ……って、あれ?

 ……そう言う事であれば。


「皓君が言うことが正しいとしたら。もしかして、私と皓君の繋がりも深いっていうこと?」


 私の質問に、晧君の顔はみるみる赤くなった。


「べ、別に、俺とお前は、そんな関係じゃないからな」

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