第4話 妖魔の討伐

 やっぱりどう見ても、皓君だ。

 私を守ってくれたんだ。


「どうした? その顔を見ると、こっちの世界の記憶は戻ってないらしいな」


 皓君は、少し笑顔になっているようにも見えるけれども、仏頂面が取れない顔。

 やっぱり、この顔は造君だ。


「皓君、だよね? どうしたの? その恰好……」

「その名前で呼ぶのは、やめよう柳千鶴子」


 やっぱり皓君だ。

 何、このパフォーマンス。

 サプライズするにしても、意図が分からないよ。


 ――ガヤーーーッ!!



 さっきの妖魔と同じ声が聞こえた。


「まだいたのか。それも何匹もいる……。柳千鶴子、衣装があるなら、早く着替えて準備をしてくれ」

「なんなの、そいつら。また妖魔が来るっていうの? というか、私この状況で着替えるの?」


 私の着てるのは、薄い衣。

 寝ていただけあって、お世話しやすいようになのか、薄い衣一枚だけ。


 中身は、ご察しの通り。

 やっぱり、私の体じゃんと思うくらいの発育具合……。


「なんなのよ。よくわからないけれど、着替えなきゃいけないの? 全部見えちゃうじゃん」

「恥ずかしがってる場合じゃないんだよ。早くしてくれ。俺一人だけじゃ相手しきれない。お前も危ないんだ!」


 皓君が、そんな強引な人だとは思わなかった。

 ここが別な世界かと思ったけれども、皓君もそのままだし。


 むしろ、私がそのままだし。


 ……って、あれ?

 ……私こんなに髪の毛長かったっけ?


 黒い妖魔が姿を現した。

 今度は三体もいる。


「早く!」

「あ、はい」


 皓君の背中の辺りで、着ていた衣を脱いで、新しく持って来られた服に袖を通す。

 オーダーメイドみたいに、私の手の長さは私にぴったりだった。

 衣を纏うと、衣が光り出した。


「すごい、なにこれ」

「どうした。……って、早く着替えてくれ」


 あ……。

 私の体、見られた?

 声をかけたのは、私でしたですけれども。


 やだやだ。

 というか、皓君でも、恥ずかしがるんだ……。

 ふふ。珍しいもの見れたな。


 まぁ、晧君に見られる分には良いかな。



 もう片方にも、袖を通す。

 帯なんかは一人じゃ閉めれないから、前がはだけている状態。

 こんなのでいいのかな?


「着れたら、手を前にかざして。妖魔を浄化させあるイメージを持って。それが連想できるような言葉をなんでもいいから叫んで」


 皓君ったら、いきなりだなぁ。

 そんな、ハードル高いことをおっしゃる。


 人に対して厳しいところが、あるよね。

 そんなだから、皓君は友達ができないというのに。


 まぁ、厚顔な私には、お茶の子さいさいですけれども。

 厚い面の皮に守られて、中二病の心は未だ健在ですよ。

 喜んで、叫びましょう。


「妖魔達、今から私はあなたを私は滅します」


 両手を前にかざして、イメージイメージ。

 思ったままを言葉に。


 ポーズが違うな。こっちだな。

 祈るように、手を顔の前で組む。


「黒いあやかしよ、そなたが聖なる光を纏いし時、おのずと体は霧散する」


 イメージイメージ。

 もっと強く。


「妖魔よ。私はそなたを憎んではおりません。また来世、今度は良き出会いとならんことを……」


 皓君は、刀を抜いて構えた。


「柳千鶴子、ちょっと長いぞ……。そろそろ締めてくれ……」

「皓君は、せっかちですよ。妖魔と言えども別れの挨拶は大事でしょ?」


 私に何ができるのかは、よくわからないけれども。

 私に対して、詠唱をさせるようなふりをしてきた皓君がいけないんですよ。


 独り言が多くて誰からも相手にされていないような、ぼっちの私に対して。

 中二病満載な言葉を語るように言われたらね。

 ……けど、そろそろ締めたらいいか。


「我の心からの祝福を受け取って下さい。妖魔に、光あれー!」


 私の手が光り出したかと思うと、その光が妖魔の方へと向かって行った。

 それが妖魔にあたると、カメラのフラッシュのようにピカッと光った。


「うっ……!」


 眩しくて目をつぶってしまったが、光が落ち着くと妖魔が霧のように消えていった。


「相変わらずと言えば、そうだけど……。よくやった」


 どうにか、危機を脱したらしい。

 周りでおびえていた和風の人たちも、顔を上げてこちらへ向かってきた。


「姫! よくぞお戻りで!」

「ありがとうございます!」


「皓君、ちなみに、これはどういうことですか?」



 皓君は、刀を鞘に納めると、私の方に向いた。


「まずは訂正しないといけないな。俺は、お前の思っている『望月皓』じゃない」

「いや……、どこからどう見ても皓君じゃない?」


 皓君の顔を向いて、じーっと、睨みつける。


「……そんなに見つめられると、困る」

「良いではないですか。減るもんじゃないですし」


 あれ……?

 なんか、気が抜けたのか、頭がふらふらする……。

 立ってられない……。


 ――ドサッ。



「おいっ! 大丈夫か? しっかりしろ、おい!」


 ……あれ、このシーン。

 どこかで見たことあるような。


 また、皓君の心配する顔が、目の前にあるよ……。

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