第3話 妖魔の出現

 ここは、私が元いた場所とは根本的に違うようです。

 どうやら、本当にどこか違う世界に来てしまったのかも……。


「姫が目覚めたとあれば、準備をせねば」

「はて? 何の準備を?」


「姫様のお力で、近隣の妖魔を打ち払うための準備を致します」


 そう言って、男の人は部屋を出て行ってしまった。

 私の力で妖魔を? そもそも妖魔とは?


 さっきから疑問しか湧いてこない。


 姫って、そういう職業だったんですかね?

 もっと、ちやほやされるような生活を期待していたのですが、そうではないようです。


 妖魔とは、妖力とは……。

 全部聞かねばなりませんね。

 私には、そんな記憶は無いのですから。


 女性の方が残っていたので聞いていましょ。


「すいません。つかぬ事お聞きしますが、妖魔とは何でしょう?」


 少し驚いた顔をして答えてくれた。


「まぁ……。姫様が妖魔を忘れてしまわれるとは。我々人間を苦しめる種族でございます」


 そんなものがいるなんて。

 怖い世界もあったものです。



 ……やっぱり、これって夢なのかな。

 皓君に助けてもらった時に、頭を強く打ち過ぎたかも知れないですね……。


 男の人が戻ってきました。


「光の巫女姫の衣装をお持ち致しました。そちらを用いて、妖魔討伐のご準備を」


 持ってこられてた衣装は、キラキラと光を纏っていた。

 姫には、専用の衣装なんていうものもあるんですね。

 ……ん? 


 その時大きな音と共に地面が揺れた。


「くつ。姫の意識が戻ったことを妖魔が察知したのか!?」


 この部屋は、和風の間のようになっている。

 部屋を仕切る襖があるのだが、それが段々と奥の部屋まで開いていった。


 開け放たれた襖の向こう側に、おぞましい何かが見えた。



 ……あれが妖魔。


 建物の外に見える竹林。

 その竹に掴まって、妖魔と思われる物体がいる。

 竹を掴んでいあるのは、手なのか、脚なのか。

 体から何本も出ている。

 それで、体を宙に安定させている。


 そこから、キョロキョロと辺りを見回している。

 黒い体に、黄色に光る目。


 しばらくすると、キョロキョロとしていた目が止まった。

 強くこちらを睨みつけている。


 この人達の言う通り、私を探していたんだ。


「くっ!やっと姫が目覚めたというのに。準備が出来ていない」


 私を見つけれるなり、妖魔は建物の中に飛び込んできた。


 建物に入ると、妖魔は、早い動きで獣のように走ってきた。



 竹から放した手足を使って走る。

 おぞましい姿。


 さっき、三十三間堂で頭から血を長してしまっていたから、死んでしまったのかと思ったけれども。

 ここでも、私はすぐに死んでしますのでしょうか……。


 この人達の言動からすると、私は巫女姫というものらしくて。

 せっかく、巫女姫というものに生まれ変われたと思われるのに……。。

 いきなり、この世界でも死んでしまうのか……。。


 次の輪廻では、平和な世界が良いな。

 そう思って目をつぶると、声が聞こえてきた。


「おいおい。諦めるの早すぎないか? 巫女姫の力も使わずに」


 聞き覚えのある声。

 うっすら目を開けると、私のベッドの横に、新しく見る男の人が立っていた。


 ちらっと見えた横顔は、皓君のように見えた。


 男の人は、迫ってくる妖魔に向かって走っていく。

 和風の服の下に、籠手を着けているのが見えた。


 腰にさした刀に手をかける。

 その瞬間、妖魔は縦に真っ二つになっていた。

 切られた妖魔は、うめき声を上げながら、黒色の煙を残して消えていってしまった。


「ふう。ギリギリ間に合ったな」


 男の人は刀をしまうと、私のところに寄ってきた。


 声は、やっぱり皓君。


 忘れもしない、私の好きな顔。

 顔も、ちゃんと皓君。


 和風な格好をしているけれども、何があったんだろう。


「またかよ。俺の顔ばかり、ぼーっと見るじゃねーよ」

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