第2話 目覚めると、私は『姫』だった。
うー。眩しい……。
もう、朝か……。
起き上がろうとすると、体が全然動かない。
「……う、体が痛い」
「おぉ! 気付かれましたか! 良かったです、姫!」
……姫?
それって、私のこと?
聞きなれない声だったけれども、今確かに私のことを姫と呼んだよね?
私は、オタサーの姫というものに憧れていた時もあった。
姫と呼ばれたくて、妹に言い聞かせていたこともあったし。
包み隠さず言うのであれば、どうしても姫という単語を聞きたくて、前髪姫カットにしてるんですよ。
中学生の時からずっと。
こういうところが、友達ができないところだと自覚はしているんです。
そうは言っても、性格が良くなるわけでも無く。
そんな私のことを、やっと姫と呼んでくれる人が現れたということでしょうか。
ちゃんと聞いて確かめてみましょう。
もし人違いであれば、訂正する必要がありますし。
私の聞き間違えだとしたら、私は耳鼻科へ行く必要がありますし。
「……あの、すいません。姫とは、私の事でしょうか?」
私は、聞くことに臆することはありません。
自称、厚顔。
……いえ、正確じゃありませんでした。
自他共に認めるほどの厚い顔の持ち主です。
けれど、姫と聞こえてきた日には、やっぱり確かめたくもなります。
姫と呼んだ男の人は、驚いた顔をしています。
よく見ても、見たことない人。
この人は、初対面の人だな……。
なんだか、古風な格好をしているし。
教科書で見た『平安時代』の人のような、切れのある細目。
なんだか、私の好きな、お顔の系統です。
やはり、古風な顔は良い……。
そんな顔が驚く様もまた良くて。
じっと見つめて待っていても、私への返事が無いので再度聞いてみましょう。
「姫とは、私の事でしょうか?」
そうやって、もう一度聞いてみる。
「あ、はい! そうでございます。姫様は意識がお戻りになりましたが、記憶の方はまだお戻りになっていないようで……」
記憶?
はて……?
私は全て覚えています。
生まれた時からずっと覚えています。
私の名前は、柳千鶴子。
幼少期は、ちやほやされて育ちました。
何故かというと、私は、柳家の三番目の子にして初の女の子だったのです。
それはそれは、お父様、お母様を中心に、お兄様達も私のことを『姫』と読んで下さいました。
ちゃんと覚えていますとも。
その時から、私は自称『姫』です。
「姫様、意識がお戻りになられたのですね」
別の女性が、部屋にやってきました。
先程の男性と同じく、古風な着物を着ています。
鈍感な私も、そろそろ気づいてきました。
私が、『姫』と呼ばれるこの世界はおかしい。
実際に、私が姫ともてはやされたのは、幼少期だけで。
六歳下の妹が生まれてからは、誰からも『姫』とは呼ばれなくなっていました。
そんなことを悲しく思って。
妹だけが、私このことを『姫』と呼んでくれていました。
……いえ。嘘です。
むしろ、無理やり呼ばせていました。
いかんいかん。
記憶が混同しているとは、このことなのでしょう。
状況を把握することに努めましょう。
「ここは、どこなのでしょうか」
私の質問に、女性の人が答えてくれた。
「ここは、王宮から少し離れた、鶴の間でございます。姫様が意識を戻されるように妖力を注ぎ込むための部屋でございます」
はて……?
やっぱり、聞いたことも無い。
王宮という単語しか頭に入ってきませんが……。
王宮ということは、私は本当に姫なのでしょうか……?
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