人見知りがちな巫女姫と、笑わない王子様

米太郎

第1話 生前の記憶

「そんなに見つめられると、困るな」


 真正面から、私の顔を見つめ返した望月もちづきこう君がそう言う。

 私としたことが、いけないいけない。

 ついつい見てしまった。


 切れ長の目。

 横に閉じた口。

 筋の通った鼻。

 少しふくよかな福耳もある。


 まさに、私の理想の顔。


やなぎ千鶴子ちづるこ、まだ見つめるの?」

「ああ、すいません。良い顔をお持ちだなと思いまして」


 皓君は飽きれていたが、依然として顔は整っていた。


 こんな顔なら、ずっと見てられるな……。

 皓君は首をかしげながら、順路をへ歩いていった。


 私達は、修学旅行で京都へ来ている。

 今いるのは、三十三間堂。


 三十三間堂は、私が一番来たかったスポット。

 ここには、千体にも及ぶ仏像が並んでいる。


 長いお堂になっており、仏像が縦に列になって並んでる。

 一列には、十体ずつ仏像がならんおり、それが奥お方までずらり。

 全部で千体あるらしい。


 この仏像たちは、一つ一つが別の職人さんによって作られていることで、顔が全て違っているのだ。

 こんなに違った顔の仏像がいるので、会いたい人の顔に会えると言われている。


 私の会いたい人の顔を思い浮かべて、どこかに同じ顔の仏像がいないかなと見ていたら、ついつい本物の皓君の顔を見てしまっていたのだ。

 間違えちゃいましたね。

 いかんいかん……。


 晧君の顔は、瞼の裏に焼き付いているんです。

 念入りに探せば、きっといるはず。

 晧君と同じ顔、同じ顔。

 どこだろうな。


「おい、ゆっくり見てると置いてくぞ」


 怒っていても、暗君は同じ顔してる。

 いつ見ても、カッコいいな……。



 なぜ、私と皓君が二人きりなのかといえば、遡る事一カ月前。


 修学旅行で行動を共にする班を決める時に、恥ずかしながらも、私から申し出たんです。

「是非とも、仏像を一緒に見たいです」と。


 そうすることは必然でして。

 私達二人が同じ班になることは必然。

 本当は、私から言い出す必要も無かったんですけれども。


 何故かと言えば、皓君も私も、誰からもグループに誘われなくて、余っていたのでした。

 最後まで余った私達。

 余っている人同士で、班を作ることになってたんです。

 なので、別に私が言いださなくても班にはなっていた。


 けど、無理矢理一緒の班になってというよりは、自分で選択したと。

 そういう気持ちで、修学旅行には来たかった。

 余ってた者同士でなくても、私は皓君と同じ班になりたかったですし。



 余っていたのは、全部で四人。

 私と皓君の他に、班にはもう二人いるんですけれども、その二人は体調不良を理由に修学旅行に来なくって。

 なので、実質私と皓君の二人だけの班なのだ。


 グループに入れない子というのは、何かしら理由があるもので。

 私と暗君はまだ良い方で、修学旅行にはちゃんと参加している。


 運命ってやつなのかもしれないな。

 私たちの班は二人きりにしてくれたことに対して、誰にお礼を言えば良いのか。

 神様かな。

 いや、仏様。


 目の前にいっぱいいますので、お礼を言いましょう。

 ありがとうございます。

 手を合わせて、心の中でお礼を言う。


 心なしか、仏像も笑っている気がした。

 やっぱり、仏像さんは全員優しいですね。



 そんなことをしながら、皓君の顔を探しながら歩く。

 私は、どちらかと言えば、神様よりも、仏教の考え方の方が好きで。

 輪廻転生を信じています。


 世を移ろいゆく魂の存在を信じている。

 こうやって、皓君と一緒の班になることを考えれば、私も暗君も、実は別の世界では互いに愛し合っていた。

 そんな妄想が捗りますよね。


 ……その設定良いな。

 あとで忘れないように、メモしておこう。



 そう思っていると、いきなりガンっと大きな音がした。

 音とともに、急に地面が揺れ始めました。


「あれ……? 皓君、これは地震でしょうか……?」


 皓君は慌てて、私の方へと走ってきた。


「ここでも、ボケっとしてるんじゃねぇよ」


 慌てている晧君も、それはそれは整った顔をしていまして。

 眼福とは、このことで。

 私の理想のお顔。


 そんなことを考えている間に、お堂はグラグラと揺れたかと思うと、天井から軋んだ音がし始めて、ところどころ、天井が崩れた降ってきた。

 私の真上は大丈夫なのかと、天井を見あげた瞬間、晧君の声が聞こえた。


「千鶴子! 危ない!」


 天井が、大きな塊で降って来ていた。

 間一髪、皓君が私に覆いかぶさるようにして守ってくれた。


 皓君に倒されて、私には皓君の顔だけが見える形に。


 ――ガラガラガラ。


「あ、ありがとう……」

「大丈夫。お前を死なせるわけにはいかないからな……」


 なんか、いつも以上にカッコいい皓君。

 天井が降ってくる時に、私は勢いよく地面に後頭部を打ち付けてしまったみたいで。

 生暖かい液体が、私の頭から流れているようだった。


 私の意識は、そこで無くなった。

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