第11話 最上階


「スチュワードさんも人がいい。トロワが俺達のおかげだって言っただけでそれを信じて、最上階の端の部屋をくれるとはな!」


 レイは笑いながら、ソファーへと身を沈めた。


 アンデリーの街にいた泥棒退治人の噂を塗り替えるように、今は仕事の斡旋の話で持ち切りだ。隣街に工場があるため、アンデリーの街で働く人が不足していたようで、ほとんどの浮浪者の就職先はすぐに見つかった。元々、浮浪者となっていた人間は工場をクビになっていた人物が多く、仕事を失った後は、大手の者が自暴自棄になっていたのが浮浪者達がいた原因だった。


 仕事が決まらなかった浮浪者は、スチュワードが面倒を見ると言い出した。


 しかし、またなんの見返しもなしに受け入れたわけではない。


 スチュワードにトロワが家計の心配をしていたことを話すと、今までのむやみやたらと浮浪者を受け入れていた自分の態度を反省して、今では浮浪者に仕事に必要な勉強を教えて、独り立ちするための術を叩きこんでいるらしい。

 仕事をするようになったら、今までのお金を払ってもらう契約をしている。にしては、破格の値段ではあったが。


「おい、オスカー。紅茶だ、紅茶。新たな俺達の事務所にふさわしい一杯を頼む!」

「完全に召使い扱いだな……」


 ソファーに座ったレイに紅茶を催促された金髪蒼目の少年――オスカーは大きなため息をついた。持っていた箒を壁に立てかけて、扉を開いて、備え付けのキッチンでお湯を沸かす。


 彼こそは、先日まで泥棒退治人として、その名を馳せていた少年だ。トロワと浮浪者達が新しい仕事だ、生活だ、と浮足立つ中、罰せられるようなことをなにもしていないこの少年は、レイとムゲンが預かることになった。

 誰もそのことに異を唱えなかった。というよりは、誰も、レイとムゲンがこの少年を無理やり連れ帰ったことを知らない。


「アンドロマリウスを封印していたロケットペンダントを持ってたんだ。あのロケットペンダントを誰からもらったのか思い出すまでは解放しないからな、餓鬼」

「もうオレが餓鬼って言ったこと、忘れてくれよ……いつまで根に持ってるんだよ、餓鬼かよ……」

「また餓鬼って言ったな!」

「あぁ、ごめん! 言ったよ! 言ったけど、忘れてくれよ!」


 ムゲンは自分よりも遥かに年下の二人のやり取りに思わず笑った。

 悪魔の解放を目的とするこの事務所に人が依頼をしに来ることはないだろうが、しばらくは三人共退屈しない日々を送ることができるだろう。


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