第10話 大団円
「その子が泥棒退治人? 私よりも小さい子じゃん!」
トロワと今回作戦に動員したゴロツキが待つアパートメントに戻ると、トロワはムゲンによって縛り上げられた少年の姿を見て、驚きの声をあげた。
「トロワ、ずっと叫んでて喉は大丈夫?」
レイの言葉にトロワは胸を張って頷いた。
「大きな声を出すのは得意だから! 毎日、片付けをしないこの人達を怒ってるんだから、慣れたものよ!」
泥棒退治人の少年はハッと息を呑む。トロワの声が先ほどまでぬいぐるみを盗まれたと叫んでいた少女の声だと気づいたのだ。
「オレのこと、嵌めたな!」
「嵌めた以外、なんだと思ったんだ。偶然とでも思ったのか、この餓鬼」
レイが大袈裟に手をあげて、やれやれと肩を竦める。
「まず、ベックさん……お前が勘違いで泥棒扱いして仕事をクビにしてしまったこの人から話を聞いて、泥棒をしているかどうかの判断が曖昧であることに気づいた。泥棒がこの街で行われた瞬間、自動的に荷物を取り上げているわけではない……それなら、泥棒退治人は泥棒が起こったと気づいて、対処をしている可能性がある」
レイはしっかりと金髪の少年の顔を覗き込むとにんまりと笑った。他の人間には聞かれないように囁くように説明する。
「お前が、どこから見張っていて、どのように力を行使しようとしていたのかは分からないが、数を打てば当たると思ってな。ぬいぐるみを持たせたここの住人全員に街を走り回ってもらっていた。もちろん、ぬいぐるみは金をやって自分で買わせた。そうしないと自分の物にならないだろう?」
「ここにいる全員に……?」
少年は目を丸くして、周りを見渡した。
アパートメントの部屋に入っている人間も含めて、この廊下にいる人間は二十人を超えている。
全員が、泥棒退治人によって、路地を追われることになった人間だ。泥棒をしていると間違われてしまい、クビに追い込まれたベックのような人間もいれば、本当に泥棒をしていた人間もいる。
しかし、そのような人間が盗みもできず、他に生きる術も見出せず、人生を悲観していたところに手を差し伸べてしまったのがこのアパートメントを管理しているスチュワードだった。
その結果、泥棒退治人の功績により、路地を追われることになった浮浪者達はこのアパートメントに辿り着き、定住しようとした。
「もちろん、報酬は支払ったから安心しろ。その報酬で身なりでも整えて、仕事を見つけてくれ。できれば、住みこみの職場がいいな。俺はこのアパートメントの一室を借りたいんだ。一室ぐらいは空けてもらわないと困る」
レイの言葉にアパートメントを占拠していた浮浪者達が顔を見合わせる。レイが彼らに今回の作戦で渡した金は彼らが一ヶ月間、工場で働いて稼ぐことができる程度のお金だったが、お金を持っていれば、仕事がもらえるわけではない。
浮浪者達が顔を見合わせていると、そこにトロワが口を出す。
「聞いて。私、パパと話したの。このままじゃいけないって。だから、仕事を斡旋できるように街のみんなと協力できるように話し合おうって」
トロワは、ぽかんと口を開けて呆けている浮浪者達の先頭にいたベックに歩み寄った。
「その話をパパが街の人にしたら、一人のおばあさんが人を募集しているって言ったの。最近、腰を悪くしたからお店のことを手伝ってくれる人が欲しいって。でも、その人、探している人がいるみたいだから手伝ってほしいって言われたわ。二ヶ月前に噴水広場に行く西の階段の前で荷物を持ってくれようとしたちょっと目つきの悪い男性を探してるんですって」
「二ヶ月前って……」
ベックは目を見開くと、その細い目に服の袖を押し付けた。
その様子を見て、ムゲンは肩を竦めて、レイを見た。
「泥棒退治人を退治しなくても、この街は自分達で問題を解決できるみたいですね」
「そもそも、俺は人の悩みを解決しようなんて思ってない。悪魔の解放もできて、このアパートメントの部屋も空けば一石二鳥だ」
レイとムゲンと、捕まえた泥棒退治人を他所に、トロワと浮浪者達は、仕事先が見つかったらしいベックへ祝いの言葉を投げかけていた。
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