第5話 住み着いている者たち


 スチュワードが管理しているアパートメントは四階建て。部屋数は階に五部屋ずつ。

 全部で二十部屋。

 その全てに人がいる。


 部屋からはカードゲームの役を叫ぶ声が聞こえる。扉は開いたままだ。レイがその部屋を覗き込むと、そこには土で汚れた服を着た数人の若者がいた。部屋の中に家具はなく、床には折れ曲がったカードとリンゴの芯が落ちている。


「あ? なんだ、子供か?」

「ああ、子供だ」


 決して、部屋の中には足を入れないものの、部屋の中を覗き込む子供の姿は目をついたのだろう。一人の男が廊下にいるレイを見たと同時につられて、他の男性たちもレイのことを見る。

 アパートメントの廊下は綺麗に掃除されているものの、この開いた扉の向こうの部屋は廊下とは比べ物にならないくらい汚れている。カーペットや家具が設置されていないから比較的、まだ綺麗に見えるだけで、もしここが生活感の溢れる部屋だったら、きっと虫が湧いていたことだろう。


「誰かの子供か? んなわけねぇか。ここに裕福な奴なんていないしな」


 げらげらと笑う男につられて、他の男が笑う。


「この部屋はお前たちが借りてるのか?」


 二十代前後の男性五人に対して、物怖じせずにレイは首を傾げながら、尋ねる。しかし、不躾な質問に対して、男たちが怒ることはない。この程度の子供に怒りをあらわにすることもないと思っているのだろう。

 要するに相手が子供だからとレイはとことん舐められているのだ。


「借りてる……借りてるかぁ、そうだなぁ」


 にやにやと男は笑う。男性たちは目配せをして、なにかを思い出したかのように笑い合った。


「ここのオーナーが快く貸してくれるんだよ。このままじゃ、屋根のあるところで寝れないから死んじゃう~って言ったら、そりゃ大変だってな!」

「金は?」

「そんなの俺達が持ってるわけねぇだろ!」


 げらげらと男性たちが笑う。

 ふむ、とレイは顎に手を当てた。

 レイがその部屋から離れて、他の部屋を見て回ってみても、他の部屋も似たり寄ったりで、仕事をしていなさそうな人間が部屋の中でカードゲームをしていたり、寝ていたりと生産性がまったくないことをしているだけだった。


「オーナーが金ももらっていないのに部屋を貸し出しているのは本当のことだったな」


 ムゲンはため息をついた。

 人間が人に施しを与えるために必要なのは、余裕だとレイは考えている。余裕があるからこそ、人にお金を渡すことができ、人に優しくできる。

 むしろ、スチュワードのようにお金も持っていないのに、このようにお金を持っていない人間に部屋を貸し出すことのできる人間は異常だと言ってもいいだろう。

 自らの破滅の未来が見えているにも関わらず、人に優しくしてしまう人間。


「……ああいうのを聖人って言うのかもしれないな」

「聖人の末路がいいものとは限らないですが……」


 レイの独り言にムゲンが反応すると同時に、レイとムゲンの前に小さな人影が現れた。

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