第3話 気のいいオーナー


 十六か所中、他の場所を勧めてきたのは十六か所。


「悪いがこの街で空いている部屋を持っているオーナーは、全員訪ねたんだ」


 レイの発言に最後のオーナーは目を丸くしたが、すぐに「それはそうだろうな」と納得した顔をして、つるりとした頭をハンカチで撫でた。


「そうですねぇ、不動産というものはどこもいいところと悪いところがありますから、我々はお互いのいいところを認め合っているんですよ」

「その結果、客は逃がしているけどな」


 オーナーは「はは」と笑うが、その頬が引きつっているのは言うまでもない。


「それにしても、空いている部屋を持っているオーナーが十六人しかいないなんて、この街も人気なんだな」


 レイは席を立って、三階の窓から道を見下ろす。ぽつぽつと並ぶ屋台と、手を繋ぐ親子や仕事中であろう人が歩いている通り。平和な街だ。こんな穏やかな街で過ごしたいと思う人間は少なくないのだろう。


「そうですねぇ、この街には気のいいオーナーもいて、そこはすぐに人が埋まるんですよ。そのせいかもしれないですね」

「へぇ、気のいいオーナー?」

「何せ、金をとらないとか」


 どちらからとも言わずにレイとムゲンは顔を合わせた。

 金をとらないという言葉に反応した二人をオーナーは見逃さない。


「浮浪者でも出産間近の雌猫でもなんでもかんでも受け入れるいい人ですから、もしかしたらお二人のお眼鏡にかなうかもしれませんねぇ」


 十六人目のオーナーが自分達のことを金がないと勘違いしていることにはレイもムゲンも気づいていたが、この際、それを否定するメリットは二人になかった。

 レイとムゲンが口を閉じているとオーナーが話を続ける。


「部屋は空いていないと思いますが、そのオーナーの住所をお教えしましょう」

「ああ、ありがとう。訪ねてみる」


 メモに住所を記してもらい、レイとムゲンは建物を出た。


「お眼鏡にかなうと思います?」

「今のところは分からないな。金をとらないのは、金持ちだから浮浪者に部屋を貸したところで大して懐が痛まない慈善家かもしれないし、嫌々部屋を貸してるかもしれない。ともかく、行ってみないと分からないな!」


 スキップするように足を前に進めるレイの背中を見て、ムゲンはため息をついた。


「十六か所もなしのつぶてだった人間の足取りじゃないな……」

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