サヤちゃん

サヤちゃんが来ると、姉ちゃんは数年ぶりの再会を喜ぶかのように大声を上げた。数日前にも会ってたくせに、どうしてこんなに大袈裟に喜ぶのだろうといつも思う。


二階の部屋がバードハウスのようにやかましくなった。ユキトは気を紛らわせるためにゲームのスイッチを入れる。たまらず、と言った様子でお父さんもコントローラーを握った。


いつもは下手くそだから一緒にやりたくないのだが、今日は妙な仲間意識もあって歓迎する。お父さんが足を引っ張るせいで、対戦は数回連続で負けた。


「ユキ、お姉ちゃんの部屋にお菓子を持って行って」


お母さんが、ユキトがコントローラーを離すタイミングを見計らって声をかけてきた。指差した先には、いつも家にあるものより上等なお菓子が丁寧にお皿に並べられている。


なんてことを言い出すんだ、とばかりにユキトはぶんぶんと首を横に振る。


「嫌だよ。姉ちゃんにも邪魔すんなって言われてるし、行きたくない。殺される」


「殺されないから大丈夫。持っていきなさい。お母さん、ネイルしちゃったの」


「じゃあお父さんが持っていってよ」


お父さんはよっこらせ、と立ち上がった。


持っていってくれるのかと思いきやお菓子を素通りして、ぱたりとトイレに閉じ籠る。ユキトは非難の声を上げた。水の流れる音がする。



まあいい。

姉ちゃんも友達の前ではまだ取り繕っているはずだ。そこまで攻撃的にはならないだろう。お菓子を溢さないように階段を踏み締める。


問題はその友達だ。

サヤちゃんたちは、たかだか三つ下のユキトをまるで赤ん坊のように扱うのだ。自分より年下の子供がいることが嬉しいようだ。


ちょっと顔を覗かせると「弟くん可愛い!こっちにおいで」と手招いてくる。ユキトは、神妙な顔をする姉と、その友達のどちらのご機嫌を伺えばいいのかいつも分からない。どちらを選んだとしても、入ったら「なんで入ってくるんだよ」と怒られるし、無視をすれば「なんで無視すんだよ」と追及される未来が待っている。デメリットしかない。


今日はサヤちゃんに何を言われても入らないぞ、と心に決めた。用事があるとかなんとか言って下に降りてやる。そうすればまだ角は立たないだろう。


扉をノックする。


きゃあきゃあ騒いでいた部屋がしん、と静まり返った。声が震えないように気をつけながら、ドア越しに叫ぶ。


「姉ちゃん!お菓子!」


扉が開いた。


身長がユキトより頭ひとつ分大きい姉ちゃんが立ちはだかる。お菓子を持ったユキトを見るなり、いいことを思いついたと言わんばかりにニヤリと笑った。


友人たちを振り返り、こう叫ぶ。


「ねえねえ、サヤちゃん。ユキも占ってやってよ!」


そして向き直ると、声色をワントーン落として呟く。


「入れ」


その落差に、お盆を持つユキトの背筋が震えた。女って、女ってこえー!

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