第8話「バンス師匠の過去」
第八話「バンス師匠の過去」
バンスは魔界のふもとの村で生まれた。
幼いころから道場に通い、剣術にて優秀な成績を残したバンスは、18の時、道場を開くことを許可された。
道場は30年ほど続いた。初めこそ、門下生は道場の仲間と募集で集まった数名だけであったが、他道場との試合を積み重ね、徐々に評判を上げていった。
最終的に、道場には50名ほどの門下生が集い、御前試合の常連に名を連ねるまでとなった。
「さて、今日も修業を始めるぞ!」バンス師匠が門下生へ告げる。あの日、道場には十数人の弟子が集まっていた。
「よし、集まったな。いいか、お前ら!今日からお前らの相棒はこいつだ。」
バンスは門下生たちに木刀を渡し始めた。
すると、一人の少年が前に出て言う。少年の名はドゥーム。当時、道場で一番弟子の少年だった。
「先生、なぜ木刀ですか?真剣じゃないと実戦には使えないと思いますが。」
「何を言っている。今は木刀でも十分実戦で使えるだろう」
「ですが、真剣は実戦ではものすごい威力を発揮すると聞いています。なぜ先生は木刀で我々に修行をさせるのでしょうか?」
「それはだな、確かに真剣の威力はすごい!だが、その反面使いこなすのには相当の技術と実力が必要だ!」バンス師匠は叱るように言った。少年は不満げな表情をしている。
「つまり、我々に殺しの実力がないから、真剣を預けるに足らぬと?」
「それは違う。いいか、そもそも真剣を扱うのに、そのような実力だけ持っていても駄目だ。」
「なぜですか?自分は早く相手を殺せるような強い剣を持ちたいです!」
「いいか、実力だけでは強くはなれない。必要なのは心だ。心が未熟なら真剣も扱えまい。」
「心…ですか?」少年はやはり不満げな様子だ。バンス師匠は諫めるように続ける。
「そうだ、相手を敬う心や感謝の心、そして仲間を大切にする気持ち……。そういったものが己の剣に力を与えるんだ。」
「後半はまだしも、今から殺そうって相手に、敬いや感謝が必要なんですか!?」
「そう思うのなら、お前はまだまだ未熟なのだ。」
少年は舌打ちする。そして、また少年の瞳に反抗の光が灯った。
「じゃあ、先生教えてくださいよ!その心や気持ちを!」
「それは無理だな」バンスは断言した。すると、今度は別の少年が立ち上がった。
「なんでですか!俺たちは強くなりたいんだ!」バンスは眉間にしわを寄せる。
「いいか、お前らはまだ幼いし、力も弱い。そんなんじゃ俺相手でさえ殺すことなんてできないだろう」
「………もういいです。分かりました。」
道場の雰囲気は悪化したものの、そのまま何事もなく修行が始まる。何十年も前から、バンスはそうやって修行をつけてきた。「門下生に持たせるのは、木刀だけだ。」それが、バンスのこだわりであった。
ある日、修行も終わり、門下生が帰宅し終えたころ、一人の少年がバンスのところに来た。ドゥームだ。
「どうした?忘れ物か?」
「師匠、そろそろ教えてくださいよ」
「なにをだ?」
「無神闘流の極意を、です。」その言葉を聞くとバンスは少しばかり驚いた表情をするが、心の片隅には、やはりな、といった感情を隠し切れずにいた。
「自分は、ほかの奴なんかより一生懸命頑張ってきました!なのに誰も自分のことを認めてくれない!それどころか、未熟だと貶される!」
バンスの呆れが、微量に表情へ漏れ出していたのだろう。その微細な変化を読み取った少年は、すかさず反論の声を上げた。
彼の鋭すぎる観察眼に、時たまバンスは恐ろしくなる。
「そうか。」バンスは少年の話を聞くことにした。少年は構わず続ける。
「自分は早く強くなりたいんです!」
「確かにお前の言う通りだな。お前はほかの奴より何十倍も努力しているし、強くなるのも早いだろう。」
「だったら教えてください!」少年ドゥームは頭を下げた。だがバンスは首を横に振る。
「駄目だ、お前には早すぎる。」
「なぜですか?自分には才能がないんですか?」
「そうじゃない」
「じゃあ、なぜ!」少年は涙声で言う。しかし、バンスの意思は固いようだ。
「お前には剣の才能があるし、実力も十分にある。だがお前はまだ心も技も未熟だ。だからこそだ!」バンスは腕を大きく振って、演説するかのように話した。
「そんな・・・」ドゥームは失望するしかなかった。震えが止まり、じっと、バンスの目を睨む。
「だったら、勝負をお願い致します。」
「なんだと?」バンスの目頭が、痙攣するように釣りあがる。頭に血が上ったときの、バンスの癖だ。
「自分と勝負してください。そして自分が勝ったら無神闘流の奥義、教えてください!」
「………いいだろう。」バンス師匠は怒りながらも承諾した。
「それと、真剣で、お願いいたします。」
「分かった。」
バンス師匠はドゥームに二本の刀を投げた。ドゥームは二刀流なのだ。
「よし、それでこい」バンス師匠がそう言うとドゥームは答える。
「はい、それでは行きます!」そう言うと、ドゥームは刀を抜き、バンスへと向かって走り出した。「てりゃあああ!!」少年はバンス師匠に切りかかった!! だが、バンス師匠はそれをいとも簡単に受け流しカウンターを繰り出す。
「くっ!」ドゥームはなんとか両の手でバンス師匠の攻撃を防ぎ、今度は飛び上がって反撃する。
だが、やはり攻撃はバンスにかすりもしないのだった。
「くそおぉぉお!!!まだまだあ!」ドゥームは叫ぶと空中で胴をひねり一回転する。
「二刀回転斬りィ!!」
大声を出すと、力が入りやすい。バンスに教えられたことだった。
「なに!」しかし、頭上の刀を素手で受け止められてしまった。片手真剣白刃取りだ。
「まだまだあ!」ドゥームは受け止められた刀を手放し、一刀流へ切り替える。しっかりと両手で柄を握り、前方へ回転する。
「前輪切り!」
ドゥームの刀が振り出される。しかし、バンス師匠はそれを軽々と受け止める。
「なにい!」するとバンス師匠は前輪切りの勢いを使いそのまま後ろに投げ飛ばす
「ぐあ!」そして壁にたたきつけられるドゥーム。しかし、それでも立ち上がった。
「ほらよっ」バンスが刀を投げ返した。
「はあ、はあ」肩で息をするドゥームが、再び二刀を構える。
「まだやるというのか?お前じゃ俺には勝てん。わからんのか」バンス師匠は言う。するとドゥームは言う
「そんなこと・・あるわけねーだろ!」するとドゥームは二刀を『X』の形を作った
「秘儀!二刀千斬黒闘切り!」するとドゥームの刀は黒く光り、すごいスピードで突進する。この時、ドゥームは(これは、最強の技だ。誰も受け止められない)
と思っていた。しかし、バンス師匠はあっさりと避ける
「そんな!」ドゥームは動揺する。するとバンス師匠がドゥームの目の前に来て言う
「だから言っただろう?お前にはまだ早いと」そしてバンス師匠は刀を首に当てる
「・・・参りました」すると少年は手を挙げて降伏をした。そしてこの時初めて少年は泣いたのだ・・・その日からというもの、ドゥームは道場を辞め独学で剣術を学び始めるようになったのだ。 だがある日・・・
「今日は、予定があって来るのが遅くなってしまった・・みんな、頑張っているかな?」そして道場の入り口を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは無残に惨殺された門下生の死体だった。
「なんだこれは!」バンス師匠が叫ぶ。するとそこにかすかに息をしている門下生がいた
「バ・・バンス・・・師匠・・」
「一体何があったんだ?」
「ふ、復讐だ・・・」
「なに?」
「あいつが・・・あの、ドゥームが・・帰ってきたんで・・す・・・」
「な、なに!ドゥームだと!」
「はい」それは、遡ること数時間前・・
「今日は、バンス師匠が遅くなるから・・みんなで稽古だ!」
「おう!」門下生たちが返事をする。そしてみんな木刀を持ち素振りを始めた。その時、誰かが言った
「そういえば、ドゥームとかいう奴どこにいたんだ?」
「さあ、でも弱いからどっかに行ったんだろ」
「でもあいつ、一様バンス師匠の一番弟子だろ?なんでやめたんだろうな?」
「なんでも、バンス師匠に勝負を挑んで心が折れてやめたらしいぜ」
「まじかよ、だせぇな!」とみんなが笑う。
「本当だよ、バンス師匠に勝負を挑むなんて馬鹿だよ」
「まあ、あいつは昔からそんな奴だからしょうがないな」
「だな!」
「今なら、俺が一番弟子になってもいいかもな」
「そんなわけ無いだろ!」
「はははは!」と笑いが絶えない道場。すると入り口の方で音が鳴る
「誰だ?他にこの道場に来てない奴なんていたか?」
「さあ?」そこにいた全員が首を傾げた
「お前、開けて来いよ」
と一人の門下生が言う
「分かった」そして一人の門下生が入り口に向かう。するとそこにはドゥームがいた
「お・・お前、なんでここに!」
「バンスの野郎はいないのか・・・まあ、いい先にお前らだ」
「え?」そして、次の瞬間ドゥームの目の前にいた門下生が胸をザックリと切られる「へ?」そしてドバドバと血を流す門下生。そして次の瞬間道場にいた門下生たち全員が武器を手に取りドゥームに向かっていったが、あっさり全員殺された。そして今に至る・・・
「そうか・・分かった」
「すみません・・・」そしてその門下生は息絶えた。そして中間の間を開けるとそこにドゥームがいた、そしてこちらを振り返る
「久しぶりだな!バンス師匠!」
「ドゥーム!貴様ぁ!」バンス師匠が叫ぶ。するとドゥームは言う
「おや?その様子じゃ俺のことを覚えているのか?」
「ああ、忘れるわけがないだろう」そしてバンス師匠はドゥームに向かって刀を振り下ろす。しかし、それをドゥームは受け止める
「く!」刀はびくともしない。
「すごいでしょう、努力したんですよ。『真に努力したものに、負けはない』そうでしたよね」
「そうだったな」
「ふっ!」ドゥームが笑みを浮かべる。すると、次の瞬間目の前にいたドゥームが消えた
「何!」
バンス師匠は動揺するが、すぐに後ろだと気が付く
「ふん!」しかし、振り替える前にドゥームに切られる。そしてバンス師匠はしゃがむ
「ぐあ!」
「相変わらずですね、バンス師匠」とドゥームがにやにやしながら言う。
「なんだ・・今のは・・凄まじい速さだ・・一体どこで」
「すぐに分かりますよ、あなたが地獄に行った後だけどな!!」そして、ドゥームはバンス師匠の頭に向かって刀を振り下ろす。しかし、それをバンス師匠は間一髪の所でよける。
「く!」
「ち!惜しい!」とドゥームが言う。するとバンス師匠が口を開く
「・・・お前・・・強くなっているな」
「当たり前だ、俺は努力したからな!」すると、いきなりドゥームの姿が4体に増えた
「これは、超高速による残像か!」
「そうだ!」そしてドゥームは消える
「は、速い!」
バンス師匠は後ろから来るドゥームをよける。そして反撃しようとするが、その時にはもう4体とも残像だった。しかし、その時バンス師匠が目をやると自分の後ろにも一人いた
(しまった!)そう思った時には遅かった。すると目の前にいたドゥーム(本体)が自分の首に刃を突き立てていた・・・するとバンス師匠が言う
「強くなったな・・・」
「そうでしょう」と笑顔で言うドゥーム。そして言う
「それでは、無神闘流の極意を記した巻物をください」
「やはり、それ目的か・・まだ、諦めていなかったのだな」
「ええ・・俺はもっと、もっと強くなる!」
「そうか・・・だが必要以上の力はいずれわが身を滅ぼすぞ」
「承知の上です!」
「そうか・・・だが、渡すわけにはいかない」すると、思いっきりドゥームの足を蹴る
「ぐあ!」そして、ドゥームはしゃがむ。そしてバンス師匠は刀を首に当てる
「形勢逆転だな」
「どうでしょう?」その時のドゥームの顔は途轍もない笑みが張り付いていた
「何?」すると、次の瞬間だった・・一瞬たりともバンス師匠は気を許していなかった。だが、次の瞬間いつの間にかバンス師匠の刀が吹っ飛んだ
「なんだと・・」そして、バンス師匠の胸がすっぱりと切り裂かれた。バンス師匠自身何をされたのか分からず痛みや切られた感覚すらなかった・・ただ後ろに必然的に倒れたのだ。
「な、なに」バンス師匠が呟く
「だから言ったでしょう。真に努力したものに負けはないと」そう言うとドゥームはバンス師匠の懐に手を入れる
「やはり、あなたが隠し持っていましたか」それは巻物だった。
「返せ!」バンス師匠は言うがドゥームは無視をする
「これで、無神闘流の極意が手に入る」
「何をする気だ?」バンス師匠が言う。そしてバンス師匠は動こうとするが体がゆうことを聞かない
「無駄ですよ。刀には神経毒を塗っておきましたから」とドゥームは言う
「くそ・・・」
「さようなら」そして、ドゥームは一瞬で姿を消した
「ま・・待・・て・・・」しかし、血を流しすぎたせいか毒のせいか分からないがだんだんとバンス師匠の意識が遠のいた
・・つづく・・
今回のイラストはバンス師匠の一番弟子の「ドゥーム」です
https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16817330669205719432
次は「???」です。お楽しみに!!
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