第7話「修行開始2」

第七話「修業開始2」


「それで、結局トンボは捕まえられたのか?」道場で目を覚ましたジョージに、エデンが尋ねる。

「はい、なんとか捕まえることができました。」エデンはジーザスの方に視線を向けた。

「・・・そうか」


「さて、早速だがジョージよ。まずは基本の型を覚えてもらうぞ。」しばらくの沈黙を、ジーザスが切り裂いた。

「はい!」威勢の良い返事にうんと頷き、ジーザスは木刀を取り出した。取り出した木刀を構え、視線を正面に設置されている等身大のわら人形へと向ける。それを見たジョージも真似して木刀を取りだし、見よう見まねで構えた。

「では、基本の型を教える」その声と共に、ジーザスの姿が一瞬消えた。と思えば、既に数メートル先の人形にその刀身を打ち込んでおり、その様子は、速い、というよりは瞬間移動と表現した方が正しいだろう。バチン!!その破裂音の後、襲い掛かる衝撃波が、ジョージの脳を揺らした。

ソニックブーム___。物体が大気中を音速以上の速度で移動した際に発生する強力な衝撃波。かつて、大気を通過する隕石が、とある街の直上を飛来したことがあった。隕石は地球に衝突する前に燃え尽きたものの、地上に大きな痕跡を残していったという。窓ガラスは粉々に砕け散り、屋根や壁さえも引きはがした。そのエネルギーの正体、それがソニックブーム___。


ジーザスは、音を置き去りにした。


高所から落下したかのような痛みが全身に響く。骨髄が振動するのをはっきりと感じる。顎がガタガタと震えている、

これが、白金<プラチナ>___。骨身に沁みて、その差を実感する。


「まあ、こんなもんかな。よし、やってみろ。」

早くしろ、といった風に、ジーザスは親指で後ろの人形を指さす。

「やってみます!」

全力で人形まで走り、一発ぶちかました。コン まるでノックのような優しい音。実際はそれなりの音量なのだろうが、先ほどの爆音のせいで音が良く聞こえない。

「もう一度だ!」

師に従い、もう一度、木刀を振り下ろした。だが、やはりジーザスの動きには程遠い。ジョージはジーザスの動きを何度も何度も真似し続けた。

「動きが遅いぞ!もっと速く!」再びジーザスは動きだす___。


数時間後・・・。


「よし、今日はここまでだ」汗だくで、床に倒れこむジョージに声をかけた。

「これから、朝から晩までこの型を覚えてもらうからな。休憩もなしだ。」

「はい!」ジョージは元気よく返事をした。すると、エデンが道場の戸を開け、中の様子を一望した後、口を開いた。

「おい、ジーザス少しやりすぎだぞ、大丈夫か?」だが、ジーザスは聞く耳を持たない。

「エデン、俺はこいつが強くなるためだったらなんでもする。そのためだったらどんなにきつい修行でもさせてやるんだ」


翌日 早朝


「よし、今日は俺が体術の構えを教えよう」

「はい、お願いします!」エデンは木刀をジョージに渡した。

「木刀?どうしてですか?」今日は体術の修行のはずだが。

「剣道も空手も、フェンシングもボクシングも、元をたどれば、人を殺すために作られた技だ。根底にはすべて、人間の赤黒い血と、憎悪の連鎖が流れている。つまり、武術と呼ばれるものにおいて基礎を叩き上げるには道具を使おうが使わまいが成長に大差はない。今回は素人の素手で行えば中手骨の骨折、小指の破損、その他諸々の障害を残すことになる修行を行う。だから、お前にはそれを使ってもらうことにした。」

「そ、そうなんですか…。」当然、納得はできなかったが、気迫に押され半ば強引に木刀を持つことにした。

「最終的には、こうゆう風にしてもらいたい」エデンは拳を眼前の巨大な岩に置いた。一度手を開き、数センチの空間を開け、ドンッ!!と、寸勁を実践して見せた。パキパキ… 徐々にひびが入り、パンッ!と、発砲音にも似た音がこだまして、全長が五メートル以上もある大きな岩が粉々になった。それを見たジョージは驚愕を隠し切れなかった。

「すげえ…!」

「こういう風に岩でもなんでも破壊できるようにしてもらいたのだが………。まずは、これで十分だろう」そう言うと、エデンは小石をいくつか拾い上げ、パッと空中に投げた。放り投げられた小石が着地する間もなく、エデンは八個の石を両手の指の間に挟む。と同時に、小石が粉々に砕け散った、

「これをお前に出来るようになってもらう。8つの石を空中で破壊しろ。石は徐々に大きくしていくからな。」

「やってみます!」この人のようになれたら…。期待と興奮で、動悸が収まらない。ジョージは目を輝かせていた。いや、目を輝かせていた、という表現は適切ではないだろう。目を見開き、120%の笑顔のその表情は、あたかも薬物を使用したストリートチルドレンの形相のようであった。


「よし、まずは小石サイズでできるようになるまでだ。」

「はいッ!!」返事をすると、ジョージは木刀で石を弾き続けた。


ジョージがその日、道場に帰ることはなかった。その様子を遠くからジーザスとエデンが見物する。初めに口を開いたのはジーザスだった。

「なあ、エデン。一ついいか?」

「なんだ?」

「あいつ、ただの一般人にしては強すぎやしないか? ましてや、まだガキだ。何か、あいつには秘められた何かがある。そう思えて仕方ならない。」

「……ジョージ、ジョージ・アン・スグール。かつて栄華を誇ったスグール一族の末裔だ。俺も気になって、MABの資料を漁ってみたが、かつての金持ち一族ということ、それと、その血筋を継ぐ者が、ジョージ以外にはいないこと。分かったのはそれだけだった。」

「金持ちの貴族、か。そんなやつには見えんがな。」

「ああ、俺もだ」

「なあ、エデン」

「なんだ?」

「ただ、あいつは強くなる。」エデンはふと、ジーザスの方を向いた。赤い髪が、嵐気になびいている。奴はジッと、ジョージの方を見つめていた。

「それは、あいつ次第じゃないか?」


翌日 正午


ジョージがふらふらになりながら屋敷に戻ると、自分の部屋に入った途端に倒れこんだ。物音を聞いたのか、誰かが障子を開ける。その主は、猿顔の師匠だった。

「順調か?」

「順調か分かんないけど、なんとかやります。」なんとか正座をして、そう言った。

「そうか、まあ無理をするなよ。」

「はい・・・あの、師匠」

「なんだ?」

「師匠のお名前は何と言うんですか?」

「バンスだ」

「バンスさんですか。」

「ああ、お前さんはジョージだったかの?」

「はい」しばらくの沈黙の間、ジョージの荒い呼吸音だけが、和室に鳴っていた。


「なあ、ジョージお前の親はどんな人だ?」

「え?ん~と…実はよく覚えていないんです。二人とも僕が赤ん坊の時に亡くなったらしいです。」

「……そうか。」

「ああ!それより、バンス師匠は魔物なんですか?」

「ああ」バンスは頷く。

「なら、何でこんなところに?」すると、バンスは重々しく口を開いた。

「昔、儂は魔界でここと同じように道場で師範をやっておったんじゃ………。じゃが、儂の弟子の一人が狂いよってのう。道場の仲間たち全員を皆殺しにしてしまった。儂も戦ったが、ダメじゃった。まったく、いつの間にあんなに力をつけていたのかのう……。儂はここに逃げてきたんじゃよ。」

「そうだったんですか。」

「あの頃は大変じゃった。一緒に逃げてきた皆、消耗が激しくての。その日の生活に精一杯じゃった…。じゃが、ある男との出会いがきっかけで、儂はここで道場を開くことにしたんじゃ。」

「ある男………?」

「それはの」バンスの声を遮り、外からジーザスの声がした。「おい、練習を始めるぞ」

「さあ、行ったらどうだ?お前の師匠が呼んでるぞ。」

「はい! って、あなたも師匠ですよ。」「そうじゃったそうじゃった」と笑うバンスを横目に、ジーザスのほうへ向かった。

「………まったく、彼は変わった少年じゃ。」


ジーザスの下へ駆け寄り、いつも通りの修行をする。不意に、ジーザスが口を開いた。

「よし、そろそろいいだろう。あれを使わせよう。」

「あれって?」パンパン ジーザスが手を叩くと、奥から使用人の猿が何かを持ってきた。

「え、ええ!真剣じゃないですか!ニホントウ!!」

猿たちが持ってきたのはニホントウ、だった。ジョージの実家の武器庫に、これと同じものがあったのを覚えている。

「ああ、そうだ」ジョージは真剣を持った。

「これからはこれをお前に使わせようと思う。」すると、ジーザスは木刀を構えた。

「さあ、かかってこい」

「えぇ!僕が真剣を使って、ジーザスさんは木刀ですか!」

「ああ、だが心配するな今のお前では俺には勝てない」

「でも、いいんですか?」

「ああ、こい!」ジョージは困惑したが、よくよく考えればジーザスの言う通りだ。

「では!いきます!」覚悟を決め、ジーザスに日本刀で切りかかる。が、案の定、ジーザスにあっさり弾かれてしまった。

「どうした、その程度か?」

「くそ!こうなったら!」何度も何度も、ジーザスに切りかかるが、すべて弾かれてしまう。ジーザスは距離をとり、木刀を構えた。何も考えず、突っ込んで切りかかろうか、距離を取られているのなら、様子を見るべきか…。決心のつかないうちに、怒号が響く。

「甘い!」ジーザスはジョージの腹を蹴り飛ばした。

「うぐ!」再び日本刀で切りかかるが今度は木刀で防がれてしまう。だがその隙をついてジョージは木刀を持っているほうの手に向かって蹴りを入れる、しかし手に当たる瞬間に動きが速くなり攻撃をよけられてしまった。

「くそお!」だがそんな状態でも何度も日本刀を振るがすべて弾かれてしまう。そしてジョージの体力も限界に達していた。そしてジーザスは言う

「もういいだろう、そろそろ休憩にするぞ」

「は・・・はい」ジョージは言う。

「やはり、まだ真剣は使わないほうがいいか・・・」ジーザスは言う

「くそお!やっぱりジーザスさんにはかなわなかった」ジョージは悔しそうに言う。

「よし、エデンと交代だ」

「はい」そして休憩を終えたジョージはエデンと修行をする

「どうだった?初めて真剣を持った気分わ?」

エデンはジョージに聞く

「いや、なんというか不思議な感じでした。」

「そうか、それで何かつかめたか?」ジーザスがエデンと交代して聞く

「全然です」ジョージは言う

「そうか、じゃあとりあえず俺と拳で打ち合おう。そもそも体がなってなかったら、武器もうまく扱えないからな」「はい!よろしくお願いします!」ジョージは言う

「よし、行くぞ!」そして二人は拳を交える。エデンの拳を防ぎ、反撃するとエデンも避ける。そんな打ち合いが一時間ほど続く。

「よし、次はもっと上を行くか」

「上?」するとどこからともなく小石が飛んできて頭にぶつかる

「いて!」

するとまたどこからともなく石が飛んできて今度は手にぶつかる

「いてて!」

「これが次の修行だ。今からいろんな方向から今みたいに小石が飛んでくる。戦いの場において相手がいかなる攻撃でどの方向から来ても対処できるようにするためだ」

「なるほど、分かりました」

「これから、お前にはこの山を下りてふもとに札をぶら下げているそれを取ってくるのがお前の任務だ。だが、ふもとに行くにつれて飛んでくる石のスピードや大きさが異なる。まあ、お前は一回あの化け物みたいに速いトンボを捕まえたんだ。できるだろ?」

「はい!」

ジョージはふもとに向かって山を下りていく。だが石が様々な方向に来て飛んでくるため避けるのが精いっぱいだった。

「くそお!やりづらいなあ」そう言うジョージの足に石が当たる

「いて!」ジョージは痛みに顔を歪めながら下山しそしてふもとに着いた。そこにはたくさんの木々があり多くの札が下がっていた。

「これで札を取れってことか・・・」すると四方八方から石や枝などが飛んでくる。そしてなんとさらに巨大な大石もジョージに襲い掛かってきた。

「うそお!なんだよ!」そう言ってなんとか巨大な石をよけるが今度は避けた先に別の石や枝、そして大岩が飛んでくる。

「くそお!」そういっても避けても次から次へと攻撃は続く。しかもだんだんと早くなりジョージは避けるのが精いっぱいになってきた

「くそ、やるしかないか」すると札を取ろうとするのだがいきなり足の踏ん張りが崩れて転んでしまう。そしてまた新たな石などが襲い掛かる。

「しまった!」だが間一髪で避けるジョージ。

「危なかった!でも次は!」そう言ってまた札を取ろうとするのだがまた別の方向から石や枝などが飛んでくる

「くそお!」ジョージは札を取ろうとするが別の方向から石が飛んできたり枝が襲い掛かってくる。それを必死によけなんとか札を取ったのだった。

「は・・・はあ、疲れた・・・」すると上から声が聞こえる

「取れたかジョージ?早くそれを持って屋敷に戻らないといつまでも石の雨はやまないぞ」と言う。

「え!ええ!ちょっと待ってください!」そしてジョージは石をよけながら屋敷に戻る

「はあ、やっと戻れた・・・」ジョージはへばりながら言う。するとそこにエデンがやってきて言う

「うむ、よく頑張ったな。トンボの件よりもさらに早く戻ってこれている・・・だが今日はただの石だからな次はもっときつくしてやろう」

「はい、お願いします!」ジョージは元気よく言う。

「よし、今日はもう休め。飯ができてるぞ」

「やった!」そしてエデンと共に食卓の間に来た。そこにはすでにジーザスとバンス師匠が来ていた。

「さあ、今日は疲れただろう、たくさん食べなさい」とバンス師匠が言う。そしてジョージは食べる

「うわ!おいしい!」するとバンス師匠が言う

「そいつはよかったな」

「そういえば、バンス師匠が言っていたある男って誰ですか?」

「そうだな、もう言ってもいいだろう」とバンス師匠が言う。そしてバンス師匠は話し出す

・・つづく・・

今回のイラスト第三回目はジーザスの師匠の「バンス師匠」です

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16817330668660234154

来週は「???」です。お楽しみに!

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