修行編

第5話「МAB本部」

第五話「МAB本部」


「今日はいい天気ですね」朝早く起きたジャックは、早速洗濯物を干す準備をしていた。


「おはよ。うん、ほんといい天気」眠い眼を擦りながら、ジョージが答える。


「ジョージ様、おはようございます」


コンコン 玄関からノックの音が聞こえた。「は~い」ジャックが返事して扉を開けると、そこにはスーツ姿の男たちが立っていた。


「すみません、ジャックさんのお宅はこちらですか?」男たちの中のリーダーのような人物がジャックに尋ねた。


「はい、そうですが」すると男は名乗りだした。


「初めまして。私はМABの調査員のものです。少しお話できますか?」


「あ~、分かりました。こちらへどうぞ」ジャックは調査員を家へ迎え入れた。


「失礼します」男が椅子に腰をかける。


「あなた方は先日、昆虫国に行かれましたでしょう。ほら、あの洞窟の。」男はジャックに問いかける。


「はい、確かに行きましたが。」


「実は昆虫国について、あなたにお聞きしたい事があるのですが・・・」


「ええ。」


「あなたは蟲王と戦ったと聞きました。そのとき蟲王は何か言っていませんでしたか?」


「何か、とは?」


―――蟲王は魔物にしては良く喋るタイプだった。しかし、MABが欲しがるような情報は何も言っていなかったはずだ。


「実は、先日昆虫国で我々の部下がこのような物を見つけたんです」男が差し出したのは、小さな瓶だった。中は紫色の液体で満たされている。


「これは?」


「我々の研究員チームが調べたところ・・・ なんでもこれは『人間を魔物化させることのできる薬品』だそうで。」


「魔物化・・・」


「はい、まだこの液体の正体ははっきりと分かりませんが、我々はこれを『モンスターエキス』と呼んでいます。」男が説明を続ける。


「部下がこれを発見した後、我々はすぐさま薬品を本部に送りました。そして先日、本部の研究棟から生物実験の結果が送信されたのですが・・・この液体を体内に取り入れた生物は、魔物の力が体内に宿るらしいのです。」


「ほう、つまり飲んだ人は魔物の力を手にすることができるという訳ですか?」


「ええ、そういうことになります。まだ詳しくは分かりませんが。」


ジャックは還暦をとうに超えた老人である。しかし、そのような液体の存在は今まで聞いたことがなかった。


「それで、昆虫王と戦ったあなたなら、この薬品について何かご存じないかなと思いまして。」


「申し訳ないですが、私は何も」


「そうですか・・・。わかりました。」


男は顎にたくわえられた髭を二三撫で、一度頷いた後、口を開けた。


「我々はこれを世間に知らせようとは思いません。ですからこのことは秘密にしてもらえませんか?」


「ええ、分かりました」


「重ねて、申し訳ないのですが、我々MABは昆虫国の戦力を見て驚愕しているのです。まさかあんな小規模な魔物の集団が大きくなるとは。この様子だと魔界四帝国はこれまでの予測以上に凄まじい戦力を保有している可能性が高い。」


「はい」


「それで、お二方には重要参考人としてしばらく、我々の調査にご協力をお願いしたいのですが。」


「ええ、私は大丈夫ですよ。しかしジョージ様が・・・」


「MAB!? 行く!!! 絶対!!!!」


いつの間にか会話に加わっていたジョージが目を輝かせてそう言った。こうなったジョージ様に、私は逆らえない。


「ありがとうございます。それではМABの本部にご案内させていただきます」


「分かりました」すると男は電話を取り出し、しばらく誰かと話した。待つこと数分が建ち、玄関前に車が来た。「M・A・B!! 楽しみ~。」ジャック達は車に乗りМAB本部に向かった。ここから本部までは車でも五時間弱ある。ジャックは、ジョージがそれほどの時間を狭い車の中で耐えられるか気がかりだったが、車内では意外にも大人しく過ごしていた。きっと、MABのことで頭がいっぱいだったのだろう。ほどなくしてМAB本部に到着した。


「ここがМAB本部です」車から降りて、眼前の景色に驚愕した。視界一杯の壁‼先ほどからその巨体をのぞかせてはいたが、やはり大きい。ジョージは今にも気絶してしまいそうだ。


「すごく、大きいですね。」ややあって、モノリスのような縦長の建物に入った。目の前にはエレベーターがあった。


「それでは、こちらに」指示に従って、エレベーターに乗りこむ。調査員の男がエレベーターガールに行先を伝え、俄かに足元が揺れ始めた。100階、200階、300階・・・。画面に『最上階』と表示され、エレベーターが止まった。


「ここが我々МABの本部です」会議室や、実験室と書かれた表示を横目に、迷いなく進んでいく調査員の後をついていく。とにかく、何もかもが巨大だ。通路に関しては、消失点がはっきり見える。


しばらくして、一つの扉の前に止まった。


「どうぞこちらへ」


「はい」中へ入ると、巨大なスクリーンと8人の男女が座っていた。


「彼らは?」ジャックは聞く。


「彼らはМABの白金<プラチナ>ランクの方々です、右の方から紹介させていただきます。」


1人目:アルカナ・・・弓の名手。百発百中の腕前を持ち、噂によれば1km先の蠅を仕留めることもできるだとか。


「ただ、少々シャイな方で、ほとんど会話をしません。スケッチブックでの筆談がメインとなります。」


2人目:バーサーク・・・金砕棒の使い手。異常に発達した三頭筋からも分かるように、怪力の持ち主です。空腹になるとイライラしてしまう性格のため、常に何かを食べています。摂取カロリーは日に10万キロカロリーを下回ることはないとのこと。それだけのカロリーを取り込みつつも脂肪のない肉体を保つことができるのは、圧倒的なバルクのためです。


「よろしくな。」


3人目: ディーバ・・・二刀流の鉈使い。他にも、銃やインプラントで埋め込んだチタン製の牙も使って戦いますが、やはり一番得意なのは二刀流です。非常にタフで、強力なMABの戦士ですが、精神的に不安定であり、精神安定剤を服用していることが多いです。周りからは「不死身の男」と呼ばれています。


「へ、よ、よろしく・・・。へへっ」


4人目:オリビア・・・日本刀と拳銃の使い手。北の方の街からやってきた女性で、あらまあこれがとっても美人。ニホントウと呼ばれる遺物を使って戦います。体術にも精通しており、非常に素速い身のこなしを見せます。また、料理上手でもあり、時間があるときは自炊をしているそうです。


「よろしくね。」


5人目:ドグマ・・・メリケンサック使い。バーサークほどではありませんが、かなりの怪力の持ち主です。精神的にも安定しており、非常に頼りになる男として、MAB内の抱かれたい男ランキングでは、1位を獲得しています。


「初めまして。よろしくな。」


6人目:エデン・・・古くから伝わる拳法の使い手。鉄板をも切り裂くともいわれる手刀を武器に戦います。常に冷静で、戦いの時でもほとんど感情を表に出しません。寡黙な男として、MAB内の抱かれたい男ランキングでは、2位です。


「聖真龍東寺切拳の精神は、来るものを拒まない。」


7人目:ミーラ・・・巨大なハンマーの使い手。明るくて元気な女の子!組織の中で一番の最年少。


「よろしくっ!!」


8人目:ジーザス・・・日本刀使い。無神闘流の使い手。居合を得意技とし、敵を一撃で倒すという戦術で有名です。


「よろしくお願いします。」


「はじめまして、ジャックと申します」一通りの説明が終わり、MABのメンバーの紹介は終わった。


「ジャックといったか・・君が組織の者を助けてくれたのか?」ジーザスと呼ばれる男が言う。


「はい」


「そうか。我々からも礼を言おう、どうもありがとう。」ジーザスが深く頭を下げた。


「いえ、そんな大したことはしていませんので」すると、エデンがジャックの後ろで佇んでいたジョージの方を見る。


「ところで、後ろの方は?」


「ああ、私のご主人様でございます。名はジョージ。スーグル・アン・ジョージ様でございます。」


「どうも、ジョージです」


「なんで俺らの組織にそんなガキを連れ込んだんだ?ここお子様が入っていいところじゃねえぞ」


この男は・・・確かバーサークと言ったか。


「いえ、この子はとても勇敢な少年ですよ」


「あ?何がだ?」バーサークはジョージを睨みつける。ジョージは怯えていた。


ドグマがバーサークに言う。


「バーサークやめろ!せっかく来てくれているんだ、今すぐ黙らんとお前の顔をピザ生地にして焼き上げてやる!コテン≪パン≫ってな!」


「やれるもんならやってみろよ」見かねたエデンが仲裁に入った。


「やめろ二人とも、これ以上ここで暴れるんだったら自分が2人とも病院送りにして二度と光を拝めないようにするぞ」エデンは二人を睨みつける「チッ!」


なんというか、とても賑やかな方々だ・・・。ジャックは不安を隠しきれないでいた。


「失礼。」するとジーザスがこんなことを言ってきた。


「ここにいてもうるさい猿どもの世話が面倒なだけだ。早速ジョージ君を連れて行くぞ」ジャックが首をかしげる


「連れて行くって・・どういうことですか?」


「聞いていないのか・・もちろん修行にだ」


「え!」


ジャックが叫ぶように言った。


「お、お待ちください!ジョージ様を連れて行くっていったいどういうことですか?それに修行って?」申し訳なさそうな顔でジョージが口を開いた。


「ごめんジャック・・・実は昨日こっそりローガンさんに頼んでおいたんだ『МABの一番の人に修行をつけてほしい』ってそしたらオーケーが出たんだ」


「そ、そんな!」ジャックが驚くとジョージは真剣な顔持ちで言った。


「ジャック、僕は強くなりたいんだ、今まで弱い自分とはさよならしてこれからは強くなるって決めたんだ」


ジーザスが会話に入り込み


「ていうことだ。本来なら俺がつけてやる義理はないがあんたには助けになったしそのお礼を兼ねてつけることにした。」


「そ、そんな・・・ジョージ様・・・!!」ジャックは反論しようとしたが、ジョージの目を見て、ジャックは諦めた「分かりました、ジョージ様をよろしくお願いします」


「ああ、任せろ」するとオリビアが手を上げながら言う。


「あの・・・私も修行つけてほしいんですが・・・」するとミーラが口を尖らせる。


「あ~、ずるいですオリビアさんだけ」


「だめだ、修行をつけるのはジョージだけ」ジーザスが言うと、ミーラとオリビアは少し残念そうにした。


「修行内容だけでも教えていただけませんか」ジャックが問いただした。


「残念だが、それはできない。俺の師匠が直々に伝授してくれるそうだ。」ジーザスは扉の方を向く


「それじゃあ、30分後向かいに行く。準備しておけ。」


「はい」ジーザスは去っていった。


「すごいですね、まさかあのМABに修行をつけてもらえるなんて!」ジョージは興奮していた。突然、ジャックが謝った。


「申し訳ございません。ジョージ様。あなたがそれほどのお気持ちを持っていながら、私には気づけなかった。このポンコツをお許しください。」


「いや、別にいいよ。それにそのことを正直に言わなかった僕にも責任があるし」


「しかし、いったいどのような修行をするのでしょうか」


「分からない、でもすごい厳しい修行だろうね」


「さてと、じゃあ早速準備するかな」


「既に準備は整えてございます」


「はやっ!」


そして30分後、約束通りジャックとジョージのもとにジーザスが来た。


「さあ、いくぞ」


「いくってどうやって?」ジーザスの周りには車やヘリらしきものはどこにもなかった。困惑しているジョージに、ジーザスが言った。


「これを使う」手に持っている物を見せる。それは何やら小型の機械のようなものだった。


「それは?」


「これはな、テレポーテーション装置だ」


「テレポーテーション?」ジャックは首をかしげた。


「そうだ、これは物を瞬時に移動させる装置でな。これを使えば一瞬で目的地に到着することができる」ジーザスは機械を起動させた。すると機械から光が放たれる。


「これでこの光の中に入れば目的地に着くはずだ」


「じゃあ、行ってくるね」オリビアとミーラが言う。


二人は光の中に入っていくジョージを眺めながら、ジャックは思った。


ジョージ様、あなたがあなたなりに強くなれれば、それで私は大満足です。だからどうか、絶対に無事に帰ってきてください。

・・つづく・・

今回の第二回目のキャラは世界一の剣士「ジーザス」です。

https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16817330667859745362

来週は「???」です。お楽しみに

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