第4話「蟲王の力」
第四話「蟲王の力」
「な・・なにがあった!?」吹っ飛ばされた蟲王は、一体何をされたのか分からなかった。
「まさか・・・この爺が百足どもを倒したというのか・・・?」蟲王は立ち上がりマントを脱ぐ。
「フハハハハ、いいだろうこの蟲王の本気を見せてやろう」そして蟲王は高速で移動しジャックの背後に回った。勢いを残したままジャックに蹴りを入れる。ジャックはそれをまともに食らった。
カンッッッ!!
到底、生物と生物がぶつかり合ったとは思えない金属的な音は、先ほどの衝撃がどれほど凄まじいものであったかを思い知らせる。
「なるほど・・・これが本気ですかな?」しかし、ジャックは無傷であった。
「なに、この爺・・・」
俄かにジャックは高く飛びあがった。負けじと蟲王も高く飛び、空中で拳の連打をする。しかし、ことごとくかわされてしまった。
「くそっ!ならば!」蟲王は、前方に触手を突き出し、構えのようなポーズを取る。瞬間、何やら白い粘着質のものが飛び出した。それはジャックの足を捕まえ、地面に叩き落とした。
「く・・・これは糸!」想定外のことに困惑しつつも、ジャックは蟲王の頭をつかみ壁に投げ飛ばした。
「がああああ!」壁に激突した蟲王だが、すぐに起きあがりジャックの背後に回り込んだ。この隙を見逃すはずもなく、思い切り殴った。
「なに・・・」だが、拳は空を切り、そのままみぞおちに一発食らった。
「ごふ!」さらにそこから顔面に膝蹴りをくらい、その勢いで壁に激突した。余りの衝撃にまぶたが閉じる。気が付けば。今度はジャックが蟲王の後ろに立っていた。
「な・・・なに!?」振り返るが、そこにあの爺の姿はなかった。老いぼれ、凄まじく速い。
ジャックは稲妻のように移動し、王を殴り続ける。しかも、ジャックの速さはみるみるあがり、目で追うのが困難になっていくのだ。
「っぐ!ごふ!ぐはあ!・・・っく」惨め。見るに堪えないほど、惨め。一体いつ攻撃されたのか全く分からなくなった。蟲王は倒れかけたが、王としてのプライドがそれを許さなかった。
「ふう・・・強いですね、あなた。」
「っく・・これが貴様の本気か・・そうなのか」ジャックは何も言わなかった。
「ふっ、いいだろう」蟲王は口から垂れる青い血を拭うと、体に力を込め始めた
「はああああああああああ!」蟲王の体がだんだんと変化した。顔はさらに凶悪になり、背中には羽が生え体も大きくなっていた。2倍、いやもっと。「いくぞ!」蟲王は電光石火の如くジャックに近づき、その凶暴な拳をぶち込んだ。
ジャックは避ける。片手の拳が壁に当たると、背後の壁が一気に壊れた。
「どんどん、いくぞ!」羽を広げ頭上を飛び、ジャックに向かって拳の雨を降らせる。半端ではない一流の拳。並のものなら、一発で肉片になることが本能レベルで理解できた。
二人は戦いながら、どんどん奥へと入っていった。
「なんだ?この音」昆虫国内地にいる蟲王の部下たちが驚いていると、目の前の壁が壊れ蟲王とジャックが現れた。
『む・・蟲王様!』
『なんだ、あの爺!』
『よくわからんが、蟲王様に助太刀するぞ』そして、蟲王の部下たちは紳士服の老人を襲おうとした。
「邪魔だ、貴様ら!」蟲王はその部下を羽虫のように吹っ飛ばした。
「俺とお前の戦闘に助太刀などいらん」
「すごい、戦いへの決意ですね」蟲たちは恍惚としている。
「ああ・・・いくぞ!」二人は戦いながら、さらにさらに奥へと進んでいった。
「くらえ!」蟲王は空中から連続の蹴りをお見舞いする。ジャックはそれを避け攻撃しようとするが・・・
「させんぞ」蟲王はジャックの背後をとり、拳を振り下ろした。
「!!」ジャックは間一髪で避ける。すかさず蟲王の懐に入り込む。
「なに!」蟲王はかわそうとするが、間に合わない。
「くらえ!」ジャックは腹に拳を入れる。巨大な昆虫はくの字で吹っ飛び、壁に激突した。
「ぐふ!・・・っく」すぐに体勢を整え殴りかかるが、やはりジャックには当たらない。
「っく!・・・なら」蟲王はなにやら口から緑色の液体を出した。ジャックに当たらなかったものの、液体に触れた壁が小麦粉のように溶けた。
「酸・・・か」
蟲王が再び酸を吹き出した。ジャックの服に当たり、みるみる溶けていく。
「・・・っく!こいつはちょっとヤバイですねえ。」
「おらあ!」液体を噴射。だがジャックには当たらない。
「隙あり!」蟲王はジャックの後ろに回り込んだ。だが、老人の姿がない。目の前には戦闘で崩れかけた洞窟壁があるだけだ。
「今度はこちらの番です」
「なに!」
背後から声がしたかと思えば、背中にインパクト。なんとか飛び上がり、致命傷は避けるが、安堵したのもつかの間、天井から酸の雨が降ってきた。
「う、ァ、ヴォェ」土砂降りのような緑の雨を浴び、甲殻が溶かされていくのが分かった。自分の一部が削られていくのが分かった。余りの激痛と恐怖に声帯が痙攣する。
薄れていく意識の中で、老人の方を見た。パッパッと手を払って、やおらに歩き出すその姿は、さながら屋敷の掃除を終えた老執事であった。
俺は戦いの対象とすら見られていない。廊下の埃や、窓の水垢と同じく、奴にとって俺は、ただのゴミ・・・?
到底受け入れられなかった。俺は100以上の魔物の王なんだぞ。崇拝対象なんだぞ。
理想とこの現実のギャップに蟲王は混乱していた。混乱しつつも、脳は肥大化したプライドを守るための最終手段を模索していた。
そして、それは来た。本来、自らの生命を第一に考える昆虫という種が発想しえないはずの禁忌が。
「いいだろう真っ向勝負は貴様の勝ちだ・・・だが」蟲王の体が膨らみだした。
「貴様は死ぬ!」
体は徐々に光を帯びていった。自爆。本能にプライドが勝った結果、脳が弾き出した結論だった。
ジャックはそんな蟲王を冷ややかな顔で見つめている。
「どうした?怖すぎて何の感情も生まれないか、ハッハッハッハ!」蟲王は笑った。するとジャックは
「で、言いたいことは終わりましたか?」
「なに?」ジャックは蟲王に近づき一気に蹴り上げ蟲王の顎に当てた。
「がはあああ!」蟲王は一気に上方に向かって飛んでいく。
「こ・・ここは!」蟲王は周りを見ると洞窟を突き抜け青空にいた。
「っく!あの、おいぼれがーーー!!!」蟲王は空で大爆発をした「ふう、終わった」ジャックは戦いが終えると膝をつき荒く息をしていた。
「大丈夫ですか!」みると先に避難していたジョージ達がいた。
「ジョージ様!よくご無事で!ええ、年寄りにはきつかったですよ~」するとジョージが言う。
「ほんとに大丈夫?ジャック?」
「はい・・・大丈夫ですよ、それよりジェイスさんは大丈夫でしたか?」
「ええ、なんとか」すると後ろから声がした。
「君がジェイスを助けてくれたのか?」見ると緑色のコートを背中にかけ、黒ズボンで白いワイシャツを着こなしおうど色の髪に葉巻を口にくわえた男がいた。
「あなたは?」
「おっと、すまない。」男はМABのマークがついた金色の名刺を差し出した。
「俺は『ゴールド』ランク中級のローガンという者だ。応援要請があり駆け付けたが・・・どうやら一足遅かったらしいな。」
その強面とは裏腹に、優しい笑顔でそう言った。
「ゴールド?中級?」ジョージが首を傾げる。
「МABの階級ですよ」
МABには四つの階級がある。一番下から銅士<ブロンズ>、銀龍<シルバー>、金仏<ゴールド>、白金<プラチナ>と分類されており、さらに色階級の中で、下級、中級、上級に分けられる。
「そしてその階級を示すために階級がブロンズになった人は名刺がもらえて階級がシルバー、ゴールドになっていくにつれて名刺の色も変化するらしいです」
「そうなんだ」ジョージは納得したようにそう言った。
「おお、よく知っているな」そしてローガンは話を続ける。
「君たちのおかげでうちの若いもんを救えた。君たちがいなければこの部隊は壊滅していたはずだ。MABを代表し感謝する。」
「いえいえ」とジャックは謙遜する。
「そこでどうだろう、今日はもうすぐ暗いから俺たちの車で送り届けようか」
「いいんですか?どうもすみません」
「ああ、君たちの恩に比べれば礼にもならんよ。」
ローガンの合図で、車が停まった。周りにはМABの兵士の男たちが様々な銃を持っている。
「それにしても、車や銃など・・地球に魔物が攻めてきた惨劇からよくこのような物がありましたね。最先端の物はすべてなくなったと思っていました」
「ああ、そういうものはすべて地下の隠し倉庫におしこめて何とか守り抜いたからな・・本当に運が良かったとしか思えない・・・それでは行こうか」
ジャック達は車に乗り込んだ。
・・つづく・・
今回からストーリに出てきたキャラをイラストにして貼ります。第一回目は、「蟲王」です
https://kakuyomu.jp/users/zyoka/news/16817330667496598221
表紙です
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます