終わり


「先生っ、待って」「えー?好きなくせに」

 どのくらい経ったのか、声がして目が覚めた。薄いカーテンで仕切られた隣のベッドに人が眠っている様子はない。

 荒い息遣いと甘い声、ベッドの軋む音。何をしているかは容易に想像できた。

 そういえば、養護教諭は職員室に行ったのだろうか。まだぼんやりする頭で揺れるカーテンの方へ寝返りを打った。

「やだっ、先生、やだあっ」

 明里の声だった。まさか。そんな。

 私の手はカーテンへと伸びていた。気の所為だ、勘違いだ。そう思いながらそっと覗き込み、私は絶望した。

 乱れた髪、紅潮する頬、露になった白い太腿、嫌がる言葉とは反対の恍惚とした表情。

 覆い被さる養護教諭と明里の顔が重なり、湿った音が響く。合間に聞こえる吐息が私の耳の奥を刺激した。


「先生ー!居ますかー?」保健室の扉がノックされた。

 生徒の声に、養護教諭はすました様子で返事をした。明里は急いで着替え、ベッドから離れていった。

「明里ー大丈夫?」「うん。軽い熱中症だって」「そっか、今日ダウンした子多かったよね」「先生が厳しすぎるんだよお」

 そんな会話をしながら明里は生徒と一緒に保健室を後にした。


 私は、再びベッドに横になり明里の乱れた姿を思い出す。涙を零しながらも、内股に力が入る。じっとり濡れた一部が熱く、吐息が漏れた。

「あら、起きてたのね」

 シャッとカーテンが開かれ、養護教諭と目が合った。

「さっきまで隣に明里ちゃんが寝ていたのだけれど、先に帰っちゃったわ。仮病だったのかしら?とっても元気そうだったのよね」

 薄い唇で微笑みを浮かべている。貼り付けたような笑みが不気味だった。

 養護教諭は私の頬に伝う涙を指で拭った。微かに安っぽい桃の香りが、明里の香りがした。

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香り 鷹野ツミ @_14666

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