交通の要デンタル 3
アーノルド司祭の目の前に座っているジャック、最初アーノルド司祭は彼が元勇者だとは思えなかったが、彼が上着を脱ぎ両腕を見せたことで納得、ジャックの方もディフェンダーのウィルスというお姉口調のおっさんを紹介した。
二人は目の前でバチバチと火花を散らせるが、ディフェンダーと教会って仲が悪いのか?
というよりはこの二人の仲が悪いという感じだが、どうなのだろう?
「君がディフェンダーのウィルスかね? 噂は色々聞いているよ。男漁りにご執心だとか?」
「そちらこそ。頑固者のオジサンがよくまあ力を貸す気になりましたね」
「なるさ。元をただせば教会側の問題だ。最も、私が出来るのは騎士団の派遣と情報封鎖のみだ。あとは君達と騎士団に任せるしかない」
まあ、そうなるだろうな。
教会そのものに力はないので、近くに居るであろう騎士団を呼び出すのだろうけれど。
「それでいいわ。私達も今呼べる最高戦力で構えるけど…今教会側がどの程度掴んでいるのか教えてほしいわね。騎士団がどの程度分かっているのか…」
アーノルド司祭は腕を組んで考え込む素振りを俺たちに見せてから、「エンダル」と名を呼ぶ。
するとドアをそっと開けて入ってくる白銀の甲冑に身を包む神撫鵜を怪しく思う俺。
「今現在奴らが拠点から移動したという報告は受けていない。おそらくは拠点を移動させずに構えているのだろう。各教会への根回しは既に終わっていると考えているのだろう」
「なるほどね。やっぱり。高を括って拠点を変えなかったという感じかしら?」
「ああ。そして、抽出についてだが、これは一つだけ候補がいる。北にある小国の一つである『ファン小国』の王族固有アビリティがこれによく似たものだったと聞いている。扱い方は違うが」
「じゃあ、そこの王が?」
「それは無いわ。でしょう? ウィルスさん」
「ええ。そうね。ファン小国は十年前に女王が次代に選ばれているから違うとはっきりと言えるわね。最もあそこは閉鎖的な国だから詳細は知らないけど」
女王制を敷いている国と似た技術を持っている敵。
「我々騎士団が知っている限りあの国のアビリティは人には使わないと聞いたことがある。使ってはいけないと固く禁じていると」
「それを破った者がいるかもしれないと? それとも女王自身が破ったと?」
「かもしれないな。どのみち探ってみないことには分からない。そういう意味では囮を送り込むというアイデアは賛成だ」
「でも。拠点を移している可能性は無いんでしょう?」
「だが、抜け道がある可能性がある。そういう意味で中に人がいると助かる。勿論作戦は入念に立てるつもりだ」
アンヌが食い下がろうするのをアーノルド司祭は止めてしまう。
騎士団は俺達に近づいてくると「やるべきことが幾つかある? 違うか? 協力するから改めて場所を変えよう」と提案するので、俺達はアーノルド司祭に頭を下げてから一旦ディフェンダー本部へと向かうことになった。
どうにも俺は裸になる運命にあるようで、俺はディフェンダー本部の四階の特別会議室のど真ん中でパンツ一丁で立っている。
椅子と机は端っこに片付けられており、体中から床に掛けて魔文字と呼ばれる魔を象徴する文字が無数にわたって書かれている。
「えっと…これなんですか?」
「騎士団と内の最高位のエージェントによる魔術式の書き込み作業さ。あんたは知らないけど。魔術だけは他の術式とは違って記憶する以外に体に書き込みそれを体に浸透させることで覚えさせる方法があるの。まあ。無理に強い術式を書き込んでも使えないと意味ないんだけど。彼の場合はその心配はないからね。痛みも無いし」
全部書き終えたのかエージェントが俺の背中に回り込んだ。
ディフェンダーのエージェントであるノックと呼ばれている金髪のトサカ頭の若い男、何度か会ったことが結構腕前の良い人間だったと記憶している。
文句を言いながら俺の体に書き込んだ術式を俺の体に浸透させるため背中にそっと右手を添える。
すると書き込んだ術式が淡い光を放ちながら消えていき、同時に俺の頭の中に様々な魔術式が記憶されていく。
正直今から勉強する時間はないからこそのこの裏技なのだ。
全て消えた所で「これで良し」とエージェントは手を放す。
「大丈夫っすよ! と言っても初級呪文と中級呪文だけっすけど…本当にこれだけでいいんすか?」
「駄目よ。まだ魔力のコントロールが出来ない状況で下手に最上位魔術なんて教えたら周辺被害が出るわ」
「その通り。ジャック様の魔術全能はそれだけ危険だ。むしろ呪文を覚えていなかったことに安堵した」
騎士団は騎士団で酷いことを言っている気がするが、まあ多分正論なので反撃はしない。
自分で言うのもなんだが、こうして魔術の事が分かれば自分の魔力を感じることが出来るし、何より…危険性が良く分かる。
何事もまずは基本からとはいうが、それを覚えずに魔力なんて理解も出来ない。
「さて。次はこれだ」
そう言いながら騎士団は俺に一錠の丸薬を手渡し、俺はそれをじっと見つめて「なんだ? これ?」と聞く。
「これは体内に入ると二十四時間のみ効果を発揮する丸薬だ。聖術の使い手の中でも特殊な者にだけ判断できる波長を周囲に流す。聖女であるアンヌ様にも感じることが出来るはず。此処から出発する前にそれを飲み、貴方が突入してから一時間後動きがなければ即行動。もし動きがあれば更に様子見だ。対象に大きな動きが無くなれば動く」
「う~ん。こちらとしては直ぐに動きたいけど。こればかりは敵の動きを調べないといけないから仕方ないわね。それでいいかしら?」
「俺は構わない。確実に敵を討ちこれ以上被害を出さないことが最優先だ」
アンヌが落ち込み気味であるが、俺はタンクトップと上着とズボンをまとめて日ながら一旦部屋から出るときアンヌの頭をそっと撫でる。
なんか撫でやすい場所にあるなというイメージ、特に意味の無いナデナデを前にして彼女はむくれていた。
何がアンヌの機嫌を損ねたのか分からなかった。
「……昔は私の役目だったのに?」
「え? 今聞こえなかった。小さすぎるからはっきりと」
「何でもないです! 絶対に助けに行くから待っていなさいよ?」
先に部屋を出てしまった彼女、何故機嫌が悪いのか全く理解できないまま首をかしげてアンヌを見届ける。
すると騎士団が俺の後ろにやってきた。
「もう一つ備えておく必要がある。アンヌ様の情報を元にな。上手くいけば拘束されている時に一時的な魔術行使が可能だろう」
何をしようとしているのか分からなかった。
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