交通の要デンタル 2
騎士団という名前は聞いたことがあるが、正式に教会に所属しているわけじゃない俺としてはいまいちピンとこない名前だ。
教会内にそういう武力を担当している部署があることは分かっていたが、そもそも聖女と共に同行する部署だと思っていたが、アンヌが一騎当千並みの強さを持っていたはずなので必要がない。
実際にアンヌは単独で動いていたはずだし、ほかの聖女も誰かと組んでいるという話を聞いたことがないのだ。
「騎士団というのはね。そもそも教会内で派閥争いが起きた時に聖術や違法薬物などで儲けと派閥を広げようとした行為を咎めるために作り出された組織だよ。それ故に彼らの信念は『神の名において中立』がモットーなのさ」
「そんな騎士団が最近動いたと?」
「ええ。それも最高司祭周りを探り始めたと聞いてね。このデンタル周辺の国々でも目撃されたと聞いているわ。最も、彼らはその行動方針故に基本は民間人の命より事件解決を選ぶ傾向があるからね。人質より事件解決だからね。まあ、君の紹介で共闘するのなら我慢するけど。私達は民間人優先だって分かっていてね。勿論君を含めてよ」
「俺は一般人かい?」
「そうよ。どこにも所属していない以上は一般人よ。たとえ化け物のような力を持っていてもね。だからこそ、貴方を囮に使うという作戦は了承しかねるけど」
「こればかりは譲れない。アンヌにひどい目に合わせた奴を殴りたいんだよ。そのためには奥に居たほうが良い。俺が元勇者だと分かれば絶対に捕まえようとする」
「それはそうでしょうけどね…はぁ。諦めましょう。どうせ言っても聞かないし。でも、保険は幾つか掛けさせて頂戴」
目が本気度を増しているのでここを引くつもりはないようだ。
「今の貴方が敵の黒幕を相手に勝てると思わないでね。無駄に能力が良い分だけいたぶられる可能性が高いわ。即興になるけど、今日の夜にでも基礎魔術をあなたの頭に叩き込むわ」
「それはむしろ頼もうと思っていた。戦えるようになりたいしな」
「それとこっちは教会と話し合っての方法になるけど、貴方の居場所が詳細にわかるように手を打たせて貰うからね」
「そうだ。これを鑑定してほしいんだが? 鑑定士に聞いたら「専門外」だって言われるし」
俺は背負っていた大きな黒い大剣を見せつけるようにテーブルの上にそっと置く。
刃先からじっくりと見つめていくが、最後に首をかしげて俺を見る。
「年代物だけど…で? 何?」
「知らないか? 実は邪神の宝物庫に入れてあった代物なんだけどさ。なんか他の代物と比べると…くるものがあってさ」
「そうね…分からないわ。流石に。私達も専門外よ。ていうかアビリティの専門家に貴方は何を聞いたの?」
「知っているのかと思って…」
「知るわけないでしょ? こういうことは教会に聞きましょう。年代物もなんでも知っているのが彼らよ」
そういうことなら彼らに聞くかと思って大剣を背負いなおそうとすると、何かに気が付いたのは食い入るように大剣を見る。
「これ…アルプス文字ね。今から千年前に滅んだ魔術大国家よ。当時の神に近づいた者によって滅ぼされたけど、その実力は確かだったのに。実際あと一歩まで追い詰めたと聞いたわ。その時の代物でしょうね。邪神城は元々その魔術大国家が作った城だって話だし」
教会はデンタルの東南方面の端っこに位置し、遠くからでもわかるほどに立派な大聖堂はこの町の観光名所の一つだ。
複雑な街並みを迷わずも隠れながら進んでいくアンヌ、貰った服はフリルのついた綺麗な物だったのだが、その上から隠れるようにと黒い布で覆い隠す。
小柄なのがこの際隠れる際には目立たなくて済むようで、彼女はこの小さい体をいろんな意味で感謝していた。
「お前は弱くなったんだ」
この言葉を受け入れるのにジャックの力を借りてしまったが、それでも実はこの小さい体を心底気に入っていた。
生まれた時から体が大きく成長するにつれてそれはドンドン大きくなっていくが、そんな中小学校でついたあだ名が『巨人』だ。
こっそり陰で泣いていたが、その内なんで自分が泣いて許してもらうのかが分からず、いじめようとする男子生徒を逆に殴って反撃した。
その内彼女は他の人達から一歩引かれるようになり、その頃両親が他界したときに教会関係者から「君は聖女の見込みがある」と言われて教会のある島に住むようになる。
そして、教会から学校に通うようになり、ジャックと出会った。
最初のジャックへの印象が『チビ』やら『貧弱者』とかそういうイメージ、背が低く細身なくせに誰かを助けることに全くためらいを持たない。
そんな姿が余計に苛立ちの原因になり、喧嘩へと自然と発展した。
しかし、いじめられながらも一歩も引かないその姿を見て、かつての自分を思い出してしまったアンヌ、そして勇者という過酷な運命を受け入れた小さな姿を見てむしろその姿にあこがれた。
強い姿に憧れたわけじゃない。
背が低いことに憧れたのだ。
小さくかわいい服を着て出歩いている同年代の子を見るたびに「良いなぁ~」と思いを馳せる毎日を幼い頃過ごしていた。
それがこんな年になって叶うなんて思いもしなかった。
正直に言えばジャックのご両親から渡されたピンク色のフリフリの洋服を着た瞬間、それを見て笑ったジャックに本を投げつけた時は本当に恥ずかしかった。
でも、実際に来てみて嬉しさが勝ってしまったのだ。
「こんな服を着れるんだ」
そして、違和感が無いんだと分かった時、似合っていた時に本当に嬉しく心から微笑んだ。
そんな小柄な体を最大限使い、壁を伝って屋上へと渡ったり、閃光のアビリティを最大限活用して橋から橋へと向かって跳躍して移動していく。
そして、デンタル大聖堂が見えてきたとき彼女は大聖堂の三階の出入り口から入り込み、音を立てないように飛び降りていき、二階にある司祭の部屋へとこっそりと入っていく。
「アンヌ君かな? 随分と可愛らしい姿をしているが…何があったのかな?」
「アーノルド司祭。御報告したいことが」
「フム。ソファに座りなさい。詳しく聞こう」
アーノルド司祭は一頻り話を聞いてからもう一度「フム」と言いながら組んでいた腕を解く。
「正直に言えば君が私を疑っている可能性が高いと踏んでいたが? どうして私に? もし私が黒幕の最高司祭に繋がっていたらどうするつもりかね?」
「黒幕の最高司祭はアルノ最高司祭だと思っています。ですから、ドライ最高司祭の口利き役の貴方なら大丈夫と踏みました」
「……確かに気の言う通り少し前にとある司祭から『アンヌのような人物を見つけたら報告してほしい』と頼まれている。それをドライ最高司祭に報告するとあの方は『しなくていい。する必要はない』と言われている。むしろ、これをアルノ最高司祭に渡ることを恐れているようだ」
「だと思います。多分違法薬物製造を行っていることを騎士団にバレることを恐れているんだと思います。捕まる前にアルノ最高司祭の周りを騎士団が探っていると聞いていましたから」
「魔力などの抽出と薬物製造。だが、分からないな。聖女だけアビリティの抽出をしなかったのかが。明らかに扱いが別だよ。この分ならもうsインでいると思ったほうが良いだろうね」
アンヌの表情が暗くなっていくのを見てアーノルド司祭は大きめのため息を吐き出して立ち上がる。
「なるほど。君は心が弱くなっているようだ。肉体は癒せるから誤魔化せるが、心は癒せないよ」
「………でも、私を守ってくれる人が居ます。その人が紹介する組織と協力してほしいんです」
「…分かった。紹介したまえ」
アンヌは一度礼をしてからジャックに連絡を飛ばした。
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