無関係
「なんで」
乾いた声が飛び出した。飛び出した、という表現が適切なほどに、自分の意思とは関係が無いかのような音だった。それでも擦れきった、弱くてみすぼらしい声色は紛れもなくおれのものだった。
「家に帰る勇気なんてなかっただろ。でも、首つりや睡眠薬の自殺なんて出来ない。そんな道具も持ってなかったしね。警察が動きまわってるし、そんなのを用意するほど時間はない。美術館の近くには駅ぐらいしかないから、来るならここしかないよね」
なんでここがわかったんだ――完全に榮倉に見透かされていた。昨日下見のついでに来た駅――ここ以外に逃げるあては他にどこにもなかった。ここにおれを連れてきたのは榮倉だった。榮倉がおれを導いたも同然だった。屈辱に全身が熱を持った。身体の奥底の蠢きを押さえ込んで、おれは尋ねた。
「新庄たちはどうなった?」
「知らない。見てないよ」
沈黙が訪れた。腹の奥が冷えていくのがわかった。
「お前――どうするんだ、榮倉。あんなことをしでかしたんだ。どうせすぐ、捕まる」
「そうだね」
「そうだねで済むかよ。何人殺したと思ってんだよ」
「おれは殺してないよ」
おれはしばし絶句した。
確かに、榮倉は誰も刺してない――大した罪にはならないのかもしれない。じゃあ、榮倉は無罪なのか――そんなことがあって良いのか。
確かに、あいつらが自分の意志で人を殺したのは確かだ。しかし、世界に居場所を見つけられなかった彼らの不安と憎悪をかき立て、凶行に及ぶように誘導したのは他でもない榮倉だ。むしろ負の中心は榮倉だった。
誰もが榮倉に引きつけられ、煽動された。自分の作った地獄の中で榮倉は笑っていた。
「それに、隆司だって殺してないじゃん」
「そういう問題じゃねえよ。あの中に加害者グループとしていたんだぞ。おれだってそうだ。人殺しも同然なんだ。むしろ、あいつらに同調して止めもせず手を汚さなかったおれのほうが酷く――」
「隆司は特別になりたいの?」
榮倉が問いかけに、おれはただ戸惑う。
「何言ってんだ? わけわかんねえよ」
「関係のない他人の罪まで被って、自分は死ぬしかない極悪人だって言い聞かせてる。そんなの、ただのナルシストじゃん。自分の悪さを特別視して、自暴自棄になっても仕方ないって理由付けしたいんだろ?」
「そんなんじゃねえよ。おれはただ――」
「ここに来たのも、もしかしたら死ねるかもとか思ってきたんじゃ無いの?」
「駅で死ぬ――飛び込み自殺なんて、怖いし痛いだろ」
「でもここにきた」
再びおれは沈黙した。
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