エピローグ



 ―――『強さ』とは、なんだろう。

 強いということは、何を意味するのだろう。

 例えばその答えは「我が儘を貫き通せること」かもしれないし、「大切な誰かに手を伸ばし、守れること」かもしれない。あるいは、「強い弱いは相対的なこと」とおどけてみせる者だっているかもしれない。

 その青年は暴力に愛されていた。

 相手が誰であろうと、まともに一対一で戦えば、凡そ負けるほどがないほどに。

 『強さ』を「戦闘能力」と言い換えるならば、青年は強者だった。


『お前は何故、そこまで強い?』


 幾度となくそう問われた。

 そして、常に彼は答えに窮し、時には煙草を咥えてみたりして、誤魔化した。

 知らなかったからだ。強さの理由も、訳も。

 そもそも強くなりたいと思ったことすらないのだから。


 彼にとって、自らの『強さ』とは無為であり―――、

 ―――無意味、だった。


 何が正しいかは分からない。

 守りたい者もいない。

 でも、だからこそ、青年は決めたのだ。

 想い、願い、祈るのではなく――自らに、決める。

 何もない自分だからこそ、理不尽から人を守る為に“暴力ちから”を使おう。

 暴力しかない自分だからこそ、人間らしく、生きてみよう。

 それが青年、高瀬壮太の結論だった。

 そう、意味なき強さは虚しいだけだが、それでも何かができるのならば。

 ……「それで構わない」、と今は思っている。


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