第287話 研究開発2。なんでもアリ


 善は急げということで靴を脱ぐのも面倒だったのでうちに帰らず、タマちゃんとフィオナは書斎に置いて専用個室に転移した。


 磨かれた専用個室の床で体育座りしてスマホをいじってそれラシイ本を大量にポチッた。

 円盤情報のことも思い出したので、円盤の紹介が載った雑誌の20XX年版があったのでそれもポチッておいた。

 ポチるだけで30分以上かかったが、注文した本は明後日の午前中には届くようだ。ということはミアたちのコミックと同じだ。出来れば一緒に配送してくれればいいのだが。

 

 なんとかハンドブックとかかんとかハンドブックとか結構高額の本が多かったのだが、俺からすれば微々たるものなので問題なし。預金残高をまったく気にせず買い物ができるって幸せのひとつだよな。


 しかし、こんな誰もいない部屋の中で体育座りしてポチポチするだけで最新かどうかはわからないがある程度の科学技術が2日後には手に入ってしまう。世の中便利だなー。



 新館の書斎に戻ったら、どこにいたのかフィオナが飛んできてすぐに俺の右肩に止まった。

 そのフィオナは俺の右肩の上でかわいらしい声で「ふぃふぉふぃふぉ」言っている。

 お帰りなさい。と言っているのか、俺がいなくて寂しかった。とか言っているのだろうと勝手に解釈しておいた。


 呼び鈴でアインを呼び、明後日の昼までには本を届ける。と、告げて俺はタマちゃんの入ったスポーツバッグを手に、フィオナを右肩に乗せてシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。


 ミアたちは勉強している時間なので静かに居間に入ってソファーに座り、理論武装の続きを始めた。


 そうやってコミックの続きを読んでいたら、ヴァイスがやってきてソファーの前に置かれたリビングテーブルの上に紅茶を置いて行ってくれた。俺だけでなくタマちゃんの紅茶もあった。さらにフィオナには小皿に入ったハチミツとおしぼりが用意されていた。


 気が利くなー。ただ、台所の近くにいたであろうヴァイスが、俺がここにやってきたことに気づいたことには驚いた。

 俺同様、音とか振動を感知するいわゆる「気配察知」の能力が優れているということだろう。

 警備員たちや準警備員の電気作業員たちもヴァイスと同様ないしはそれ以上の「気配察知」の能力を持っているだろうから、この屋敷は安泰だ。


 お茶を飲みながらコミックを読んでいたら、30分ほどしてヴァイスが現れてカップを片付けてくれたので、フィオナの顔と手をおしぼりで拭いてやり、おしぼりはヴァイスに渡した。



 それからもまったりコミックを読んでいたら昼食の時間になった。


 食堂に3人で移動して席に着いたらミアたちもすぐにやってきて席に着いた。

 今日の昼食は海鮮丼だった。

 俺とタマちゃんのどんぶりはそれなりの大きさだったが、ミアたちのどんぶりその3分の2くらいに見えた。10歳児が17歳の俺と同じだけ食べたらそれはそれで大変だものな。


 ご飯の上にのっかったネタは、シャケだかマス、ハマチっぽい白身の魚、海老、イクラにウニ。そしてガリ。ガリには驚いた。俺の海鮮丼にだけワサビが載っていた。前回のにぎり寿司についていたワサビの小袋を使ったのかもしれない。

 子どもたちには不要だし、タマちゃんはどっちでもいいだろうし。


 小皿には醤油が入れられていたが、テーブルの上にも醤油差しが置かれていた。

 そして寿司屋の湯呑にそっくりな湯呑に緑茶。

 俺がかった料理本にこんなのも入っていたのか? 謎だ。

 謎は謎のままでいただくとしよう。

 おっ! ミアとカリンとレンカの前には箸が置かれている。

 アキナちゃんの前には箸のほかにフォークとスプーンが置かれていた。少しずつ練習していけばいいけれど、ちゃんと食べないと本末転倒だものな。


「いただきます」

「「いただきます」」

 きれいに揃った。アキナちゃんの発音というかイントネーションも申し分なかった。


 ミアの箸さばきはまだちょっとぎこちないところがあったが、カリンとレンカは箸をうまく使って海鮮丼を食べていた。もうそこらの日本人より箸使いはうまいんじゃないか?

 アキナちゃんには、箸はまだ難しいようで一度箸を使って食べようとしたがうまく挟めずフォークとスプーンに切り替えた。

 ネタをフォークで突き刺して小皿の醤油を少しつけ、丼に戻してから酢飯と一緒にスプーンですくって食べている。これはこれでアリだな。


「これおいしい」

「まだよくわかりません。でも嫌いじゃないです」

「わたしも」

 と、カリンとレンカ。

「なまのさかな、はじめて。おいしい」

 アキナちゃん、ちゃんとした日本語で海鮮丼の感想をしゃべった。スゴイな。


 ヴァイスが調理したものだからネタに寄生虫などいないと思うけれど、いずれ治癒の水を飲むか効能果物を食べるわけだから問題ないだろう。鑑定したわけではないが、目の前のお茶も治癒の水で淹れたお茶の可能性が高いし。


 いちど酢飯じゃない海鮮丼を昔食べた記憶があるが、酢飯じゃなかったことに驚いたし、食べてみたらやっぱりあまりおいしくなかった。やはり酢飯だよな。


 しかし、これおいしいな。

 これなら寿司屋も開けそうだ。握りもこの調子なら問題ないだろう。

 さすがはうちのヴァイスシェフ、料理の東西を問わずなんでも一流に仕上げてしまう。


 タマちゃんはみんなと歩調を合わせるようコンスタントに海鮮丼を吸収していた。

 これほど気配りできるのは人間でもあまりいないんじゃないか?


 フィオナは先ほどハチミツを食べたのが重かったようで、テーブルの上に出された小皿の上のジャムには手を付けなかった。


 なので、俺が酢飯のご飯つぶをフィオナにやったら酢飯が気に入ったようでそれなりの量食べた。酢飯って甘酸っぱいものな。


 フィオナはミツを主食にしている妖精だけど、こういった穀物や果物も食べられるということは、妖精は人間と一緒で体内でジアスターゼを分泌しているのだろう。

 などと考えたのだが、そもそも妖精なんて謎生物というより幻想生物なのでその生態を考察しても無意味だった。


 どんぶり1杯完食して十分満足した。

 緑茶を飲みながらみんなが食べ終わるのをしばらく待った。

「「ごちそうさまでした」」


 すぐにヴァイスがワゴンを押してやってきて食器を片付けて、デザートをテーブルの上に置いていった。

 今日のデザートは、涼しげなガラスの器に入ったトコロテン? どう見てもトコロテンだった。こんな異世界でこんなのあるのかよ。


 トコロテンにダシがかかって、上に刻みノリが振りかけられていた。


「ミア、シュレアの街で料理ってどんなものがはやってるんだ?」

「みせのなかでたべたことないからわからない」

 何だか悲しくなるようなミアの言葉だった。

「たべたことないけど、こことかやかたのたべものよりおいしいとおもわない」

「そうか」

 俺はパンケーキを食べただけだけどそれなりにおいしかったが、比べればこっちの方がおいしいだろうな。

「ぜんぶイチローのおかげ。ありがとう。イチロー」

 ミアを実質的にさらって館に連れて行ってしまったんだけど、そう言ってもらえると俺もうれしいよ。


「アキナちゃんはどう?」

「わたしもそとでたべるすくない。わからない」

 そういえば病弱だったんだものな。少しかわいそうだが、今は元気になっているからこれから楽しいことをどんどんしていけばいい。


 一度くらいシュレア料理を食べてみたいと思ったけれど、止めておくか。調味料も大したものはなさそうだし、洗練された現代日本の食事を再現しているヴァイスの料理にかなう訳ないものな。


 実際俺がいたあの世界でも、おいしいと言える料理といえば塩と胡椒を振って焼いた肉くらいで、調理した料理でおいしい物なんてなかったものな。要は食べられればそれで十分という感じだったし。

 ここシュレアがそうとは限らないけれど、期待薄ではあるよな。


 昼食後はソフィアも交えて円盤鑑賞会となった。出し物はアニメ日本昔話の続きで、ミアがリモコンのコントローラーを操作した。


 3時まで鑑賞して、おやつを食べたところで俺はうちに帰った。

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