第285話 円盤2
両手と口の周りを肉汁とケチャップとマヨネーズでベチャベチャにして2個目のハンバーガーを食べ終えた。
皿の上とかテーブルの上にそれなりの量、具とかそういった液体がこぼれてしまった。
全くそういったものをこぼさず食べていたタマちゃんが、触手を伸ばして俺のテーブルの上だけはきれいにしてくれた。
サンキュウ。タマちゃん。
子どもたちも俺と似たり寄ったりでいろいろこぼしていたけれど、タマちゃんはミアとアキナちゃんが驚いてはマズいと思ったようで子どもたちのテーブルの上は片付けなかった。
思慮深いとでもいうのだろう。さすがはタマちゃん。サスタマスライムだ。
みんな食べ終わって口の周りと両手をナプキンで拭いたところで、エプロンを着けた電気作業員B?がワゴンを押して食堂にやってきて、食器類を片付けてスプーンとガラスの器に入ったデザートを置いていった。
確信はないけれど今日のデザートはフルーツポンチって言うんじゃないか?
液体部分をスプーンですくって口に入れてみたところシロップの入った炭酸水のようだった。
炭酸水も作れるのか。その液の中に浸けられたいろんな果物がガラスの器に入っている。
フィオナの手と口周りも一応拭いてやり、きれいな小皿にフルーツポンチの液とスプーンで小さくしながら果物を入れてやった。
フルーツポンチの中身はリンゴと梨と桃とミカンとグレープフルーツにイチゴだ。鑑定したわけではないが俺の農園の産物だったのだろう。
こういったものを日頃食べていれば、ミア同様アキナちゃんが今後何かの病気になることもないだろう。
健康が一番。何物にも代えがたい。
ハンバーガーとフライドポテトでそれなりにお腹いっぱいになったのだが、やはりデザートは別腹だった。
「ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
「午後からはさっきの機械で日本語の勉強だ。
ミアたちはソフィアを呼んできてくれ。先生が知らないとマズいし、後で分からないところは先生に聞かないといけないからな」
「わかったー」
ミアたちが食堂から出ていき俺たちは居間に。
居間に帰った俺は、6人が一緒にモニターを見ることができるようソファーをモニター前に横に並べてやった。
ミアたち4人なら3人掛けのソファーに4人並んでも大丈夫だろうから、俺とソフィア用にひとり掛けのソファーをそのソファーの左右に置いた。リモコンを手にして準備完了。
すぐにミアたちが2階から降りてきた。
ミアたち4人は3人掛けのソファーに座るように、ソフィアには右側のひとり掛けソファーに座るように言って俺は左側のソファーに座った。
「それじゃあ、始めるぞ」
「「はい!」」
元気のいい返事が返ってきた。ミアもアキナちゃんもワクワク顔をしている。カレンとレンカまで、似たような感じだ。一緒に生活しているとその辺り影響を受けたということなのだろうか?
もし自動人形が身近に人と接することで人間らしくなっていくならば、それはそれですごいことだ。
出し物はさっきと同じアニメ日本昔話。
スイッチを入れたら先ほどと同じように短い音楽と一緒に制作会社のロゴが現れ、続いてタイトルが現れた。
アニメ日本昔話。
オープニングの音楽が始まった。
ミアは音楽に合わせて首を振っている。それに合わせてカレンとレンカも音楽に合わせて首を振り始めた。
アキナちゃんだけは半分口を開けて画面を見つめていた。
初めて見る奇跡だろうからそんなものだろう。
その点ミアはすぐに日本の現代文化に順応したよな。そこらへんがお嬢さまとして育てられてきたであろうアキナちゃんとミアの違いかもしれない。
手描き風のアニメーションのオープニングなのだが、俺の思っていたオープニング若干違うような気がする。とはいっても体感的には20年も前の記憶なのでそんなものだろう。
オープニングの終わったあとの最初の昔話は『小太り兄さん』だった。
うん?『小太り兄さん』? ちょっと違和感があるがこんなタイトルの昔話あったっけ? あったようななかったような。俺が知らないだけであったんだろうな。
俺はソファーにゆったり座って映像を眺めているのだが、なぜかみんな息を詰めモニターに映る映像を見詰めている。
とある村に花太郎という名前のぽっちゃり小太りのお兄さんが住んでいた。花太郎は村のみんなからは親しみを込めて小太り兄さんと呼ばれていた。
花太郎の隣りには悪太郎という花太郎と同い年で、背が高くてがっしりした男が住んでいた。悪太郎は意地悪なので村のみんなから意地悪悪太郎と呼ばれていた。そのことで悪太郎はますます意地悪になっていった。
独特のナレーションの声も、俺の記憶と若干違っているような気がしたがそれも俺の思いすごしのような気がしないでもない。
ある夏の日、花太郎が畑に出て野良仕事をしていたところ、牛車が通りかかった。
牛車の窓が開いていて、そこから牛車に乗った女性の横顔が見えた。
その時、花太郎はその女性こそ自分の理想の女性だと悟った。つまり一目ぼれしてしまった。
そこで花太郎は一目ぼれの女性のため毎日ダイエットしながらトレーニングすることにした。
あれ? 何だこのアニメ。ダイエットにトレーニング? 日本の昔話じゃないのか?
少なくともこの前の映画より数段マトモだからいいか。
ミアたちも真剣に見ていることだし。
花太郎はトレーニングと適度なダイエットで見る見るうちに筋骨たくましいマッチョマンになっていった。隣の悪太郎はそれが面白くなく花太郎のトレーニング器具を壊したりと、ことあるごとに邪魔をしていた。
悪太郎は村一番の体格で力持ち。村の誰も悪太郎にかなうものがいなかったため、誰も面と向かって悪太郎に文句が言えなかった。
花太郎は悪太郎の意地悪にめげることなく黙々とトレーニングを続けていた。
ここであの有名なボクシング映画のテーマが流れてきた。このアニメ大丈夫なのだろか?
そんなある日、優勝者は金一封のほか、お姫さまと結婚できるという相撲大会がお城で開かれることになったとお触れが出された。
実はこの相撲大会。今や細マッチョとなった花太郎が黙々とトレーニングしている姿に一目ぼれしたお姫さまがお父さんであるお城のお殿さまに頼んで開いたものだった。
花太郎はそんなことは知らなかったが、その大会に出ることを決め、更にトレーニングに励んだ。
隣の悪太郎も相撲大会に出ることを決めて、それなりのトレーニングをしながら花太郎のトレーニング機器を壊したりして邪魔も続けていた。
相撲大会当日。
村からお城にやってきた花太郎と悪太郎は順当に勝ち進んでいった。
そしてとうとうふたりはお姫様の見守る中、決勝戦で戦うことになった。
残念なことに花太郎はひとつ前の試合のは勝ったものの、その試合で右手首を傷めていた。
「右手を傷めたお前が体で俺に勝てるわけない」
悪太郎が挑発する。
しかし花太郎はそんな挑発には乗らない。
「双方手をついて、はっけよい」
行司の軍配が返った。
悪太郎は頭か突っ込んできた花太郎にのど輪を決めようと右手を伸ばしたが、すかさず花太郎がその手をはたき、そのままがっぷりと四つに組んだ。
上背にすぐれる悪太郎は花太郎の回しを掴み上手投げをうとうとしたが、花太郎は傷めた右手の痛みに耐えながらそれをこらえる。
そういった攻防を数回重ねているうちに悪太郎の息が上がってきてしまった。
そこで悪太郎は花太郎の傷めた右手を掴もうと左手を花太郎のマワシから離したところを一気に花太郎が上手投げを決めてしまった。
そこで行司の軍配があがり花太郎の優勝が決まり、花太郎はめでたくお城のお姫さまと結婚することが決まった。
めでたし、めでたし。
一方花太郎に投げられた悪太郎は、土俵から立ち上がり、散々悪態をついて土俵から下りて行ったのだが、決勝の取り組みだけ観戦していたお城のお殿さまは悪太郎の態度に大いに立腹し、悪太郎を捕らえお殿さまの国から追放してしまった。
こういったお話にはなにかためになるような教訓があるはずなのだが、一体どういった教訓があったのだろう?
ミアたちが4人揃って拍手しているところを見るとそれなりに名作だったのか?
ただ、登場人物がモニターの上で動いていたということだけで喜んでいたのかもしれない。
1話が10分ちょっとしかなかったのだが、内容はぎっしりだった。
ただその内容が、昔話風の絵柄なのに妙に現代風にアレンジされていたところが気になった。
俺はそういったところが気にはなったのだが、ミアたちはそういったところが気になるはずもないし、アキナちゃんも何となくだろうが話の内容を理解できたようだ。
いちおうこれも勧善懲悪ものだったんだろうが、こんな子どもたちでも勧善懲悪ものが好きなんだなー。
今回はアニメ中心にしたため用意していないのだが、今度は時代劇を揃えても良さそうだ。
『小太り兄さん』の次は『草地蔵』だった。
ミアたちが真剣に見ているのだが、『笠地蔵』は知っているが『草地蔵』なんて聞いたこともない。おかしいなー。
円盤が入っていたケースをよく見たらオリジナルアニメ『アニメ日本昔話』は『ま〇が日本昔話』とは無関係です。と、ちゃんと書いてあった。俺が説明も読まずスマホで注文したのがいけなかったようだ。
そんなこと何も関係なくミアたちは手を握りしめ真剣にモニターを見ている。
あんなへんてこりんな映画を見るくらいだったら、最初からこの路線でいけばよかったような気がする。
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