第284話 円盤1


 秋ヶ瀬ウォリアーズと鶴田たち3人の甘酸っぱい青春ドラマを見せられた翌日。


 注文していた荷物が今日の午前中に到着する予定なので珍しくどこにも行かずうちで待機した。

 とは言っても机の椅子に座ってタマちゃんに出してもらったコミックを読んでいるので全然暇ではない。


 母さんが買い物に出て留守の間に荷物が届いたので下駄箱の上に置いている認め印を伝票に押して受け取った。

 双眼鏡の箱と円盤の入った箱はそれほどでもなかったが円盤プレーヤーとモニターの箱は結構大きかった。

 2階に運んでも仕方ないので、2階から降りてきてくれたタマちゃんに収納してもらった。



 今日は日曜で父さんも休みだったけど、父さんは朝から出かけてうちにいなかったので、俺は食堂のテーブルの上に『夕方までダンジョンに行ってくる。帰りは4時か5時』と書置きしてから戸締りを確かめてタマちゃん、フィオナを連れてシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。


 ちょうど電気作業員Aが玄関ホールを掃除していたので居間に連れていき、そこでタマちゃんに出してもらった円盤プレーヤーとモニターを配線してもらった。

 

 

 電気作業員Aが説明書を読みながら配線し、いちおうセットは完了したのだが、機械の置き場所はテレビ台がなかったので床の上にじか置きになってしまった。

 これでは見にくいし何かあったら壊してしまいそうだ。

 アインに一言言えばそれラシイものを作ってくれそうだけど、できることは自分でしようと思ってテレビ台を買いに行くことにした。


 いつものホームセンターの屋上駐車場に転移してエレベーターで2階に下り電気製品売り場に行って係の人に聞いたところ、テレビ台は売ってないので家具屋さんを探したらどうですか。と、言われた。


 それじゃあ、ということでもうひとつのホームセンターに跳んだ。こっちのホームセンターはインテリアの会社が母体だったこともあり、2階から上は家具を含めたインテリア製品などを置いていたはずなのでテレビ台があることは確実だ。


 2階に上がって店の人を捉まえてテレビ台の売り場を聞いたら案内してくれた。

 今回買ったモニターを置くには少し大きなテレビ台を選んだ。

 組み立て式のテレビ台だったようで、それほど大きくない箱に入ったテレビ台をレジまで店の人が手に持って運んでくれた。

 そこで精算した俺は箱をカートにいったん載せて、適当なところにまで歩いて行きタマちゃんに収納して貰った。

 カート置き場にカートを返してから少し歩いてそのままシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。


 玄関ホールから居間に入って、床に直置きのモニターの近くにテレビ台の入った箱をタマちゃんに出してもらい、そこで電気作業員を呼んだ。

「済まないけど、これ組み立ててくれないか?」

 俺の漠然とした指示でも、ちゃんと理解できたようで、電気作業員Aは箱の中からテレビ台の部品を取り出し、箱に書いてあった組み立て法を見ながら5分ほどでテレビ台を組み立てて、さらにモニターをその上に置いてテレビ台の中に円盤プレーヤーを入れて配線をし直してくれ、機器の説明書はテレビ台の引き出しに入れておいてくれた。


 俺がやったら30分はゆうにかかっていただろう。実に有能だ。

「ありがとう」

「どういたしまして。また何かありましたらお呼びください」

 そう言って電気作業員Aは居間から出て行った。


 次に俺はタマちゃんに言って、今回買った円盤を出してもらいテレビ台の中に置いたプレヤーの横に並べて置いた。

 上映会は昼食が終わってからでいいだろう。

 時計を見たらもう11時半だった。

 昼食は12時だから、ちゃんと円盤が再生されるかちょっとだけ見てみよう。


 モニターと円盤プレーヤーのスイッチを入れ、プレイヤーのそれっぽいボタンを押したら円盤を入れるためのトレイがにゅるりと出てきた。

 テレビ台に並べていた円盤の中から適当に選んだ円盤をケースから取り出してプレーヤーの円盤トレイに入れてボタンを押したら円盤を載せたトレイが本体の中ににゅるりと引っ込んで、モニターに画面が現れた。


 付属のリモコンを操作して再生開始。

 セッティングに問題はないようで、短い音楽と一緒に制作会社のロゴが現れた。ちゃんと再生できた。俺ならともかく電気作業員Aの仕事だもの当然か。

 そのあと、円盤のタイトルが現れた。


 アニメ日本昔話。

 なかなかいいチョイスではあるが果たしてミアに受けるかどうかは不明だ。


 オープニングの音楽が始まったところで、懐かしくもありそのままオープニングの音楽を聞いてしまった。なんだか俺が記憶していたオープニング音楽とは違うような気がしたが、実質20年も前に聞いた音楽なので俺の記憶違いなのだろう。


 そうこうしていたら、2階から階段を下りてくる音が聞こえてきた。

 食事に下りてきたミアたち4人が居間に入ってきたので、ちょっとだけ見せてやった。

「すごーい」

「食事の後でみんなで見よう。他にもたくさんあるから期待しててくれ」

「「はい」」


 アキナちゃんはポカンと口を開けて「&%#K@」とつぶやいていた。

 こういうのをカルチャーショックといっていいのかわからないが、そうとう驚いたようだ。

「それじゃあ、これはいったん消して食堂に行こうか」

「「はい」」


 アキナちゃんもある程度は俺の言葉が理解できているようだ。

 ミアもそうだけど、この国の子どもは頭がいいのだろうか?


 テーブルには俺とタマちゃんの席がちゃんと用意され、料理が並べられていた。

 各自の皿の上にのっかっていたのは2つのハンバーガーとフライドポテト。フライドポテト用のケチャップの小皿も付いている。

 それにコップに入ったオレンジジュースが付いていた。

 もちろんフィオナの小皿も用意されていてハチミツ、ジャム、そういった瓶が置かれていた。

 子どもたちの小さな口では食べにくいだろうと思って子どもたちの皿を見たら、子どもたちのハンバーガーは俺とタマちゃんのものと比べると少し小さいようだ。


 フィオナの小皿にハチミツとジャムを何種類か取ってやり、

「いただきます」

「「いただきます」」


 牛肉と思われる厚めのパテの上にきゅうりのピクルス、レタス、トマト、スライスチーズがのっかって、それらを輪切りにした丸パンで挟んだ本格的なハンバーガーだった。


 両手で持ってハンバーガーにかぶりついたらパテの肉汁がジュワリと染み出てきた。それと一緒にはみ出したケチャップとマヨネーズが手に付いてしまった。


 うまい!


 両手と口の周りがベチャベチャになってしまったが、うまい。

 俺の顔を見たフィオナが明らかに笑っている。


 これまでダンジョンセンター近くのハンバーガーショップのハンバーガーをおいしいと思って俺は食べていたのだが、これを食べてしまった俺はこれからアレをおいしいと思って食べられるのだろうか? 実際はおいしく食べてしまうとは思うけど、不安になるようなおいしさだ。

 


 いろいろ皿の上とテーブルの上にこぼれてしまうの、丸ごとひとつ一度に食べきらないと結構大変だ。


 ハンバーガーを初めて見るアキナちゃんは最初戸惑っていたが、ミアが食べ方を教えてやったのでアキナちゃんもすぐにみんなの真似をしてハンバーガーにかぶりついた。


 アキナちゃんも含めて子どもたちは小さな口を思いっきり開けて真剣な顔をして食べている。


 俺もとにかく休まずハンバーガーを食べて、ナプキンで手と口を拭いて、オレンジジュースを飲んだ。

 このジュース、氷が入っているわけではないが結構冷たいぞ。

 生ジュースだから当然かもしれないがオレンジジュースもうまい。

 ポテトをしばらく摘まんでから、2個目のハンバーガーに挑戦した。



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