第283話 青春とはなんだ


 午後から斉藤さんたちを連れて1階層を徒然なるままに徘徊していたら偶然鶴田たち3人に出会った。

 合流した俺たちは一緒に行動することにした。


 斉藤さんたち3人と鶴田たち3人も一緒に歩いているうちに打ち解けたようで何より。


 青春真っ盛りの6人に振り返り、

「今度7人でバーベキューしないか?

 以前バーベキューコンロと木炭を買ったんだけど使ったことないんだよ」

「「さんせーい」」

「長谷川、俺たちも一緒でいいのか?」

「当たり前だろ。何言ってるんだ」

「「ありがとう、長谷川」」

「俺は夏休み中いつでもいいから、6人で相談して日にちを決めてくれ」

「分かった。じゃあ、ダンジョンから出たらセンター前のバーガーショップに集合してみんなでアドレス交換しよ」

「「うん」」「「了解」」

「ところで長谷川くん、バーベキューはどこでするの?」

「行き先は、俺の秘密基地。期待してていいから」

「へー。秘密基地って、長谷川くんも男の子なんだねー」

「いや、ホントに持ってるんだよ」


「そこって長谷川のアレなのか?」

「あそこの近くに池があるんだけど、その池の近くだ」

「ほう。楽しみだ」


「食材も飲み物も俺が揃えるから、みんなは手ぶらでいいから」

「そんなの悪いからわたしたちも何か用意するよ」

「「うん」」

「気持ちだけでいいよ。荷物運ぶの大変だし」

「ホントにいいの?」

「全然問題なし」


「長谷川、また変わったものを用意してくれるのか?」

「バーベキューと言っても肉については焼肉みたいなものだから、普通に牛肉を揃えるつもりだけどな。あとはシーフードと野菜だな」

「そうか。そうだよな」

 浜田は少し気落ちしたようだ。ドラゴンの肉も用意した方がいいか。

「浜田。何か面白いものがあったら用意しておくよ」

「すまんな。長谷川」

 あからさまにうれしそうな顔をされてしまうと絶対用意しないとマズい。

 浜田が喜びそうな、いい肉はないだろうか?

 ドラゴン肉もある程度用意してもいいがシュレアの商店街の肉屋で売っていたトカゲとか魚屋で売っていた大蜘蛛と大サソリを仕入れておくか。これなら他の5人はいざ知らず浜田だけは泣いて喜ぶだろう。



 それからバーベキューに思いをはせる6人を連れて1時間ちょっと。定刻と考えていた3時近くになった。

 午後からはそれほどモンスターを見つけられなかったが、それはそれで6人は満足したような顔をしているようだ。

「それじゃあ、3時半にハンバーガーショップの前に集合でいいか?」

「「了解りょうかーい」」「「了解だ」」


 6人とは渦の手前で別れて俺は専用個室に転移した。

 武器をロッカーに返して準備完了。

 まだ約束の時間まで20分以上あったのでタマちゃんから出してもらったコミックを読み始めた。


「主、そろそろハンバーガーショップに行った方がいいのでは?」

 腕時計を見たら3時25分だった。危ないところだった。

「タマちゃんありがとう」

 コミックをタマちゃんに返してハンバーガーショップの駐車場近くに転移した。


 駐車場からハンバーガーショップの入り口の方に回ったら、入り口前で6人が仲良く駄弁って俺を待っていてくれた。

 店の中に揃って入り、それぞれ注文して頼んだものを受け取った。

 7人全員が注文の品を受け取ってからトレイを持って2階に上がり、4人席を2つくっつけて7人で座った。

 俺はハンバーガーセットでコーラとポテトの大。いつもポテトの大を頼んでいた秋ヶ瀬ウォリアーズの3人は今日はポテトの小だった。

 ここでふと古文の一節を思い出した。

『ゆく川の流れは絶えずしてしかも元の水にあらず』


 俺を含めた男子4人が通路側、女子3人が窓側。

 俺の向かいは空席。俺の席って何かの幹事席?


 俺以外の6人はセンターの更衣室で着替えているので、それぞれ夏向きの普段着を着ている。

 言い換えれば涼しげな服を着ていて俺だけ長袖の防刃ジャケットに防刃パンツ、そして安全靴。俺の場違い感は言うなれば異次元の場違い感なのだが。


 気にしたら負け。気にしたら負け。ようは気の持ちよう。

 俺は6人の弾んだ会話を聞きながら足元のリュックにポテトフライを突っ込んでいった。


 ポテトフライをリュックの中に突っ込みながら、先ほどとは違う古文の一節を思い出した。

『沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす』

 俺っておごっていたのだろうか?(注1) 今度のバーベキューではこの6人にもろもろおごってやるつもりなのだが。


 俺にはタマちゃんがいるし、今日は連れてきていないけどフィオナもいるしー。


 冗談はさておき、鶴田たち、特に浜田が女子とこういうふうに普通に会話を楽しんでいるのを見ると、俺もなんだかうれしく思うよ。嘘じゃなくって。


「みんな揃ってるから、バーベキューの日付を決めてしまわないか?」

 6人が楽しそうにしているところに水を差すようで恐縮なのだが、バーベキューはいつでもいいとは言ったものの俺にも用意があるからな。


 そしたら各自がスマホを出して予定を確認していた。

 みんなスマホに予定を入れてるんだ。素直に感心してしまった。

 俺は部屋の壁に下げてるカレンダーに手書きしてるんだけど。


 6人ともお盆を含めてその前後は予定がある。ないし予定が決まっていないものの予定が入りそうだ。というのでバーベキューの開催日は8月の最終日曜。集合場所は1階階層の渦の前。待ち合わせ時刻は9時。

 当日2時間ほど腹ごなしに1階層でモンスター狩兼散歩してそれからバーベキューを始めようということになった。

 

 バーベキューの予定が決まった後、6人はそれぞれメアドなど交換していた。

 鶴田たちは完全にリア充に化けてしまった。

 わが校での勝ち組だな。

 リア充で思い出したけど、今年の文化祭って何やるんだったっけ?

 去年は有志が夏休みの間も活動してたけど、今年は夏休み前に文化祭の話は何もなかったような?

 協力はもちろんするが、文化祭の主役にはなりたくはない。



 なんのかんので今日はいつもより少しばかり長くハンバーガーショップにいたのだがそれもお開きになった。

「それじゃあ、みんな」

「「長谷川くん、それじゃあ」」「「長谷川、それじゃあな」」


 6人は揃って和気あいあいとセンターのバス停に歩いて行った。

 青春とはなんだ? そうとも、これが青春だ!


 俺は6人の後ろ姿を見送ってからうちの玄関前に転移した。


「ただいまー」

『お帰りなさい』


 その日の夜、俺は今朝ミアから頂いた欲しい物リストを見ながらスマホで発注した。

 結構な作業だったのだが、ミアのうれしそうな顔を想像したら手も軽く動いた。

 しかしこのスマホの入力、慣れない。

 コミックなど明後日の午前中に着きそうなものだが、明々後日しあさっての午前中にコミックは届くようだ。


注1:驕って

原文は「奢れる人も久しからず」で「奢」の漢字のようです。どちらもわたしでは書けない漢字なので問題ないんですけどね。



[あとがき]

「青春とはなんだ」「これが青春だ」観てた人いるかなー? 「青春とはなんだ」が石原慎太郎さん原作だったとは知りませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る