第262話 にぎり寿司と改造
本屋でコミックをかなりの数買ってスポーツバッグの中のタマちゃんに預けた。それから俺たちは昼食のためレストラン街に行くことにした。
時刻は11時半。まだ混んではいないように見えるのだがどうだろう?
ただ、レストランでの食事はなー。カリンとレンカとソフィアが食べられないのがネックなんだよなー。
3人に食べさせず、俺とミアだけで食べるのはイジメに見えるものなー。
何を食べるかまだ分からないけれど、持ち帰りのある店に行けばいいか?
「さーて、ミアは何が食べたい?」
「わからない」
「どうせなら、今まで食べたことのないものがいいよな」
「はい」
ミアは館でもシュレア屋敷でもたいていの物を食べているはずだからなー。
この前はハンバーガーショップだったし、今日は何にするか?
そうだ。酢飯は食べたことがあったかもしれないが、ちゃんとしたにぎり寿司はまだ食べたことないだろう。
テイクアウトがあれば屋敷に戻って人目を気にせず食べられるからありがたい。
そう思って見回したところ、ちょうど寿司屋が目の前にあった。
中に入って受付でテイクアウトできるかと聞いたところできるとのこと。
「ミア、店の中だとソフィアたちが食べられないことが目立つから、持ち帰りして屋敷で食べてもいいよな」
「それでいい」
受付の店の人に聞いたところ、シートに個数を記入すればテイクアウト用に握ってくれるということだったので、さっそくシートに個数を書いていった。個数は1貫=2個単位と書いてあった。
俺は上から20種類。3貫ずつ。それにカッパ巻き、しんこ巻き、鉄火巻きを各々3本注文しておいた。
にぎりだけでも120個。
かなりの量だが俺とミアとタマちゃんの分だ。タマちゃんはいくらでも食べられるけど、それだと俺たちの分がなくなってしまうので、タマちゃんは1個ずつだ。
タマちゃんが1個だけだと今度は寿司が余ってしまうが、余った寿司は屋敷の食糧庫に入れておけば傷まないはずなのでミアが好きな時に食べられる。
俺自身ワサビなしでもおいしくにぎりを食べられるので、さび抜きにしてもらった。
シートを店の人に渡し精算を終えて受付の横の椅子に座って出来上がりを待っていたら10分ほどで大きなプラスチックのパックが2段になって運ばれてきて、それがビニール製の風呂敷に包まれて渡された。
その間ミアたちはおとなしく椅子に座っていた。かわいらしい外国人の女の子が3人が椅子に座り、美人の外国人のお姉さんがその隣に立っているものだからかなり注目を集めてしまった。
風呂敷包みは横にしないように気を付けてスポーツバックの中のタマちゃんに預かってもらった。
「それじゃあシュレア屋敷に帰ろう」
「わかった」「「はい」」
「ここの階段の踊り場には人はほとんどいないからそこでシュレア屋敷に転移する」
3人を連れてビルの中を横断し、階段のある一画まで来たら、踊り場まで移動しなくても誰もいなかったのでそこからシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。
「ご苦労さま。
じゃあ、さっそく食事にしよう」
「わたしたちは2階に戻っています」そう言ってソフィアたちは階段に向かおうとしたので、タマちゃんからコミックの入った紙袋を全部出して3人に持たせた。
何だか3人がかわいそうになってきた。特にカリンとレンカのふたり。
本人たちがミアと一緒に食事できないことを気にしているとは思えないが、食事できるよう改造できないかあとでアインに聞いてみよう。
食堂に移動して、タマちゃんから寿司のパックを出してもらい、台所にいるだろうヴァイスに小皿を4つとティースプーン持ってくるように言って、それから緑茶も3人分用意するよう言っておいた。
ここの食堂のテーブルは6人掛けなのだが、ミアは俺の向かいの席に座っている。
すぐにヴァイスが小皿とティースプーンを持ってきたので、先にフィオナのためにタマちゃんに出してもらったハチミツの瓶からハチミツをすくって小皿に入れてやった。
フィオナは俺の右肩から下りてハチミツの前でスタンバった。
テーブルの上で寿司の入った大型のパックの1つの蓋を開け、中から醤油の入った小袋を取り出して小皿に醤油を入れた。
ミアは俺の手元を見ながら自分で小袋の端をちぎって小皿に醤油を入れた。
「ついている割箸で食べてもいいけれど、にぎり寿司は手で食べていいんだ。
その前にお手拭きが付いてるからお手拭きで手をきれいに拭いてからな」
「わかった」
俺が先にお手拭きをビニールの袋から出して手を拭いた。ミアは俺の動きを見て手を拭いた。
なんでもいいお手本になるわけだからちゃんとしないといけない。
「タマちゃんも椅子に座ってくれ」
タマちゃんがスポーツバッグから這い出て俺の隣りの椅子に座り、偽足上手に使って小皿に醤油を入れた。
「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」
「タマちゃんは、悪いがひとつずつな」
「はい。ひとつずつで十分ですから
「うん。分かった」
タマちゃんって元はタダのスライムだったはずなのにホントに良くできてるよな。
俺は端の方から食べていくことにした。まずはイカだ。
ミアも俺のとった隣のイカを取り、タマちゃんもイカを取った。
「ご飯の上に載ってるのをネタって言うんだが、ネタにちょっとだけ醤油をつけて食べるんだ。こんな感じ」
今回も俺がお手本を見せて、一口でイカのにぎりを食べてしまった。
ミアも俺のやった通りイカに醤油をちょっとだけ付けて口に入れた。ミアの場合口が小さいのでイカをかみちぎりながら2、3口でイカのにぎりを食べた。
「どうだ?」
「ごはんがすっぱい。すこしあまい。すごくおいしかった」
日本食に慣れているミアだからこそにぎりのうまさが分かるのだろう。
「それじゃあどんどん食べてくれ」
「わかった」
そこで、ヴァイスがお茶を持ってきてくれたので礼を言って受け取った。
「イチロー、これにしょうゆどうやってつける?」
ミアはウニの軍艦でどうやって醤油をつけるか悩んだようだ。ひっくり返すとウニがこぼれるもんな。
「周りをノリで囲んだにぎり寿司を軍艦って言うんだけでど、軍艦の場合は小さなきゅうりとかのってるから、そのキュウリを箸で摘まんで醤油をつけてそれを戻して一緒に食べるといいそうだ。割り箸の使い方はわかるかな。
俺がやって見せればいいか」
付いていた割り箸を紙の袋から出してパチンと割って見せてやった。失敗すると途中で折れてしまうけど、ちょっと高級そうな割りばしだからミアでもちゃんと割れるだろう。
俺の割りばしの割り方を見たミアは予想通りちゃんと割りばしを割ってウニについていたきゅうりを箸で摘まんで醤油につけて、それを戻してウニの軍艦を手で摘まんでふた口で食べてしまった。
「今のはウニってネタだったんだがどうだ?」
「かわったあじ。すごくおいしい」
それはよかった。
「どんどんたべてくれ」
「わかった」
それから巻物も食べて見せてやったので、ミアはもうどのネタも問題なく食べることができる。
「ミア、どうだ?」
「どれもみんなおいしい。イチローのくにすごい」
「そうだな。食についてはかなり進歩した国だからな。
ミアがお腹いっぱいになったら、コミックを読んで日本語の勉強だな」
「たのしみ」
「タマちゃんは寿司を食べてどうだ?」
「おいしいというのが少しわかって来たような気がします」
訓練次第で舌はどうにかなるということか。
「そういえばタマちゃん。タマちゃんはいままでかなりの数のモンスターを吸収してるだろ?
あれって実際のところどうなっているんだ?」
「収納ではなく吸収したものは収納と同じように体内に貯えられますが、わたしが活動を続けていると少しずつ本当の意味でわたしに吸収されます。消化と言ってもいいかもしれません」
「なるほど。ということはこれから先かなりの期間タマちゃんは本当の意味でお腹が空くことはないんだ」
「はい。正確な数字はわかりませんが、何も吸収しなくても数百年単位で生存できると思います」
やはりタマちゃんは頭だけでなく体もハイスペックだったということか。
寿司のパックを1つ全部食べ終えて、2つめの3分の1ほど食べたところであとは残すことになった。ヴァイスに食糧庫に保存するように言っておいた。
お寿司のあとのデザートはバニラとチョコレートのアイスクリームだった。すごく濃厚なアイスクリームでスーパーでも売っているが小さいくせにずいぶんお高いアイスなどよりよほどおいしかった。
もちろん小さいくせにずいぶんお高いアイスは値段相当の味ですよ。
昼食を終え、ミアは2階に戻り、俺は居間のソファーで少し寛いだ。
タマちゃんはすぐにスポーツバッグの中にもぐりこんだ。周囲を何でもいいから拘束されていれば体型を保たなくて済むので楽なのだろう。
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