第263話 改造。アキナ


 俺はしばらく居間のソファーで寛いだところで、カリンとレンカを食事可能に改造できないかアインに聞いてみるため新館に行くことにした。


「特にタマちゃんに用事はないと思うが、タマちゃんも一緒に新館に行くかい?」

 と、タマちゃんに聞いたところ「このままスポーツバッグの中にいます」とスポーツバッグの中から返事が返ってきた。


「タマちゃん、それじゃあな」

「はい。行ってらっしゃい」


 俺はフィオナだけ連れて新館の書斎に転移した。


 書斎の机の呼び鈴でアインを呼んだら、いつものように20秒でアインが書斎に現れた。

「アイン、カリンとレンカが食事できるよう改造できないか?

 ミアと一緒に連れ歩くとき、カリンとレンカが食事できないと見た目がよろしくないんだよ。それにいつも一緒のカリンとレンカが食事の時だけ離れるのも何だかかわいそうに見えて」

「改造は可能です。しかし与えられたものを口から体内に取り込むだけで人が味を感じるように味を感じることは難しいと思います」

「ここの料理人はどうやって味をみてるんだ?」

「人にとって最適であろう味の組み合わせを色として感知し、色として覚えています」

 確かに味って難しいよな。

「ですが、できるだけのことはやってみます」

「そうか。それじゃあカリンとレンカを連れてくるから頼む」

「了解しました」

 タマちゃんは今現在味の修行中だが、カリンとレンカも修行すれば味が分かるようになるんじゃないかな。俺の勘だけど。

 最近の俺の勘の勝率はかなり上がってきているから期待大だ。


「マスター。先日のヒドラの解体は終わって部位ごとに保存しています。頭だけは原形のまま保存しています」

「分かった」

「はい」


 俺はカリンとレンカの可能性に挑むため、シュレア屋敷にもどった。


 玄関ホールから2階に向かってカリンとレンカを呼んだら、ミアと一緒にふたりが階段を下りてきた。

 3人揃っているところをあらためて見ると、ミアの方がカリンとレンカと比べて少しだけ背が高いようだ。

 最初はミアの方が少しだけ背が低かったはずだがミアが成長したということなのだろう。

 5月のゴールデンウィークにミアと出会っていまは7月の下旬だから、3カ月弱か。

 子どもが大きくなるのは速いものなんだなー。

 今回の改造ついでにカリンとレンカの背も伸ばしても良いかもしれない。


「カリンとレンカが食事できないのは色々と都合が悪いからアインに頼んで改造してもらうことにした。

 改造したらカリンとレンカも食事できるようになるはずだ」

「よかったー」

 ミアがうれしそうな声を上げた。俺が来ないときはいつもひとりで食事しているんだろうからミアの気持ちはよく分かる。

「ただ、食べた物の味が分かるかというと、微妙なところだそうだ。

 だけど、タマちゃんもいまその微妙なところでいろんなものを食べて経験して味について少しずつ分かってきたと言っている。

 だから、カリンとレンカもこれからいろんなものを食べていけば味が分かるようになると思う」

「「マスター、ありがとうございます」」

「うん。じゃあ行こうか。

 ミアはひとりで勉強じゃつまらないだろうからコミックでも読んで待っててくれ」

「わかった。イチロー、ありがとう」



 俺はカリンとレンカの手を取って新館の書斎に転移した。

 書斎で俺たちを待っていたアインに、ちょうどさっき思いついたことを言っておいた。

「ミアの方がカリンたちより背が高くなってきたようだからカリンとレンカの身長の調整も兼ねて食事ができるよう改造してくれ」

「了解しました」

「いつごろ完成する?」

「これから2時間もあれば完成します」

「わかった。俺は適当に時間を潰してそのころ迎えに来る」

「はい」


 アインがカリンとレンカを連れて書斎を出て行ったところで久しぶりにハンモックで寛いでやろうと半地下要塞に転移した。


 手をかけた覚えはなかったのだが、部屋の中にはホコリひとつなかった。

 アインが気を利かせてここも自動人形の守備範囲にしてくれたに違いない。


 窓を開けて、ハンモックに横になったら、気持ちいい風が吹いて急に眠くなってきた。

 俺の胸の上で座っていたフィオナに向かって、

「2時間したら起こしてくれ」と言ったら、フィオナがうなずいた。

 タマちゃんなら間違いなく2時間後に起こしてくれると思うけれど、フィオナの場合俺と一緒に寝てしまうはずなのでいささか心もとないが俺の体内時計もある程度は正確なので何とかなるだろう。そう思って俺は目を閉じた。



 俺の鼻の辺りがむずむずすると思って目を開けたらフィオナが俺の鼻先で浮かんでいた。

 部屋の時計を見たら14時半。目を閉じてちょうど2時間経っていた。

「フィオナありがとう」

 フィオナに礼を言い、ハンモックから降りた。

 入り口に置いたままになっていた安全靴を履いて、フィオナが右肩に止まったところで新館の書斎に転移した。


 

 書斎の中にはアインのほかにカリンとレンカが立っていた。

「改造は問題なく完了しました。ふたりは味についておいしい、そうでないの判断はまだできませんが味の違いは認識できるようになっています」

 それなら、訓練次第で味の良しあしも区別できるようになるだろう。


 そのカリンとレンカの見た目は全然変わっていなかったが、少し背は伸びたはず。

 そのカリンとレンカはふたりとも手に布袋を提げていた。

「その荷物は?」

「ミアとふたりの普段着などを持たせました」

 本来なら俺が気付かなければいけない事だったがさすがはアイン、気が利く。

 普段着くらい向こうでも用意できるのだろうが、あっちで買った衣料品だと見た目もそうだし生地もあまりよくなさそうだものな。


「じゃあ、カリンとレンカ、シュレア屋敷に戻ろうか。

 帰ったら、何かおいしいものをヴァイスに作ってもらおう」

「「はい!」」


 食事できるようになった以上ふたりは排泄の必要があるのだろうが、野暮なのでアインにもふたりにも何も聞かなかった。


 カリンとレンカが空いていた手で俺の手を取ったところでアインに軽く会釈した俺はシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。


 俺たちが玄関ホールに現れたのを察知したようですぐにミアが階段を駆け下りてきた。

「うまくいったようだ。

 ミア、ヴァイスに言って何かおいしいものを作ってもらってくれ、みんなで食べよう」

「わかったー」

 そう言って駆けだしたミアを、荷物を持ったカリンとレンカが追いかけていった。


 ふたりと一緒に食事できることがよほどうれしいんだろうな。もっと早く改造しておけばよかった。


 俺は3時のおやつに呼ばれるまで居間で寛いでいよう。


 居間に入ったらタマちゃんの入ったスポーツバッグから「主、お帰りなさい」とタマちゃんの声が聞こえた。

「カリンとレンカも食べられるようになった。味の違いは分かるそうだから、タマちゃんと一緒で訓練すれば味の良しあしとかいろんな味が分かってくるだろう」

「よかったですね」

「ミアも喜んでいた」


 ソファーに座って寛いでいたら、警備員AだかBだかが入ってきた。

「マスター。先日の紅の旅団のハーブロイ氏がマスターに会いたいと門前にいるのですが、いかがしましょうか?」

 ハーブロイさんのことを知っているということは警備員Aだったか。警備員同士で情報共有していたらそうとも限らないが警備員Aということにしよう。


 ハーブロイさんがここに何の用事でやってきたのか分からないが、いいお客さんだし邪険に扱う必要はない。

「どこか適当な部屋に通してくれ。俺が相手する」

「了解しました。玄関ホールを挟んでこの部屋の向かいの部屋に案内します」

「分かった」


 俺はタマちゃんに白銀のヘルメットを出してもらってそれを被った。

 今の俺は普段着を着ているので違和感は半端ないのだろうが、俺自身、自分の姿は姿見でもなければわからないのでセーフ。ってことはないかもしれないが致し方ない。


 自分の格好を若干気にしつつ玄関ホールの先の部屋に入ったら、そこは応接室になっていた。

 大き目のテーブルに椅子が6脚置かれていたので、俺は真ん中の椅子に座って来客を待った。


 俺が席について間を置かず警備員Aがハーブロイさんと彼の娘を連れて入ってきた。たしか名まえはアキナちゃんだったと思う。

 あの時のアキナちゃんはかなり痩せていたが、今の見た目はちゃんと肉も付いてすっかり健康的な女の子になっている。

 すっかり元気になったようで何よりだ。

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