第261話 本屋にて


 若者の無軌道な衝動を描いた問題作と言ってもいいのかもしれないが、俺たちにとっては大問題作だ。


 これって某映画会社がポリコレを反省して作った超大作じゃなかったのか?

 どんなヤツがこんなくだらない脚本を書いたのか気になってエンドロールを見てしまった。

 しばらくスクリーンを見ていたら脚本家の名まえが流れた。


 WRITER YUUSHI YAMAGUCHI


 聞いたこともない脚本家だ。こんなの使ってるから訳の分からない映画になるんだよ。映画会社が潰れるのは勝手だが、俺たち5人の貴重な時間と映画代を返せ!



 あまりの駄作っぷりに頭に来た俺は、初めて見た映画で半分呆けてしまったミアと、何も感想のなさそうなカリンとレンカ、そしてソフィアを連れ上映室を出てホールに帰ってきた。


 残ったポップコーンはスポーツバッグに入れてタマちゃんに食べてもらい、ポップコーンの紙バケツはホールのゴミ箱に、コーラは飲み物用のゴミ箱にそれぞれ捨ててやった。



 時計を見たら時刻は11時前だったので昼にはまだ早い。

「たしかこのビルにも本屋が入っていたはずだから、本を見てみるか?」

「はーい」「「はい」」


 エスカレーターでも下に行けたが、下りエレベーターがちょうどやってきたので急いで乗り込み、各階の案内を見て本屋のある階でエレベーターを降りた。


 本屋はレストラン街の先にあるようだ。本屋で本を買ったらここの適当なレストランに入って昼にしよう。


「今日の映画はいまいちというか散々だったから、コミックなんかも買っていいぞ」

「こみっくって?」

「実物を見た方が早い」


 俺が3人を先導する形で本屋に向かって歩いていったところ、ちょうど本屋の入り口近くにコミックコーナーがあってかなりの数のコミックを売っていた。その中で平積みにされた1冊を手に取ってミアに見せてやった。

 ビニール袋の中に入っているので中身は見せられないが美麗なイラストの表紙はミアの琴線に触れたようだ。

 白い髪で耳が横に長い特徴的な女の子のイラストだ。彼女の後ろに3人仲間らしき男性が小さく描かれていた。


「きれいー」

「絵と一緒に日本語が書かれた本なんだ」

「これかっていい?」

「いいけど、ここに数字が書いてあるだろ? これは13って書いてあるから13冊目なんだ。

 どうせなら1から読んだ方がいいから、これと同じ題名で1から買えばいい」

「へー、13こもあるんだ」

「この本だけじゃなくってほかのも1からだからな。

 この本だとこの続きの14冊目はあと半年くらいしたら出るんじゃないか」

「ふーん。1から13までぜんぶかってもいいの?」

「3人の手で持てるだけ買ったら一度タマちゃんに預けてしまえばいいから、他のもいくら買ってもいいぞ。

 カリンとレンカも読みたいものがあったら買っていいからな」

「「はい」」

「この先で学習用の本を売ってたと思うから、ソフィアは役に立ちそうなものがあったら持ってきてくれ。精算は俺がするから」

「はい」

 ソフィアはひとりで本屋の奥の方に歩いて行った。



 ミアたちがコミックを漁っている横に本屋のレジカゴが置いてあったので3個取ってミアたちにひとつずつ渡してやった。


 ただの高校生なら『金に糸目は付けぬ。よきに計らえ』なんて言えないだろうが何せ俺は高校生億万長者。どーんと来い!


 レジカゴの中に10冊ほどコミックを入れたミアが「イチロー、3と4がない」と言ってきた。

「分かった。店の人に聞いてみる」

 俺は店の人を探してそのコミックの3巻と4巻がないかたずねたらすぐにお持ちしますと言って駆けていき、2分ほどで2冊のコミックを持って帰ってきた。

「どうも」

「いえ」


 その2冊をミアのカゴに入れてやった。

 そしたらミアがにんまり笑った。

「読んでて分からない言葉があったらソフィアに聞くんだぞ」

「しってるー」

 ミアは知ってたようだ。


 ミアはいいとしてカリンとレンカのカゴを見たらまだ1冊も入っていなかった。

「カリンもレンカも遠慮せずどんどん買えよ」

「「はい」」

「でも、どれがいいか分からなくて迷っています」

「わたしもです」

「お前たち、きれいなものとか見たらそれがきれいだって分かるんだろ?」

「「分かります」」

「表紙を見てきれいだなー。と、思ったらそれでいいんじゃないか。

 売ってるコミックで面白くないコミックってそんなにないし、たとえ読んでみて面白くなくてもそれはそれで経験だ」

「「分かりました」」


「イチロー、おとうさんみたい」

「確かにな。俺はお前たちの面倒を見るっていう責任があるからお父さんと同じだ」

「イチロー、ありがとう」

「ああ」


 俺の言葉が効いたというか、ミアがカリンとレンカにあれがどうとかこれがどうとか言って何冊かコミックを選んでやったようだ。


 そのあと、ミアはまた自分の読みたいコミックをカゴの中に入れていった。


 ミアたちがコミックを探しているのを後ろから眺めていたのだが、その俺に後ろから「一郎じゃない」と、声を掛けられた。結菜の声だ。

 

「あれ? 結菜じゃないか」

「一郎、なに外国人の女の子の後ろ姿じーっと見てるのよ!?」

「俺の親戚の子だよ。お前こそ何言ってるんだ」

「あれ? 一郎に外国人の親戚っていたんだ」

「見ての通りいたんだよ」

「すっごくかわいいじゃない」

「俺の親戚だからな」

「そういうものなの?」

「そういうもの以外に何がある?

 そういえば、快気祝いありがとな」

「いえいえ、こちらこそ」

「それで結菜は今何してるんだ?」

「ちょっと雑誌を買おうと思って寄っただけ」

「ふーん。じゃあな」

「何よ」

「何か用でもあるのか?」

「ないけど。そういえば一郎1学期の成績どうだった?」

「良かったよ」

「そうなんだ」

「筆記試験のあった教科は全部満点だった。

 うちの学校成績の順位を出さないけれど、同率はいるかもしれないが学年トップのハズだ」

「なにそれ!」

「だから1学期の成績。じゃあな」

「えっ、う、うん」


 なんだか不思議そうな顔をして結菜が書店の中に入っていった。

「イチロー、いまのだれ?」

「俺の友だちだ」

「そうなんだ」

「かおくろかったね」

「あれでもだいぶ白くなったんだがな」

「ふーん」


 ミアも小僧の時はずいぶん黒かった記憶があるが今はお姫様みたいに白くてツルツルだものな。治癒の水を飲んで効能果物を毎日食べていればお肌も白くなってツルツルってことなんだろう。

 こんど結菜に果物何個か見繕みつくろってやろうか。

 テニス止めてるからすぐに黒味くろみが取れるだろう。



「コミック以外にも本を売ってるけど、コミックだけでいいのか?」

「こみっくだけでいい」「「いいです」」


 3人のカゴが一杯になったところでソフィアが教育用の本を抱えて戻ってきたので4人を連れてレジに回った。


「お願いしまーす」

「はい」

「これ全部」

「かしこまりました。コミックはビニールから出しますか?」

「このままでいいですよ」


 店員がコミックを大きな紙袋3つに入れて渡してくれた。

 俺は代金を現金で支払い、紙袋をスポーツバッグに順に入れていった。もちろんスポーツバッグに入れた端から中のタマちゃんが収納している。


「まだ欲しいコミックがあるなら買っていいからな」

「わー」「「はい!」」


 ミアたち3人はレジカゴをそれぞれが持ってコミック売り場に走っていった。

 その後俺とソフィアが付いていく。


「全巻揃わないときは俺が別途で注文してやるから、その時は教えてくれ」

「はーい」「「はい」」

 それからミアたちがああでもないこうでもないと言いながらコミックをレジカゴに入れていき結局レジカゴ3つがコミックでいっぱいになった。


 派手な買い方をするかわいい外国人の女の子3人はかなり注目を集めてしまったようで、遠くの方からも多数の視線を感じてしまった。


 再度レジまで行って同じように紙袋3つを受け取ってスポーツバッグに入れた。


「本はこんなものでいいか?」

「いい」「「はい」」

「それじゃあ、次は昼食にしよう。

 レストランが並んでいるからその中の適当なレストランに行ってみよう」

「れすとらん」「「はい」」




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