第273話 ドライブからのご休憩

 岩山はそこまで大きくなかったみたいで、デコボコ道を30分ほど進んだら岩山の反対側に抜けたようだ。


「森に突っ込んだら、そのまま、まっすぐ進んでみよう」

「了解。ところで行き先のアテはあるのか?」

「特にはないんだがここはそれなりに大きな島にある台地なんだ。まっすぐ進んでいったら台地の端に着くだろうから、そこから下に下りてからもまっすぐ進んでいけば海に着くと思うんだ。

 位置的には海まで距離がある方向だし今日中にたどり着けないかもしれないが、ドライブなんだからそれでもいいだろ?」

「わかった。しかし、台地から下に続く道があるのか? 少々の坂ならくだっていけるが、いくらロンドちゃんでも急な坂とか崖は無理だぞ」

「道はないはずだから、この車はタマちゃんにさっきみたいに収納してもらってから下に転移する。転移するには下の地面が見えないと転移できないから、もし下が森か何かで覆われていて地面が見えないようなら俺が上から飛び下りる。

 そのあと戻って氷川を連れて下に転移すればいいだけだ」

「分かった」


 さらにそこから30分ほど進んだら、森が途切れて草原になり、その先に崖らしきものが見えてきた。


「その先の崖が台地の端みたいだから適当なところで止めてくれ」

「了解」


 ロンドちゃんが止まったところでふたりして車を降り、手にしたリュックの中のタマちゃんにロンドちゃんを収納してもらった。

「タマちゃんのソレ、何度見ても慣れないな」

「そうかー? 俺は何ともないけどな」

「長谷川のタマちゃんだものな」

「見慣れているのは確かだけどな。

 じゃあ、崖の下がどうなっているか見てみよう」


 リュックを背負ってから崖っぷちまで歩いていき下を見たら、50メートルほど下にちゃんと地面が見えたので、その地面に転移してから崖の上で待っている氷川の近くに転移で戻った。


「この転移も慣れないな」

「そうかー? もう何度も転移してるだろ?」

「いや、長谷川が急に目の前に現れるのを見るのはそうでもないぞ」

 そういえばそうか。自分が転移する時は視界がいきなり変わるもののそれだけだが、近くにいきなり人間が現れたらびっくりするもんなー。

 あれっ? 視界が変わる方が変化は大きくないか? どうでもいいと言えばどうでもいいことだけど。


「それじゃあ下に下りよう」

 氷川が俺の手を取ったところでさっきの崖の下に転移した。


「こっちはもう慣れたから平気だ」

 そうか。慣れなら単純に回数の問題だ。目の前に現れた俺を驚くのは仕方ない。って、これもどうでもいいことだった。


「ここは坂になっているからもう少し先に進んで平たい地面の上に車を出そう、さっきみたい森に突っ込んで行ったら嫌だからな」

「今度は大丈夫だぞ、エンジン切ってサイドブレーキ引いてるからな」

「もしかして、さっきはエンジン掛けたままだったのか?」

「うん。切るのを忘れていた。ディーゼルだからそれほど問題ないだろ?」

 それってディーゼル関係あるのか? 今は昔の話だし、これから気を付けてくれればいいけど。


 いちおうディテクター×2を発動してところ、それなりの反応があったが、小動物か鳥のたぐいだろう。

 何かあってもリュックの中のタマちゃんが対応してくれるだろうし。



 氷川と並んで坂道を下って行き森の中の空き地に出たところでタマちゃんにロンドちゃんを出してもらった。


「それじゃあ乗ろうか。このまま、まっすぐ進めばいいな」

 頭上を覆う葉っぱの隙間からわずかに太陽が見える。時間的にはもう少しで太陽は南中なので、今のロンドちゃんの向きは真西だ。

「そうだな」



 ふたりしてロンドちゃんに乗り込み、俺はリュックを足元に置いて素早くシートベルトを締めた。

 そこでエンジンがかかったようでロンドちゃんは発進し、俺は上下左右前後に振り回された。


 そこから20分ほど森の中をロンドちゃんは爆走していった。

「氷川、そろそろ昼食にしよう。適当なところで止めてくれ」

「了解。フフフ」

 また氷川から期待があふれ出したようだ。


 氷川がロンドちゃんを止めたあと、エンジンを切ってサイドブレーキを引いたことを確認してしまった。


 車から降りた後、手に持ったリュックの中のタマちゃんにロンドちゃんを収納してもらい、氷川が俺の手を取ったところで新館の書斎に転移した。


 書斎にはアインが待っていた。

「氷川さま。ようこそおいでくださいました」

「アインさん、よろしくお願いします」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「食事の準備は出来てるよな?」

「はい。食事の準備は出来ています。

 それと昨日の技術書についての報告は今してよろしいですか?」

「いいよ」

「はい。結論は、あの技術書でちゃんとした発電機を作ることは可能です。

 容量を指示していただければ、すぐに製造に取り掛かれます」

「シュレア屋敷は一般家庭なんかよりよほど大きいから100ボルトで100アンペアくらいでいいんじゃないか?」

「大型エアコンなどは200ボルトのようですがいかがします?」

「じゃあ、それも頼む。面倒だから200ボルトも100アンペアでいいや」

「了解しました」


 話が終わったところで、俺は氷川とリュックから這い出たタマちゃんを連れて食堂に向かった。

 もちろんフィオナは俺の肩の上だ。

「発電機を作るのか?」

「うん。ミアの住んでいる屋敷に置こうと思っている。電気があれば円盤なんかも見られるしエアコンも取り付けられるからな」

「それはそうだが、発電機なんか作れるんだ」

「俺が作るわけじゃないけど、電気の技術書を買ってきてアインに渡したら、できる。って言うからできるんだろう」

「ふーん」

「そもそも自動人形の方が発電機なんかよりよほど超技術だろ?」

「確かに」



「この館は新しく見えるが前の館とほとんど変わらないな」

「とりたてて変える必要もないからな。

 変わったところと言えば、ここには体育館があるんだ。

 ミアがいつでも遊べるようにと思って作ったものの、ミアはあっちに行ってるからほとんど使っていない」

「確かに学校並みの建物だしな。

 しかし、どういういきさつがあってミアちゃんの面倒を見ているのかわたしにはわからないが、かなりのことをしてやっているのだな」

「俺も自分自身でちょっと不思議なんだが、ミアが幸せそうな顔をしてると癒されるのとはまたちょっと違う何かがあるんだよ」

「ふーん」



 氷川と話しながら歩いているうちに食堂に着いた。

「氷川はそこに座って、タマちゃんは氷川の向かいだ」

 俺はいつもの席で氷川が俺の右前の席に着きタマちゃんが俺の左前の席に這い上ったついた。フィオナはいつも通り俺の横、テーブルの上だ。



 俺たちが席に着いたらすぐに16号がワゴンを押して食堂に入ってきてテーブルの上に料理を並べていった。

 今日のメインはステーキだった。

 これはドラゴンステーキだな。


 鶴田たちにふるまった時と同じで500グラムはありそうな分厚いステーキだった。付け合わせにコーンとインゲン豆、そしてニンジンが添えられていた。

 鶴田たちより氷川の方が食欲旺盛そうだから、ペロリと食べてしまいそうではある。


 ステーキにかかっているのはバターと醤油の和風ステーキソースみたいだ。わずかにニンニクのにおいがする。


 それにポタージュスープ。見ただけでは何のスープだかわからなかった。

 カリカリベーコンがかかった、レタスとトマトとスライスしたタマネギの野菜サラダ。

 今日の主食はお皿に盛られたご飯だった。

 ガッツリ食べるならやっぱりご飯だよな。


 用意されていたおしぼりで手を拭いて「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」

「あっ! フィオナちゃんが何かしゃべったぞ!」

「今までだってしゃべってたろ」

「いや。何かの音だと思っていた。こうして近くで聞いて口から出てることが初めて分かった」

「何を言っているのかよくわからないことの方が多いんだが、今のは『いただきます』だ」

「何と! フィオナちゃんも天才フェアリーだったんだな。

 それはそうとこの肉、この前食べた牛肉と見た感じ少し違うな」

「わかるか。まあ、食べてみろよ」

「ああ」


 氷川がナイフとフォークでステーキの端の方を切り取った。

「それほど良く切れるナイフに見えないが、簡単に切れた。相当軟らかい肉だ」

 氷川はフォークに刺した肉を口に入れた。


「ウホッ! 脂身がどこにもないのに口の中で溶けていく。この前の肉も口の中で溶けていったがそれとはまた違う溶け方だ!」

 溶け方の違いに気づくとは! 氷川のヤツ、食レポに新しいセリフを追加したな。


「それでこの肉はいったいなんの肉だ?」

「そいつはさっき案内した時に話したドラゴンだ」

「ウヘェッ! わたしは今ドラゴンを食べているのか!」

 氷川のキャラ崩壊が加速してないか?


「ドラゴンの胴体は解体してもうないんだが、頭はとっているから後で見せてやるよ」

「この前は話半分で聞いていたから全く実感がなかったんだが、見てみたい」

「今タマちゃんが収納しているから、食事が終わったら外に出てそこで見せてやるよ。

 ドラゴンの肉は尋常じゃないくらいあるはずだから足りないならまた焼いてもらえばいいから」

「さすがにこれだけ食べれば十分だ」

 今度はフォークでご飯を口に運んで、

「うおっ! ご飯もおいしい。いったいどうなってるんだ!?」


 俺もステーキを一口に食べて続いてご飯を口に入れた。

 確かにおいしい。


 スープをスプーンですくって口に入れたところ、スープはジャガイモベースのポタージュスープで、スライスしたシイタケと小さめの鶏肉が入っていた。

 鶏肉のダシなのだろうが、これもおいしいじゃないか。


 俺が冒険者を引退するころには自動人形も一般化しているだろうから、ここのシェフと同等の自動人形をたくさん作ってレストランチェーンで世界征服してやろう。

 その前に転移系統のアイテムを大量に用意する必要があるが、そういった諸々もろもろはいずれ何とかなると思っている。だって俺、ものすごく運がいいから。


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