第271話 ドライブ2
氷川が俺の手を取り、フィオナが右肩に止まっていることを確かめた俺は新館の門の前に転移しようとしたのだが、気になったことがあったので、転移する前に氷川に聞いてみた。
「氷川、駐車場の代金払ってたほうが良いんじゃないか?」
「それもそうだが、帰りはここに飛んでくるんじゃないのか?」
「ここでもいいし、駐車場を出た道路の上でもいいぞ」
「なら今駐車場の代金を払ってしまってもだいじょうぶだな。
ちょっと待っててくれ。駐車料金を払ってくる」
「どこからでも転移できるからついていくよ」
「そうだったな」
氷川が駐車場の自動精算機に駐車カードを突っ込んで、その後冒険者証を機械にタッチした。
そうしたら出口のゲートのバーが上がったのだが、車が通るわけでもないのでゲートのバーは上がったままになってしまった。
いいのかな?
「駐車場のゲートが開いたままだけど大丈夫かな?」
「問題ないだろ。ここを通る車がなくてもお金を払って悪いわけじゃないから」
車を運転したことのない俺ではよくわからないが、氷川がいいというならいいんだろう。
「そうだよな。それじゃあ、転移するから俺の手を取ってくれ」
「了解」
氷川が俺の手を取ったところで再度右肩にフィオナが止まっていることを確認し、俺は新館の門の前に転移した。
「タマちゃん、さっき収納した氷川の自動車を出してくれるか?」
「はい」
金色の偽足が一本伸びていき、それが横に移動したかと思ったら氷川の愛車が現れていた。
傷が付いてへこんでいた左横の部分はどこがいかれていたのか分からないくらいに修理されていた。
「完全に直ってるじゃないか!」
「そうみたいだな」
「タマちゃんがいたら、ぶつけ放題だ」
「いや、それはないだろ? ぶつけたりする相手もあるんだし」
「そういえばそうだった。うちの門柱も傷が付いてたものな。アハハハ」
そこは、笑うところなのか?
「氷川、今日の昼食はここだ」
「またあのおいしい食事が食べられるのか?」
「今日は何が出るか俺は知らないけどな」
「それでも期待してるぞ」
期待感がにじみ出過ぎて氷川の顔がにやけている。
俺が料理を作るわけじゃないけど、責任重大だ。
しかし、氷川のキャラ最近変わってきてないか。クールビューティーどこ行った?
「さて、それじゃあドライブするか。ここって石畳の道路があったんだな」
「この
「建てるために作った?」
「そう言えば、氷川は
この前氷川が昼食べたのは
「
「ああ」
シュレア屋敷のことは今話す必要はないな。
いや、ミアのことは氷川は知ってるから、ドライブしている時にでも話しておこう。
「それじゃあ長谷川、助手席に座ってくれ」
「了解」
氷川は反対側に回って運転席に座り、シートベルトを締めてエンジンをかけた。
俺はリュックを手に持って助手席に座り、手にしたリュックは足元に置いた。
シートの位置を調節したいのだがどうすればシートが前後できるのか分からない。
「氷川、シートをもう少し後ろにスライドさせたいんだがどうすればいい?」
「窓の下あたりにそれらしいスイッチがあるからそれを押してみろ」
「これだな。
ウオー。勝手に動いた!」
シート位置がしっくりしたところで、シートベルトを締めた。
ゆったりして実に座り心地がいいシートだ。
「長谷川、どこに向かって走る?」
「まずは石畳の上を道なりに走って行ってくれ。だいたい30キロくらい走ったら旧館が見えてくるはずだ」
「了解」
氷川が自動車の速度を上げた。
下は石畳なのである程度デコボコしていて振動が伝わってくるがそれほどひどいものではなかった。さすがは世界的ベストセラーSUV、ロンドクルーザーだ。
「氷川、いい車だな」
「ああ、気に入っている」
「いくら中古でも高かっただろ?」
「うん。安くはなかった。100億の男から見たら高い買い物じゃないだろ」
「お金はないわけじゃないが庶民感覚は持ってるんだ」
「それは大切なことだな」
20分ほどで旧館が見えてきた。思っていたより早く旧館が見えてきたということは、思ったより氷川が自動車を飛ばしたってことだよな。
ハンドルを握り、前方を見ている氷川の横顔をフィオナ越しに見たら、口元が薄っすらと開いて上に上がっていた。
氷川ってハンドルを握ると人が変わるってことないよな?
「氷川、道なりに館をまわりこんでくれ」
「了解」
SUVが旧館の近くから右に曲がりそこから堀沿いに左回りに進んでいき、角をまがって直進
していった。
ふたつ目の角の手前で、
「そこを左に曲がると旧館の門に出る。
今日は岩山の方に行ってみよう。
道から出て、右斜めに進んでくれ」
「了解。太陽から考えて南西方向だな」
「そうだ」
SUVは少し減速して石畳の道を外れて草原に出た。
ホントに少ししか減速しなかったようで道から出た時SUVは大きく弾んだ。
ホゥ!
氷川の顔をフィオナ越しに見たら、ニヤニヤ笑っていた。
そこでアクセルを踏み込んだようで、大きな揺れが続いた。
「まっすぐ進めばいいのか?」
「ああ。岩山が見えてきたろ?」
「おっ! 見てきたな。それじゃあアレに向かって爆走するぞ!」
爆走って、普通でいいんだよ普通で。
しばらく走っていたら森の中にSUVは突っ込んで行った。
今度は今までの上下の揺れと振動に加えて横揺れだ。
ヘルメットしていないんだが、ヘルメット被った方がよかったかもしれない。
ラリーの選手はみんなヘルメット被ってるもんな。
タマちゃん入りのリュックを足元に置いていて正解だった。
氷川の運転するSUVは大木は迂回するが、下草や細目の木は構わずなぎ倒して森の中を文字通り爆走していった。
横揺れがひどいので俺はドアについた取っ手のようなものをつかんで足を踏ん張り横揺れに耐えた。
フィオナもいつものようにのんきに肩の上に止まっていられず俺の防刃ジャケットのでっぱりと俺の肩にかかったシートベルトに手をかけて落っこちないようにしていた。
時速何キロで走っているのか俺の席からでは速度計が見えないので分からないが道を外れてから30分ほどでSUVは森を抜け岩山とそのふもとのドラゴンの洞窟が見えてきた。
「氷川、そこの洞窟の近くで車を止めてくれ。
一休みしよう」
「了解」
車が止まったところでシートベルトを外し、ドアを開け、リュックを持って外に出た。
ドアを開けて外に出た氷川は一度大きく伸びをして、
「オフロード楽しいなー」とか独り言を言っていた。
ハンドルを握っていればそんなに揺れないだろうから、余裕なのだろう。
「氷川、緑茶でも飲むか?」
「持ってるのか?」
「タマちゃんにたくさん預けている」
「もちろんいただく」
タマちゃんに緑茶のペットボトルを2本出してもらい、1本を氷川に渡した。
「ありがとう」
キャップを開けてごくごくと半分くらい飲んでタマちゃんに渡した。
氷川も半分くらい飲んで自分のジャケットのポケットに突っ込んでいた。
「それで、わざわざここに来たということは、目の前の洞窟に何か意味があるってことなのか?」
「ああ、以前話したドラゴンがいたのがこの洞窟の中なんだ」
「なるほど」
「ドラゴンをたおしたら、ドラゴンは光物が好きだったようで、それなりのものを手に入れたんだ」
「長谷川だから、そういったこともあるだろ」
氷川のヤツ、最近なんでも長谷川だからで済ませて思考停止してないか?
「どこにいても一緒だが、せっかくここまで来たからミアのいた異世界をちょっとだけ見てみるか?」
「ミアちゃんが異世界生まれというのは本当の話だったのか?」
「おまえ、信じていなかったのか?」
「いや、信じるも何もあり得ない話と勝手に頭の中で整理して、最終的には長谷川の冗談だと結論付けた」
「それって全く信じてななかったってことじゃないか?」
「ちょっとだけニュアンスが違うだろ?」
あれ? そうなのか?
「まあいいや。それで行ってみるか?」
「もちろんだ」
「分かった。転移するから俺の手を取ってくれ」
俺がタマちゃん入りのリュックを背負ったところで氷川が俺の手を取った。そして俺たちはシュレアのダンジョンギルドの正面近くに転移した。
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