第266話 アキナ3。電気


 俺に欲しい物リストを渡したミアたちが居間から出ていった。

 渡された欲しい物リストをポケットに入れてしばらくしたら、警備員AだかBがやってきた。


「マスター。ハーブロイさんとアキナさんがいらっしゃいました」

「入ってもらってくれ」

「はい」


 玄関ホールに出た俺は2階に向かって、ハーブロイさんとアキナちゃんが来たから下りてくるように大声で呼んだら、ミアたちがソフィアと一緒に下りてきて俺の横に並んだ。


 すぐに玄関の扉が開いて警備員AだかBに案内されたハーブロイ親娘おやこが玄関ホールに入ってきた。


 今日のアキナちゃんの格好は昨日のお出かけモードではなくカジュアルな普段着モードだった。ちゃんと勉強するという気持ちが伝わってきた。


「#&0<!!〇」ハーブロイさんが俺に向かって話しかけてきたのだが、白銀のヘルメットを被るの忘れてた俺には全く分からなかった。

 それでも普通に考えれば、今のはあいさつだろう。

「おはようございます。さっそくアキナちゃんも勉強始めましょう。

 ソフィア、いいな?」

「はい。マスター。アキナさんの準備はできています」

「ソフィア、俺は白銀のヘルメットを被るの忘れたから、適当にハーブロイさんに話してアキナちゃんを迎えに来てもらう時間を決めてもらってくれ」

「はい。

 #&0<!!〇、##%%H+@……」

「##%%KG@」

「3時にはみんなにおやつを出しますから、3時半ごろ迎えに来てもらうことになりました」


 その後ハーブロイさんは俺に向かって一礼して娘を残して玄関から出て行った。

 ハーブロイさんにものすごく失礼なことをしたかもしれないが、娘を人質にとっているからセーフ。


「それじゃあ、ソフィア、ミアたち。後は頼んだ」

「はい、マスター」「わかった」「「はい」」

 その後ソフィアがアキナちゃんにひとことふたこと言って、それで5人揃って2階に上っていった。


 これで何とかなるな。期間はひと月ちょっとしかないがソフィアに任せておけばアキナちゃんもそれなりの成績でラザフォード学院に編入できるだろう。

 そしたらミアたちとアキナちゃんはご学友だ。

 シュレア屋敷には空き部屋が一杯あるから、アキナちゃんが望むならここに下宿させてやってもいいし。そしたらおいしいものが食べられるぞー。食べ物で釣ってやるか?



 俺は居間に戻ってタマちゃん入りのスポーツバッグを手に持ちフィオナが肩に乗っていることを確かめてうちの近くの公園に転移した。

 この公園には犬を連れて散歩する人が多いのだが、真夏で快晴のこの時間、ほとんど人も犬もいなかった。


 今の時刻は8時少し前だが、もう日は結構高い。

 太陽が眩しいとスマホの画面が良く見えなくなるので、俺は日陰の下の空いたベンチを探してそこに腰を下ろしスマホと欲しい物リストをポケットから取り出して注文を始めた。

 タマちゃんの入ったスポーツバッグは足元でフィオナはフィギュア化して右肩の上だ。

 最近のフィオナのフィギュア化はかなりすごくて全く動かなくなるから、フィオナが妖精であることを見破ることはまずできないだろう。



 アブラゼミがうるさく鳴く中、欲しい物リストに書かれていたISBNとかいう番号を打ち込んでいく。それなりに面倒だったが30分ほどで何とか打ち終えて注文を終えた。

 誰の知恵だかわからないが、ちゃんとISBNをリストに書いてくれていたので、ずいぶん注文が楽だった。

 注文したコミックは明後日の午前中に届くようだ。届け先はもちろんうちだ。



 スマホで注文を終えた俺はタマちゃんの入ったスポーツバックを手に、フィオナを右肩に止めて新館に転移し、呼び鈴でアインを呼び出した。


「マスター、おはようございます」

「おはよう」

 忘れないうちにというか半分忘れていたんだが28階層で見えないモンスターから手に入れた核120個をタマちゃんから順に受け取って机の上に置き、アインに自由に使うように言っておいた。


「それで今日来たのは電気についてアインにたずねたかったんだ」

「電気ですか?」

「その電気。その電気を安定的に作れないかと思って」

「ある程度のことはマスターの知識から分かりますが詳しいことはわかりません」

「やっぱりそうか」というか俺の知識が浅すぎたのが悪かったってことか。ちょっと情けないが高校生のレベルでは実用的な知識なんてゼロだし、そんなのが使い物になるわけない。と、自己弁護しておこう。


「なにか技術書のようなものがあれば電気を作ることができるかも知れません」

 技術書かー。高校生の俺ではちょっと荷が重いけれど、もう一度公園に跳んで注文してみるか。適当に電気関係の本を検索して注文してしまおう。今の時間から始めればコミックと同じ便でうちに届くだろう。

「わかった、2、3日のうちに仕入れてここに持ってくるよ」

「了解しました。カイネタイトが動力として使えますから、ある程度の知識があれば電気を作ることも可能かと思います」

 さすがはアイン。力強いお言葉だ。


「それじゃあ」

 そうだ。アキナちゃんは俺と食事を一緒にとると恥ずかしいかもしれないし、タマちゃんを見て怖がるかもしれないから、俺は新館で昼食をとろう。

「アイン、昼食はこっちでとるから、俺とタマちゃん、それとフィオナの食事の用意を頼む」

「はい」


 再度公園に転移した俺は先ほどまで座っていたベンチに腰を下ろしてスマホで電気関係の本を検索して、適当に10冊ほど注文していった。中にはなんとかハンドブックとか言ってかなり分厚い本もあったけどアインなら簡単に理解できるだろう。


 この10冊でアインが知識を身に着けて電気を作れるようになればよし。これだけではどうにもならないようなら知識を身に着けたアインにどういった本を注文すればいいか聞けばいずれ必要な情報が手に入るはずだ。

 そしたら今度は電気製品の注文、それにメディアの注文だ。俄然やる気が出てきたぞ。


 新館の書斎に戻った俺は、待っていたアインに電気関係の本を注文したことを告げた。

「適当な本を注文しただけだから、必要な情報が足りないかもしれない。

 その本で情報が足りないようなら、どういった本が必要なのか教えてくれ」

「了解しました」


 とにかくこれで今日の用事は片付いた。


 腕時計を見たらまだ9時だった。

 今日もダンジョンに入ってお仕事するつもりがなかった関係で防具ではなく普段着を着ている。タマちゃんに頼めば防刃ジャケットとかヘルメットは出てくるけど、靴だけはないんだよな。

 うちに帰ってまで用意する気も起きないから、今日はあと何をしようか? ちょっと暇だな。

 そうだ。ミアたちの邪魔にならないよう、ミアたちのコミックを見せてもらおう。そしたらミアたちの会話に入っていける。


 グループに属していながら情報の共有の外にいるって、疎外感あるよな。

 でもそれをすると日本語が全くできないアキナちゃんが可哀そうだなー。

 アキナちゃんに余裕があるなら、アキナちゃんにも日本語を習わせてしまうか。それも手だな。そうしないとこんどはアキナちゃんが情報の共有の外で疎外感を感じるからな。


 昼まで書斎ここで時間を潰して、昼食を食べたら、シュレア屋敷に転移してアキナちゃんに初日の感想でも聞くか。


 机の椅子に座って目を閉じ、臍下丹田せいかたんでんに意識を集中してゆっくりと呼吸していく。息を吸う時は素早く。吐くときはゆっくりと。

 しばらくそうやって心を落ち着かせていたら、眠くなってきたので睡魔に身を任せた。



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