第265話 欲しい物リスト


 少し早かったが、タマちゃん入りのスポーツバッグを手に持った俺は、肩の上にフィオナがいることを確かめてうちの玄関前に転移した。

 そしたらちょうど結菜がじぶんちの玄関から出てくるところだった。


「一郎、普段着にピカピカのヘルメット被ってどうしたの?」

 おっと、白銀のヘルメットを着けたままだった。


「被って慣らしてるんだ」口から出まかせで適当にごまかしておいた。

「そう。まあ、あんたの趣味なら仕方ないけれど、すごく変だよ。しかもこんな暑い中」

 自覚はある。しかし面と向かって言われたくはない。


「あんたの外国の親戚の子は?」

「ホテルに帰った」

「ホテルに泊まってるんだ。いつまで日本にいるの?」

「今月いっぱいかな」

 口から出まかせばかりだ。こういうその場限りの適当な言葉って自分じゃ覚えてないから、後でボロが出るんだよなー。

 この件に関しては相手は結菜だし少々ボロが出てもどうってことないと思うけど、とりあえず話題を変えた方がいいか。


「それで、お前の方はどうなんだ?」

「どうって?」

「ダンジョンのことだよ」

「ぼちぼちやってるよ」

「まだソロなのか?」

「う、うん」

 ずーっとソロでやってる俺がとやかく言えた義理ではないが、結菜のやつ学校に友達いないのか? その辺は深掘りしちゃだめだよな。


「1階層ならソロで十分だけどな」

「うん」

「まっ、無理しない範囲で頑張れよ」

「うん」


 俺は白銀のヘルメットを外してスポーツバッグの中のタマちゃんに渡し玄関の扉を開けた。

「ただいまー」

『お帰りなさい』

 居間の方から母さんの声。

 うちの中には母さんだけで、父さんはいないようだ。

 いいけど。




 翌日。

 これといった用事はなかったので、普段着を着た俺はタマちゃんとフィオナを連れててシュレア屋敷に行ってミアたちの様子を見てくることにした。

 タマちゃんはいつものスポーツバッグの中でフィオナは俺の右肩に止まっている。

 7時にシュレア屋敷に到着し居間で寛いでいたら、ソフィアがやってきて食事の準備ができたと伝えてくれた。

 急な訪問でもシュレア屋敷だろうが新館だろうが食事を準備してくれることはありがたい。

 でも本当は相当迷惑なんだろうな。


 アキナちゃんのこともあるから俺が今朝けさここに来る蓋然性(注1)はすごく高かったわけだから、それほど迷惑な話ではなかったかも?


 食堂にタマちゃんとフィオナを連れて入ったら、ミアたち3人が席についていた。

「おはよう」

「イチロー、おはよう」「「マスター、おはようございます」」


 俺は空いていた席に着き、タマちゃんは俺の隣りの席にのっかった。

 俺が席に着いたところでヴァイスがワゴンを推して現れて、料理の皿を各自の前に置いていった。

 今日の朝食は洋食スタイルで、厚切りのハムステーキに温野菜。温野菜はコーンとジャガイモとほうれん草。そしてクリームスープ。クロワッサンとバターロール。それにオレンジジュースというかみかんジュースとバターとハチミツと各種のジャム。

 フィオナにはハチミツとイチゴジャムを小皿にとってやった。


「いただきます」

「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」


 4人とタマちゃん、それにフィオナ。

 それぞれがナイフとフォークをカチャカチャいわせてハムを切り、口に運ぶ。

 野菜をフォークに載せて口に運ぶ。

 タマちゃんも食器は使えるのだろうが、今は偽足を1本伸ばして少しずつ料理を吸収している。

 フィオナはいつも通りで両手を小皿の上のハチミツとジャムに突っ込んで顔中べたべたにして食べている。

 これが家庭なんだなー。

 うちも立派な家庭だが、こういうのも悪くない。


「そういえば、今日はアキナちゃんがやってくるから、みんな仲良くな」

「わかった」「「はい」」

「長いこと病弱だった子だから、勉強は少し遅れているかもしれないけれど、ちゃんと面倒見てくれよ」

「イチロー、しんぱいない」「「はい」」

 ミアもお姉さんになったなー。俺はすごくうれしいぞ。

「そう思っていたら、ミアたちよりずいぶん頭がよかったりしてな」

「べんきょうおしえるもらう」

『なになにしてもらう』というのはちょっと難しい表現だったか。意味は通るからいいか。

「そうだな」

「アキナちゃんもコミックを読みたいだろうから余裕があれば日本語を教わった方がいいかもな」

「ソフィアはアキナちゃんににほんごおしえる。いった」

 ソフィアも考えてくれているようだな。


 そのうちミアたちは料理を食べながら昨日読んだコミックの話を始めた。

 俺の知らない話ばかりだった。

 全然話についていけない。俺はちょっとショックでちょっと悲しかった。


あるじ

 タマちゃんが食事の偽足を止めて俺を呼んだ。

「うん?」

「だいじょうぶ」

「そうだな」

 何てタマちゃんは優しいんだ。

 そしたらフィオナもハチミツを食べる手を止めて、俺の顔を見てうなずいた。

 何てフィオナはかわいいんだ!


 ……。


「「ごちそうさま」」「ふぉふぉふぉーみゅ」


 食後のデザートは焼きリンゴだった。

 久しぶりに食べた焼きリンゴは甘酸っぱいだけでなくバターの風味にシナモンの風味も効いて実においしかった。シナモンなんて買った覚えがないから、新館で作ったのかここで買いそろえたんだろうな。意外とシュレアここでも新館でも俺の世界のものが簡単に手に入るよな。



 フィオナの手と顔を拭いてやり俺とタマちゃんは居間に移動した。

 居間に入って俺はソファーに腰を掛け、タマちゃんはスポーツバックの中に直行した。


 ソファーに座ってミアたちのことを考えたのだが。

 俺はミアたち3人のカリキュラムについてはノータッチなくせに、ちょくちょく3人を連れ出しているのでソフィアも苦労している可能性が高い。

 だがしかーし、勉強も大事だが、人と接することで世界が広がると今の俺は思っているので、今のスタイルを変える気はない。

 そして、アキナちゃんがうちに来るようになればまたミアの世界が広がるわけだ。

 教育って一言で言うのは簡単だが、教えられる側がある程度教える側の気持ちを理解していないと、いや、理解できるだけの素養がないと失敗するような気がする。

 幸いミアはそういった資質は十二分に持っているので安心だ。


 おっと! 忘れてた。アインに電気のこと聞くんだった。

 コミックリストの注文が終わったら新館に跳んでアインに電源の話をしてみよう。

 電気があればできることが膨らむからな。


 とかなんとか居間のソファーに座って考えていたら、ミアたち3人がやってきた。

「?」

「イチロー、かってほしいコミックかいた」

「そうだったな。どれどれ」


 ミアから手渡された表を見たらずいぶんたくさんの名まえが並んでいた。注文すれば2、3日で揃うようなものだから全然問題ない。

 それよりも、リストの日本語がたどたどしいのだがちゃんと漢字まで使ったリストだったことに驚いた。ミアの進歩が著しい。


「了解。ミアたちがアキナちゃんと勉強している間に注文しておくから、注文が届いたらここに持ってくるよ。

 これだけあれば新しく本棚が必要かもな。そうなったらソフィアに言って買ってもらえ」

「わかった。イチロー、ありがとう」「「ありがとうございます」」

「このリストは3人で考えたのか?」

「3にんでかんがえた」「「はい」」

「そうか。そういえば、カリンとレンカもコミック面白かったか?」

「「はい。面白いです」」

「それはよかった」

 自動人形というのは俺が思っている以上にハイスペックのようだ。

 カリンとレンカの体が何で出来ているのか俺は知らないが、もう立派な人間だな。




注1:蓋然性。

宇宙ものSF『銀河をこの手に! 改 -試製事象蓋然性演算装置X-PC17-』(全57話、13万9千字)https://kakuyomu.jp/works/16816700427625399167

よろしくお願いします。



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