第267話 夢2。地震2。掲示板13


 書斎の机の椅子に座って睡魔に身を任せていたら、人が書斎に入ってきた気配で目が覚めた。

「マスター、昼食の用意ができました」

 あまりだらしない姿を部下に見せるのはマズいが、アインは何も言わなかった。


 タマちゃん、フィオナと食堂に下りていき席に着いたらワゴンを押して16号が食堂に入ってきて料理をテーブルに並べていった。

 なんだか食べてばかりだな。


 この日の昼食のメニューはカツ丼に味噌仕立ての豚汁、そしてタクアンだった。

 久しぶりのカツ丼だったのだが甘辛いタレが分厚いカツとご飯にあって絶品だった。

 うちの母さんが作る料理がおいしくないと言っているわけでは決してないが、最近は新館ここの料理の方がうちで食べるものよりおいしいかもしれない。

 ここのシェフの能力がすごいって事だろう。


 タマちゃんも俺と一緒にカツ丼と豚汁を食べた。

 タマちゃんの場合、表情はわからないし、食べる速さは俺の食べる速さに合わせていつも一定速度なので、おいしく食べているのかどうかは分からない。でも、おいしく食べてるんだと思った方がこっちも気持ちいのは確かだ。

 フィオナはいつも通りハチミツだ。フィオナの場合、食べながら何やら呟いているのだが、白銀のヘルメットを被っていても意味不明なのでつぶやきは言葉ではないようだ。区別はよく分からないが擬態語だか擬声語なのかもしれない。




 食後のデザートは各種の果物のほか塩味の効いた小豆にカンテンの入ったミツマメだった。

 かなり冷たく冷やされたミツマメは絶品だった。

 フィオナには果物とカンテンをかなり小さくしてやった。小豆はうまく小さくできなかったのでつけなかった。


 ここの料理と同等の物を日本で食べようと思ったら、相当高額なものになると思う。


 お腹いっぱいになった俺は、フィオナの手と口を拭いてやり、タマちゃんと書斎に戻った。

 書斎ではアインが小テーブルの椅子に座って待機していた。

 俺がいる時は書斎にいてくれと言ったので律儀に書斎から出て行かなかったのだろう。


 タマちゃんはすぐにスポーツバッグに入って、俺は先ほどまで転寝うたたねしていた机の椅子に腰かけてお腹が落ち着くのを待った。


 そうしたらまた眠くなってきてしまった。

 俺はアインに部屋を出て休んでいていいと言って、半地下要塞にタマちゃん入りのバッグを持ってフィオナを連れて転移した。


 入り口で靴を脱いでスリッパはいて中に入り、窓を開け、着ていた上着をテーブルの椅子に掛けてハンモックに横になった。

 気持ちのいい風が吹き抜けていき、俺は目を閉じた。



 俺はまた夢を見ていた。今回の夢も夢を見ているという認識のある夢だ。

 不思議なことだが、起きている時はすっかり忘れていた以前見た夢のことを夢の中だと思い出せる。


 俺は28階層のあの黄色い建物の中にあったダンジョンコアらしきものの夢をまた**見ていた。

 夢の中の俺はこの前の時と同じく中庭の中に立って周囲を見回していた。


 中庭を囲む壁は今回も金色に輝いていた。いや前回と比べて少しくすんだか?

 前回見た夢の中では池の前に金色のドラゴンがいたが今回は見当たらなかった。


 ダンジョンコアがどうなっているのかコアが浮かんでいるはずの池を見たら、くすんだ灰色の玉が台の上で浮かんでいた。

 確か前回の夢ではコアは明るく輝き一種の神々しさがあったが、今回の夢の中で見ている玉には神々しさは感じられなかった。


 俺は前回同様ダンジョンコアに手を触れタッチダウンしようと池の中に入って行き、右手をダンジョンコアの上に載せた。

 そしたらそれまで灰色だったダンジョンコアは俺が実際見た時と同じ黒い玉になって、金色だった中庭を囲む壁はいつの間にかくすんだベージュに戻っていた。


 一体何なんだ?


 そこで後ろからほっぺたを軽くつつかれた。振り向いたらミアくらいの大きさになったフィオナが俺の後ろに立っていた。

 なぜかその時のフィオナの顔の表情はかすんでよく見えなかった。

 そしたらフィオナだけでなく周囲のものがみんなかすんではっきり見えなくなってしまった。


 これはマズいと思った拍子に目が覚めた。


 目を開けたらフィオナが俺の頬っぺたをツンツンしていた。


 最近疲れてもいないのに眠くなることが多いような。

 なにかの呪いにかかってるんじゃないよな。


 さっき夢を見てたような気がするんだけど、全く思い出せない。

 俺って、大丈夫なんだろうか? ちょっとだけ心配になってきた。

 アレ**って『治癒の水』で効果あるんだろうか?


 壁掛け時計を見たら時刻は3時20分。


 アキナちゃんの迎えがそろそろシュレア屋敷に来る頃だ。

 俺もいた方がいいだろうと思って、テーブルの椅子に掛けていた上着を羽織ってタマちゃん入りのスポーツバッグを手にし、フィオナが肩に止まっているのを確かめてシュレア屋敷の玄関ホールに転移した。


 居間で待っていようとしたところで、ミアたちとアキナちゃんが食堂の方から玄関ホールにやってきた。

 白銀のヘルメットを被っていた方がいいと思ってスポーツバッグのタマちゃんから出してもらって被っておいた。


 ミアの顔を見るとほっぺたにクリームが付いていた。

 俺がミアの顔を見ながら自分の頬っぺたをチョンチョンしたらミアも気づいたようで指で拭いてそれを舐めた。

 こういうところは子どもらしくてかわいいよなー。


「ミア、アキナちゃんと勉強してどうだった?」

「よにんですごくたのしかった」

「そいつはよかった」

「イチローさん、今日はありがとうございました」

 こんどはアキナちゃんが頭を下げた。

 サイタマノホシじゃないってミアたちのうちの誰かが教えたんだな。

 ありがたやー。

 うちに帰ったらアキナちゃんからお父さんに教えてあげてくれればもっといいんだけどな。

「どういたしまして」

 俺の言った言葉はアキナちゃんは分からなかったはずだが、何となく雰囲気で察しただろう。


 玄関ホールで話をしていたら、警備員A?がハーブロイさんを連れて入ってきた。

「アキナを迎えに来ました」

「それじゃあ、アキナちゃん」

「アキナちゃん、明日だね」「「アキナちゃん、さよなら」」

「うん、ミアちゃん、カリンちゃんとレンカちゃん、また明日」


 アキナちゃんとハーブロイさんが手を繋いで玄関から出て行った。


「アキナちゃんの勉強の進み具合はどうだった?」

「算数なんかはまだ知らないことが多いようでした」とカレンが答えてくれた。

「編入試験にはまだ1カ月以上あるから毎日ここで勉強すれば大丈夫だろ?」

「はい。アキナちゃんは今日ソフィアから習ったこともすぐ覚えたのできっと大丈夫です」

 見た感じ頭の良さそうな子だったものな。俺の偏見かも知れないが子どもの頭の良さって顔に出るからな。


「じゃあみんな、俺は帰るから」

「イチロー、さよなら」「「マスター、さようなら」」


 スポーツバッグを手にしてフィオナが肩に止まっていることを確かめて俺はうちの玄関前に転移した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 その日の午後2時ごろ。

 日本各地のダンジョンで地震が発生した。

 推定震度は3から4。

 前回の揺れを体験し今回も体験した者は前回の揺れよりも今回の揺れの方が大きいと感じた。


 どのダンジョンでも1階層では被害は出なかったが2階層以下の階層で坑道の天盤や壁が崩れた個所が何個所か見つかった。

 その崩れは自然修復されることはなかった。これまでそういったことが起きていなかったためそれがこれまでとは違っていることに誰も気づけなかった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


1.名無し


サイタマダンジョンCランク冒険者用情報スレその2(53)。マナー厳守!


次スレは>>970を踏んだきみだ!m9


……。


533.名無し


今日の揺れ、目の前で壁が崩れた


20XX年7月27日 19:46


534.名無し


前回の揺れよりひどかったんじゃないか?


20XX年7月27日 19:47


535.名無し


怖かったー。前回はダンジョンにいなかったからどんなだったか知らんけど今日の方が大きかったんだ


20XX年7月27日 19:48


536.名無し


>>535.せやでー


20XX年7月27日 19:48


537.名無し


何かもっとすごいことが起こる超効果も?


20XX年7月27日 19:50


538.名無し


>>537.超効果?


20XX年7月27日 19:50


539.名無し


>>538.兆候か、や。スマソ


20XX年7月27日 19:51


540.名無し


>>539.謝らんでもええんやで


20XX年7月27日 19:53


541.名無し


>>540.せやな


20XX年7月27日 19:53


542.名無し


赤い稲妻が金カード下げていたという情報が流れてたが、このところ赤い稲妻見ないな


20XX年7月27日 19:55


543.名無し


>>542.せやな


20XX年7月27日 19:55


544.名無し


>>542.11階層以深に潜るには時間がかかるから何日も潜ってるんじゃないか?


20XX年7月27日 19:57


545.名無し


>>544.せやな


20XX年7月27日 19:58


……

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