第258話 映画鑑賞2


 朝食のデザートのプリンを食べてフィオナの手と顔を拭いてやった。


 ミアたちは2階に戻って行き、俺とタマちゃんとフィオナはいったん居間に移動した。

 俺の部屋もこの屋敷に作ってもらってもいいが、居間で十分と言えば十分か。


「タマちゃん、フィオナ。俺はちょっとスマホで調べ物をしてくるからここで待っててくれ」


 俺はタマちゃんとフィオナを居間に置いてうちの近くの公園に転移した。

 時刻は7時半。


 ベンチに腰を掛けてスマホをいじっていたら歌声コーラスが聞こえてきた。

 十分年配の歌声だ。

 本人たちは満足して大声で歌っているのだが、第3者的にはあまり耳にしたいような歌声ではない。

 俺は内心の自由を行使はするが、傍若無人な非社会的人間でもなければ相手をおもんぱかる気持ちも持ちあわせているので、面と向かって指摘などしない。


 そういったこういったを極力無視してスマホで今日の映画を探したところ隣街のシネコンで子ども向けの映画を上映していた。

 ポリコレ路線で大失敗し一時経営が傾いたアメリカの某映画会社が起死回生を図ったSF娯楽超大作という触れ込みだった。


 上映は9時からなのでちょうどいい。予約もスマホできるようだったがクレジットカードがないと難しそうだったので止めた。前回遊園地で失敗したが、今度はシネコンと言っても地方の映画館だ。窓口で並んでも問題なく入場できるだろう。


 今日はミアとカリンとレンカの3人でいいか。いや、日本語学習時間に今回の映画についてソフィアに質問が出るかもしれないからソフィア先生も連れていった方がいいな。


 俺はシュレア屋敷の居間に戻ってミアたちを呼んだ。

「今日はミアの日本語の勉強も兼ねて映画を見に行こう。準備して30分くらいしたらここに集まってくれ。ソフィアも一緒だ」

「わかった」「「はい」」「了解しました」

「ソフィアはあとでミアが映画のことをたずねたら教えてやってくれ」

「はい」

「イチロー、えいがってえいがのこと?」

 ミアは映画という言葉だけは勉強を通じて知ってるようだが実物はまだだものな。

「大きな壁に絵が映ってそれが動くんだ」

「しってるー」


 ミアも『知ってるー』を知っていたようだ。というか、『知ってるー』って子ども世界の共通語かもしれない。


 ミアたちが2階に戻って行った。


 タマちゃんはスポーツバッグの中に入ってフィオナは俺の右肩に止まり足をブラブラさせている。


 集合時間まで時間がある。屋敷の周りでも見回っておくか。


 俺はタマちゃんを残して居間から玄関ホールに出て、屋敷の外に出てみた。

 ちょうど警備員AだかBが見回っていたので軽く手を挙げておいた。


 屋敷の表側の植栽も緑が濃くなって、花壇の緑の草には白い花が咲いていた。

 雑草などはどこにも見当たらないので、新館や旧館と同様しっかり手入れされているようだ。


 表側から裏庭に回ったら、今度は警備員BだかAだかが見回っていた。

 いつ誰が庭の整備をしているのか、ここの人員は少ないのでちょっと謎だ。

 順当に考えれば、ミアたちが庭の手入れをしているような気がする。


 そこまで広い敷地ではないので居間に戻ってきたらまだ10分もかかっていなかったのだが、ミアたちは着替えて俺を待っていた。


「まだ早いけど、そろそろ行くか」

「いくー」「「はい」」


 タマちゃん入りのスポーツバッグを手にして、ミアたちに俺の手を持たせ、フィオナが肩に座っていることを確かめてから、隣街のシネコンの入ったビルの脇に転移した。


「この建物のなかで映画をやってるんだ」

 4人を引き連れ、ビルのエレベーターホールに向かった。

「どういうえいが?」

「題名は『時計仕掛けの桃太郎と円卓の騎士』面白そうだろ?

 宇宙を舞台に、桃太郎と桃太郎の11人の仲間が悪をたおす映画らしい」

 ミアには難しい日本語だったようでほとんど理解できなかったようだ。

 今はそうでも映画を見れば今の俺の言葉を全て理解できるはずだ。



 エレベーターにはミアも乗ったことがあるので今回もすんなり乗ることができた。

 シネコン入り口の階で降りたところ、フロアーにはそんなに人はおらず、チケット売り場にも人は並んでいなかった。

 その窓口で大人ふたりと子ども3人で『桃太郎と円卓の騎士』のチケットを買った。

『桃太郎と円卓の騎士』は3D映像ではないようだったのでいらぬ心配せずによかった。


 入場口の手前でミアと俺用にポップコーンとコーラを買って映画館の中に入っていき、指定の映写室に入った。


 上映までまだ30分あったのだが客の入りは半分程度。結構流行っているのかもしれない。

「イチロー、どこにすわる?」

「後ろの方がよく見えるから、後ろの方でいいだろう」

「そうなの?」

「そんなに差はないけどな」


 後ろから2番目の列で、通路から俺、ミア、カリン、レンカ、ソフィアの順で座った。


「ポップコーンは早めに食べてたほうが良いぞ」

「どうして?」

「上映が始まって食べてると、音がうるさくって周りの人に迷惑になるんだ」

「わかった」

「とはいえ無理して食べなくてもいいからな。残ったら持って帰ってもいいんだし」

「わかった」


 そこから、ミアはポップコーンをムシャムシャ食べてコーラを飲んでゲップを何度かしていた。

 俺も一緒になってポップコーンをムシャムシャ食べてコーラを飲んでゲップをした。

 そしたらミアに笑われた。おかしいな。



 9時10分前から上映室内の照明が少し落とされ予告編が流れ始めた。

 そのころにはミアのポップコーンは半分くらい無くなっていたが、お腹は膨れたようで手は止まっていた。

 

 ミアは食い入るようにスクリーンの予告編を見ている。

 かわいらしいのは両手がぎゅっと握られているところだ。

 電気設備というか電源があればプレーヤーを買って円盤を観させてやれるのだが。

 アインに相談したら電気も何とかなるかもしれないから、映画を観終わって午後にでも新館に行ってみるか。


 そうこうしているうちに予告編が終わって宇宙空間をバックにタイトルが流れた。


          『時計仕掛けの桃太郎と円卓の騎士』


 ちなみに『時計仕掛けの桃太郎と円卓の騎士』はこの映画のために書き下ろしされたオリジナル脚本を実写映像化したものだそうだ。そして早くも来年の3月にはアカデミー主演女優賞と脚本賞を取るのではないかと言われているのだそうだ。

 期待大だな。ワクワクが止まらないぞ!


 タイトルに続いてシリンダー型のスペースコロニーがスクリーン一杯に映され

 かなり精巧なCGだ。

 そして物語の背景ナレーションが始まった。

 期待がますます膨らんで期待大大だ。ワクワクがワクワクワクだ!


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