第257話 映画鑑賞


 4泊5日のツアーを終えて28階層の階段部屋から専用個室に転移で現れたらスマホが震えた。

 見たらダンジョン管理庁の河村さんからのメールだった。

 メールは2日前のもので、内容は、関連規則の追加などで手間取っていたため足踏み状態だったダンジョン内農園について、規則も固まり8月から本格的に作業が開始されるとのことだった。場所は北海道のシレトコダンジョン。民間開放された63個のダンジョンの中で最も閑散としているダンジョンだそうで地域の振興も兼ねての農園計画なのだそうだ。

 当面はレモン、リンゴ、ナシ、桃の栽培を進め、さらにメロン、スイカなどの栽培も進めていくとのことだった。

 アレが地域の振興に寄与できるのならいいことだよな。


 俺は26階層を再度探索した結果、階段で下りることのできる新階層を見つけたことをメールに書いて送っておいた。

 そして、その先はもうないのではないかとも付け加えておいた。


 メールを終えて武器類をロッカーにしまった俺は係の人を呼んで、26階層で手に入れた460個ほどの核を買い取ってもらった。

 買い取り総額は3億150万円。

 累計買い取り額は463億976万円+3億150万円=466億1126万円になった。


 28階層で手に入れた見えないモンスターの核120個ほどはアインに預けるつもりだ。わが自動人形軍団は無敵になるはず。

 それと26階層、27階層のゲートキーパーの核も取っておこう。ちょっと派手だし。

 


 係の人が部屋を出ていく前に地震のことを聞いてみた。

「ダンジョン内限定で1時間半ほど前地震があったようです。

 現段階で5階層までの全階層で地震があったことが確認されています。

 サイタマダンジョンだけでなく他の全てのダンジョンでも地震があったようですがどの階層まで地震があったかは今のとこと集計中のようです。

 長谷川さんは何階層にいらしたんですか?」

「ちょっと難しい階層です」

「了解しました」

 ちょっと難しい階層でご理解していただけたようだ。


 大体のことが分かった。

 係の人に礼を言って、係の人が部屋を出て行ったところでうちの玄関前に転移した。



「ただいまー」

『お帰りなさい。早かったのね? お昼はうちで食べるんでしょ?』

「昼はダンジョンの中で食べてきたから作らなくていいよ」

『そう。

 疲れてるんでしょうから、ゆっくりしてなさい』

「先にシャワーを浴びてからひと眠りするよ」


 2階の自室に戻った俺は防具を脱いで下着姿になった。

 タマちゃんはその間にリュックから段ボール箱に移動して四角く広がり、フィオナは母さんの特訓が懐かしいのかフラフラ飛んで部屋を出て行った。


 着替えの下着とツアーで着替えた下着を持って下に下りていった俺は汚れ物を洗濯機に放り込んで風呂場でシャワーを浴びた。

 体を洗って頭も洗ったらすごくさっぱりした。ツアーの間いちど体を拭いて下着を着替えただけだったからな。


 シャワーを終えて体を拭き下着を着てから2階に上がって部屋着兼寝間着に着替えた。そしてベッドに入って横になった。

 やはり精神的に疲れていたようで目を閉じたらすぐに眠ってしまった。


 目が覚めたらフィオナは俺の枕の横で眠っていて時計を見たら午後3時だった。

 何もすることはなかったのでそのまま目をつむっていたらまた眠ってしまった。



 夕食時、家族3人で夕食を囲んだ。

 この日の夕食は天婦羅とソウメン。久しぶりだ。

 

 その席で、結菜の家から菓子折りをもって家族3人が昨日の夕方訪ねてきた話が出た。

 結構高価な洋菓子の詰め合わせだったようだ。

 しきりに礼をするのでそれはよかったですねと、母さんが当たり障りのない返事をしたらしい。

「で、一郎、あなたいったい何したの?」

 そりゃあ気になるよなー。

「ダンジョンからうちに持って帰っている水があるでしょ?」

「うん、おいしい水ね」

「アレなんだけど、実は病気に効くんだよ。父さんも体調良くなったでしょ?」

「一郎のマッサージもよく効くけど、あの水のおかげだったのか!?」

「そういうこと。それで結菜のおじさんの体調が悪いとか言ってたから分けてやったんだ。そしたら体調が戻ったみたい。よかったよね」


『よかったよね』

 この第3者的言い回しはわれながら素晴らしいと思う。当事者だった俺が知らぬ間に立ち位置を変えて第3者に成っている。

「確かに良かったけど、それほど効果のある水なのか? そんなのをお前は簡単に持って帰ってきていたのか?」

「そういうことになるかな?」

 ここは疑問形でまとめておけば十分だろう。何せ悪いことをしてるわけじゃないしー。

 そこまででこの話題は終わり次の話題に話は移っていった。

 俺の戦略的勝利でキャンペーンは終了したということだ。




 夕食を終えた俺は地震のことを思い出してスマホで情報収集した。

 それによると、ダンジョンセンターの買い取り係のおじさんが言っていた通り自衛隊のダンジョンを含め全国64カ所全てのダンジョンで地震があったそうで、人がいた全ての階層で震度3程度の揺れがあったようだ。

 幸いこの揺れが原因の負傷者などは報告されていない。

 ダンジョン庁では急遽地震計を各ダンジョンの1階層に設置することにしたそうだが地震計、地震計の設置場所、そして電源などの手当てもあり設置には1カ月以上かかる見込みという記事もあった。

 もちろん地震の原因は不明。地震なんかが起こるはずないダンジョン内での地震だもの原因なんてわかるはずないが、そうも言ってられないのだろう。

 


 翌日。

 今日は日曜日。

 朝からシュレア屋敷に跳んで行ってミアと朝食をとった。

 この日はタマちゃんにも食事を用意してもらい、タマちゃんの席は俺の左横、ミアの正面にした。


「「いただきます」」」「ふぉふぉふぉーふゅ」


 この日の朝食はタルタルソースが添えられた鮭だかマスのフライがメインで、それにご飯とサラダ、厚焼き玉子とほうれん草のお浸し、味噌汁といったメニューだった。ちなみに味噌汁の実はネギと油揚げだった。もう何でもアリだな。


「タマちゃんもたべるんだ」

「きょうからな。タマちゃんは今のところおいしいものを食べておいしいってことがどういうものか研究中なんだ」

「ふーん。

 タマちゃんがんばってね」

「はい、頑張ります。

 ミアも勉強頑張って」


 この厚焼き玉子出汁が利いておいしいな。



「ミア、昨日ここで地震はなかったか?」

「じしん?」

「地面が揺れて建物なんかも一緒に揺れるんだ。ひどいと建物が潰れて中の人が大けがや場合によっては死ぬこともある」

「ふーん。じしんってこわいんだ。

 でもじしんはなかった」

「そうか。ならよかった。

 ちなみにこのシュレアで地震って今までにあったことはないのか?」

「ない。いちどもない」

「分かった」

 シュレアの街はヨーロッパの街みたいにほとんど地震のない大陸の上に立っているようだ。一安心だな。

 俺なら火事と雷は何とかなるかもしれないが、地震だけはどうしようもないものな。


「ミア、勉強の方はどうだ?」

「ちょうしいい」

「それはよかった。ミアって頭いいものなー」

「そんなことない」

「謙遜するな。今の俺との話だって日本語としておかしなところは何もなかったからな」

「そうなの?」

「うそじゃない。日本語ってすごく難しい言葉のひとつなんだがそれをこんなに短い時間で使えるようになったミアはすごく頭がいいってことだ」

「そうなんだ。イチローにいわれるとすごくうれしい」

「そうか。ならよかった」


 ミアのうれしそうな顔を見ているとこっちまでうれしくなるな。

 フィオナの笑顔も癒しだけど、ミアのこの顔も癒しだ。


 この前の遊園地は結局夢の遊園地になってしまったが、今日は子ども向けの映画をどこかでやっていたら見に行ってもいいかもしれない。

 今のミアの日本語能力なら十分楽しめるはずだしな。

 いちど向こうに戻ってスマホで確認してみるか。

 おっとその前に、ヒドラの解体をアインに頼んでこよう。


 俺はタマちゃん入りのスポーツバッグを持ちフィオナを連れて新館の書斎に転移した。

 そこでアインを呼んでヒドラの解体とバーベキュー用に適当にスライスしてもらうよう頼んだ。

 前回同様中庭の空いたところに出しておいてくれと言われたので、転移で中庭に下りて、そこの芝生で一番広いところにヒドラの胴体をタマちゃんに出してもらった。

 大きすぎて、花壇にはみ出したりしてしまったが仕方ないよな。



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