第256話 地震


 目が覚めて時計を見たらまだ4時半。周囲はもちろん明るい。

 何か夢を見ていたはずなのだが、目が覚めたらすっかり忘れてしまっていた。

 不思議なものだ。


 今日は5日間のツアー最終日。

 今回のツアーでなんとか26階層を踏破して27階層に下り、それからこの28階層にたどり着きとうとうダンジョンコアまで見つけてしまった。



 ただダンジョンコアが何の役にも立たないポンコツだったことには失望してしまった。

さらに言えば、思いのほかダンジョンが浅かったことも残念要因だ。

 これで冒険者生活を組み込んだ俺の将来設計が大きく狂ってしまった。

 責任者出てこい! と思ってはみたものの実際責任者が出てきても困るし、それに俺は悪質クレーマーではないしな。


 この日の朝食もサンドイッチと調理パンにした。レパートリーが払底してしまった結果だ。

 そうは言ってもサンドイッチも調理パンもできたての味だ。食事に不満などあろうはずもない。


 今日の予定は、昼までこの階層の階段部屋の周辺を簡単に探索し、その後できれば大空洞の壁を見つけることにして昼過ぎには撤収するということにした。

 どうせ出てくるのは見えないモンスターだけだろうから手に入るのは核しかない。

 核は売ってもいいしアインに渡して自動人形用の予備のコアにしてもいいので内容的には核集めするだけだ。


 今回母さんには今日の夕方5時ころに帰ると言って出てきているのだが、数時間程度の誤差で父さん母さんが困ることもないだろう。


 3人で朝食を手早く済ませて最後に紅茶を飲み干し、後片付けをして装備を整えた。


 最後にフィオナが右肩に止まっているのを確認してこの階層の階段部屋に転移した。

 そのつもりだったのだが、転移できなかった。


 あれ?


 もう一度転移を意識したのだが転移できなかった。


 マズいぞ。


 転移先に何か問題があるのかもしれないと思って、転移先を半地下要塞前としたのだが転移できなかった。


 ここは転移不能階層なのか?

 可能性はある。


 仕方ないので、俺は階段部屋まで駆けて行くことにした。

 時計を見たら午前5時。

 昨日階段部屋からここまで4時間かかったけれど駆けていけば7時には到着できるはず。


 昨日タマちゃんに空けてもらった壁の孔はそのまま残っていて、そこから建物の外に出て眺めたところ、昨日ウィンドカッターでなぎ払った地面は少し元に戻ったようだが走る支障にはならなそうだ。

 これならかなり速く走ることができる。


 キエーーッ! を聞きながら駆けること1時間。

 やっと階段部屋前にたどり着いた。


 階段部屋の扉は俺が開けたままにしていたのでそのままの状態で開いていた。

 階段部屋の中に入って、扉を閉め半地下要塞前を意識して転移した。


 半地下要塞前だ。

 よかったー。

 これで一安心。

 次は、28階層の階段部屋に転移してみた。


 問題なし。

 階段部屋を出て、少し歩きそこで半地下要塞前に転移を試みたところ転移できなかった。


 この階層で転移可能なのは階段部屋だけと考えていいだろう。厄介な。


 最後の検証として、ダンジョンコアの前に転移できるか試すことにした。出来た場合はまた2時間走ることになるが、必要なことだろう。


 階段部屋に戻って念のため扉を閉め、ダンジョンコアが浮いていた池の前を意識して転移を発動させたつもりだったが不発だった。


 階段部屋の中以外、転移先としても使えないと考えて良さそうだ。


 大体のことは分かった。


 階段部屋から外に出て、あらためてディテクター×2を発動しレビテートとディテクトトラップを意識した。

 ディテクター×2にはそれなりの数の反応があった。

 どうせならたかって欲しいのだが近づいてくるのはいつも1匹だ。



 階段部屋の周りを一周したところ、階段部屋は古ぼけた岩でできた小洞窟のようなもので、外側からでは26階層に続く階段は見当たらなかった。

 変わったところと言えばそれくらいだった。


 大空洞の壁があるかもしれないと思った俺は、あては何もなかったのだが昨日とは逆方向に歩いていくことにした。


 ウィンドカッターで諸々をなぎ払いながらまっすぐ歩いていく。

 たまに近づいてくる見えないモンスターをクロちゃんで叩き斬って核を回収し、またウィンドカッターで諸々をなぎ払いながらまっすぐ歩いていく。

 まさに我が道を行く無法者だ。


 6時過ぎから歩き始めて約2時間。

 その間20匹ほど見えないモンスターをたおしている。

 で、肝心の大空洞の壁だがジャングルの木々が邪魔になって何もわからないままだった。

 先が見通せないせいか1階層よりよほど広く感じる。

 この階層が64個全てのダンジョンの根っこだと考えるなら、それも当然かもしれない。


 

 そこから2時間。諸々をなぎ払いながら途中一度沼を越えて進んでいったところ、ようやく大空洞の壁らしものが見えた。

 壁の近くに大木はなく、青い上空もちゃんと見通せた。

 1階層と同じで目の前の壁を見上げていっても青い空の中に溶け込んで天井などは全く見えなかった。


 時刻は10時を回ったところ。まだずいぶん早い。


 とは言ってもわざわざ壁の近くを歩いていく気にもならない。

 ということなので俺は壁に背中を預けるような格好で突っ立ったまま、タマちゃんから渡してもらった緑茶のペットボトルから一口お茶を飲んだ。


 フウ。


 もう一口のお茶を飲もうとペットボトルを持ち上げたところで足元が揺れた。

 地震?


 これまで一度もダンジョン内で地震を感じたことなどなかった。実際はわずかに揺れたことがあったかもしれないが意識したのは初めてだ。


 うちの中にいれば家具の揺れなどから震度2、3、4の揺れは体感でほぼ正確に割り出せるのだが、野外だとほとんどわからない。いまの地震は震度3くらいあったような、なかったような。


 上の方からパラパラと小石が落ちてきたところを見ると地面と連動して壁も揺れたということなのだろう。そういう意味では大地震だったのかもしれないが、プレートなどないハズのこのダンジョンが揺れたということはちょっとした謎だ。


 この階層だけが揺れたのかそれとも他の階層も揺れたのか?

 少しだけ興味がある。


 今回のツアーでやることがなくなった今、地震のことも気になるしそろそろ撤収しても良さそうだ。


 まだ昼にはだいぶ時間はあるが朝から勘定すればだいぶ時間も経っているので、装備を解いてその場に腰を下ろしておむすびで腹ごしらえすることにした。

 腹ごしらえが終わったら撤収だ。



 後片付けを終えてフィオナの手と顔をタオルで拭いてやり、装備を整え時計を見たら10時半だった。


 名残惜しいわけではないので、振り返ることなく階段部屋目指して駆けだした。

 帰りは1時間で階段部屋に到着できた。

 試しに扉を開けたまま転移しようとしたが不発だった。

 しっかり扉をしめて専用個室を思い描いて転移した。


 ちゃんと転移は発動して俺は専用個室の中に立っていた。


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