第255話 ダンジョンコア3、夢。


 ダンジョンコアに到達してしまったようなのだが、どうも思っていたような反応がない。というか何の反応もない。完全に空振りだ。


 仕方ないので早めの昼食を食べた俺は、片付けをした後ふて腐れたわけではないのだが今現在毛布の上に寝っ転がって青空を眺めている。雲でも流れていればいいものをそんなものは見えなかった。


 枕代わりに両手を組んで後頭部の下に入れていたら、フィオナがやってきて右腕で出来た3角形の中にはまって横になった。

 そっちを見たらフィオナはニッコリ笑った

 癒しだよなー。


 それはそうと、ダンジョンコアらしき黒い玉どうしようか?

 何も反応はなかったし動かすこともできなかった。

 そもそも俺はダンジョンコアを触っただけで頭の中は空っぽだった。

 それではダンジョンコアとしても反応に困ってしまうのが当たり前で、俺がコアに向かって何か頼めば俺の願いを聞いてくれるかもしれない。そんな気がしないでもない。


 俺のweb小説知識では、ダンジョンコアはことダンジョン内では万能のハズだもの。

 問題は俺がダンジョン語を話せないことと、ダンジョンコアもおそらく日本語を理解できない事。


 日本語を全く知らなかったアインだって俺の思考を読み取って会話できたんだから、意思疎通は可能ではないか?


 その辺りがクリアできたとして俺の願いは、主に農作物を運ぶための転移板、ないしは黒い渦だよな。そういったものが手に入ればダンジョン農家としてやっていける。

 自動人形たちに作業を任せておけば左うちわでガッポガッポ。俺的に言えば不労収入だがよそ様から見れば立派な収入だ。これ以上稼いでどうする? という問題はあるが基本的にお金の量と幸せは正比例すると考えていいだろう。正比例は言い過ぎかもしれないが、多い方がいいというのは真実のハズだ。


 あと何かダンジョンへ要望はないだろうか?

 今のところ思いつけない。

 ダンジョンについて漠然とした不安はあるが、何の要望もないということはそれほど今の俺は充実してるってことかも知れない。

 ダンジョンコアが使い物にならず、ここがダンジョンの終点だったとしても、この階層の探索はまだまだだし。館のある新世界もミアの世界のこともあるから俺たちの冒険はまだまだ続く。



 12時までそうやってボーッと横になっていたのだが、起き上がった俺は毛布をタマちゃんに預け、装備を整えた。

 フィオナもちゃんと俺に右肩に座ってスタンバイしている。


 再度レビテートを意識して池の水の上に立った俺はダンジョンコアらしき黒玉に手を置いて転移板を望んでいることを頭の中で考えた。


 その結果。


 ……。


 何も起きなかった。

 ひょっとしてこのダンジョンコア、生きてないんじゃないか?

 いや、宙に浮いているから死んではいないんだろうが、ダンジョンコアとしての能力を既に喪失したいわば生けるしかばね。


 期待をしていなかったと言えばうそになるが、予想された結果だ。

 しかし、この状態のダンジョンコアが正常なのだろうか?

 大いに疑問があるが、とりたてて問題が起きているとも思えないので、無問題モウマンタイと考えるしかない。


 ここはこれ以上どうしようもないので、俺は中庭を囲む建物の中を探検することにした。

 1時間ほどかけて建物の中を見て回ったのだが、最初の大広間のほかは空き部屋が連なっているだけで何もない。

 見事なほど何もない空き部屋ばかりで、ただの空き家だった。

 

 ここまできてしまうと誰が何のために建てたのか考えても仕方がない。というか、結局のところダンジョンコアの周りを囲っただけの衝立ついたてオブジェクトと思っていいのだろう。

 よく見ると壁から現れた柱などはかなり傷んでいるし、階段などもすり減ったまま。屋根が落っこちていないのが奇跡のような状態だ。オブジェクトにしては年季が入っていて古臭い。

 これは、こういったものを管理すべきダンジョンコアが正常に機能していないことの表れかもしれない。


 夕方まで建物の周りのジャングルを探索したが定期的に見えないモンスターに襲われ返り討ちにしただけでそれ以外何もなかった。

 1階層と同じでここも24時間照明のようで明るさに変化はない。


 新館に戻ってもよかったが、せっかくなので、この建物の中で泊まることにした。

 この日の夕食はにぎり寿司のパックだ。


 温かい緑茶を用意してさっそくタマちゃんとつまんだ。

 場所は中庭。池の近くだ。

 池の水を試しに鑑定したもののただの水だった。そういう意味では飲めないわけではないがお茶用の水は、ホットウォーターで作ったお湯をヤカンに入れてコンロで沸かしてすこしさましたものを使った。


 時刻は午後6時過ぎ。中庭から見上げる空の明るさは変わっていない。やはりここは新世界ではなくダンジョンの中、1階層と同じような大空洞なのだろう。


「寿司もいいよな」

「はい。幸せです」

 俺とタマちゃんがにぎり寿司を食べている横で、フィオナはハチミツを両手ですくって舐めている。

 俺も幸せだ。


「しかし、ダンジョンコアらしき目の前の黒玉だけど、本当にダンジョンコアなのかな?

 ダンジョンキーパーもいなかったし」

「確信はありませんが、わたしの本能はアレはダンジョンコアだと言っています」

「ダンジョンで生まれたタマちゃんがそう言うんだからダンジョンコアなのか。

 しかし何の役にも立たないんじゃ意味なくないか?」

「意味はないかもしれませんが、もし破壊でもすればダンジョンが崩壊するのではないでしょうか?」

「サイタマダンジョンが崩壊するってことか?」

「いえ、サイタマダンジョンだけでなく他の63個のダンジョンのコアも目の前のその玉ではないかと思います」

「ということは、64個のダンジョンは全部内部でつながっている?」

「はい。おそらく26階層へ下りてくる階段が64個あるのではないでしょうか?」

26階層あそこは見当もつかないくらい広いからその可能性は十分あるな。

 そのうち26階層でフィオナに上り階段を探させればどこかほかのダンジョンに出るってことか?」

「いえ、25階層のダンジョンキーパーをたおして初めて26階層への階段が作られるのではないでしょうか」

 下から俺が上がってきたら25階層のダンジョンキーパーゴリラも驚くだろうしな。納得だ。

 

 寿司をタマちゃんとふたりで食べ終わって、その日のデザートは残っていたきんつばにした。

 緑茶ににぎり寿司、そして緑茶にきんつば。

 幸せだなぁ。


 周囲は明るいままなのだが、建物の中に入る気にもなれなかったので中庭で寝る準備をして早々に毛布の上で横になった。

 見えないモンスターがやってきても、フェアリーランドで黒いもやを撃退したタマちゃんなら容易に撃退できるだろう。


 ということで、バスタオルを丸めた枕の上に頭を置き、その隅で横になったフィオナを見ていたら、そのうち眠くなってきて目を閉じた。



 寝る前に時計を見ていなかったのだが、目が覚めて時計を見たら午後11時半だった。

 外が明るいので仕方がない。

 フィオナは黙って眠っているしタマちゃんの動きもない。

 池の真ん中の台の上で宙に浮く黒玉にも変化はない。


 再度目をつむった俺は2度目の眠りについた。


 そして俺は夢を見た。

 俺がいたあの世界の夢を見ると前回見た夢のことを思い出すのだが起きてしまうと完全に忘れている。不思議なものだ。


 今現在俺が見ている夢の中の俺は、俺が今現在寝ている中庭の中に立って周囲を見回している。


 中庭を囲む壁は実際はくすんだベージュだったが、夢の中の壁は金色に輝いていた。

 そして、池の前には金色のドラゴンがとぐろを巻いて眠っていた関係で後ろの池の様子は見えなかった。

 ダンジョンコアがどうなっているのかと思ってドラゴンの横をすり抜けて池を見たら、池の真ん中の台の上に明るく白く輝く玉が宙に浮いていた。

 これこそがダンジョンコアだと言われれば誰もが納得できる一種の神々しさがその玉にはあった。


 俺はダンジョンコアに触ろうと池の中に入って行き、右手をダンジョンコアの上に乗せたら急にダンジョンコアの光が失せ、生気の抜けたような黒い玉になってしまった。

 周りを見回すと、池の前で寝ていたはずの金色のドラゴンも知らぬ間にいなくなっていて、中庭を囲む壁も金色からくすんだベージュに戻っていた。


 この夢も目覚めたら忘れるのだろうと意識している第2の俺がいて、それを眺めている第3の俺がいた。このパターンは以前にもあったような気がする。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る