第254話 ダンジョンコア2
タマちゃんの言うダンジョンコアらしき黒い玉の上に手袋を外した右手をのっけてみた。
黒い玉は触った感じひんやりしていて、俺の手のひらの下で上下を軸にしてゆっくり回転していた。
そしてそれだけだった。
おいおい。
玉の浮かんだ台の上をよく見たら、玉の下に何の粉か分からないが黒い粉がほんの僅か積もっていた。
「タマちゃん、触ってみたけど何も変わったところはなかった」
「何も感じませんでしたか?」
「ちょっとひんやりしたくらいであとは何も感じなかった」
「そうでしたか」
タマちゃんを責めても仕方ないのだが、実際問題この黒い玉は何なんだろう。
とにかく台の上に浮いているのが思わせぶりなんだよな。
そうだ! もしこの玉が目的地でなかったのならフィオナがゲートキーパーの位置を示してくれるはず。
「フィオナ、ゲートキーパーの位置が分かるか?」
右肩の上のフィオナに聞いたところ、フィオナは俺の肩から飛びあがって黒い玉の周りを回り始めた。
「フィオナ、こいつが目的地なんだな?」
フィオナは俺に向かって大きくうなずいて俺の右肩に戻ってきた。
フィオナの今の動きから言って、目の前の黒い玉が目的地=ダンジョンコアの可能性が高まったのは確かだ。
しかし俺が触っても何の反応もなかったわけで、そうなると俺にとって何の意味もないということになる。
ボウリングの球なら指を入れる穴が空いてるけどこいつにはそんな穴空いてないし。
それほど大きなものでもないので、タマちゃんに収納してもらって後で考えるか。
今までダンジョンがらみのweb小説は何作も読んだことがあるが、ダンジョンコアを持ち帰った
俺が初めてかもしれない。
「タマちゃん、この玉収納してくれるか?」
「
誰もダンジョンコアを持ち帰らなかったのには訳があったのか!
それはどうでもいいが、タマちゃんに収納できないとなるとますます目の前のボウリングの球がダンジョンコアである可能性が高まった。
待てよ、タマちゃんに収納してもらわなくても、玉の見た目は軽そうだからリュックに入れてしまえばうちに持って帰れるんじゃないか?
リュックの中でタマちゃんは少しばかり窮屈になるがそれくらいはどうってことないだろう。
俺は手袋をはめ直して、玉を両手で掴み引っ張ってみた。
少しずつ力を込め最後には全力で引っ張ってみたが玉はびくともしなかった。
玉がゆっくり回っている関係で俺もつられて回っただけだ。
ストレングスで筋力を上げたところでどうにかなる感じではない。
諦めるしかないようだ。
ダンジョンコアを自宅に持ち帰った最初の男。と、なんちゃらブックに登録されても意味ないしな。
いったん池から出た俺は腕時計で時刻を確かめた。
時刻はまだ10時40分。
フィオナレーダーが玉を指している以上先には進めない。
だが、玉は俺には何の反応も示さずただ台の上で浮いている。
これが最終目的地のダンジョンコアだとすると、ここが終点でこの先何もない。
俺のダンジョンライフはこれで終わってしまうのか?
これから先何のお楽しみも無くなってしまうのか?
俺のダンジョンを組み込んだ人生設計がここで終わってしまうのかと思うと少しだけ悲しくなってきた。
いや大いに悲しくなってきた。
確かにミアが成人するまで面倒を見ていくという大きな仕事はあるのだがそれだけだ。
俺は弱冠17歳にして人生の迷子になってしまうのか?
おーい。だれかー、何とかしてくれー! と、叫び出したい気分だよ。
サイタマダンジョンを攻略した俺はこれから先全国のダンジョンを回って歩くのか? いくら実力本位の世界だと言っても、そこをベースにしているSランカーに迷惑がられるよなー。
愚痴っても仕方ない。
少し早いが昼食にしよう。朝が早かったからお腹が空いているのは確かだ。
俺は装備を外して石畳の上に腰を下ろし、リュックの中のタマちゃんに昼食用に器具と食材を出してもらった。
今日の昼食は野菜炒めとご飯にした。
野菜炒め用のカット野菜と、焼き肉用のタンを1パック、そしてパックご飯を2つ。
最初にダッチオーブンにお湯を入れてパックご飯を2つ突っ込んで蓋をしてコンロに掛ける。
そこで電子レンジ魔法のことを思い出したのでいったんコンロの火を消して、パックご飯をひとつ取り出してまな板の上に置いてみた。
そしてそのパックご飯に向かって水の分子が振動しているイメージで「熱くなれ」と念じたのだが、何のとっかかりも感触もなかった。
それでもと思ってそのパックご飯を触ってみたものの、先ほど湯から出した時より少し表面が冷めていただけだった。
失敗することもあるサ。
俺はまな板の上に出したパックご飯をダッチオーブンに戻してコンロに火をかけた。
電子レンジ魔法は失敗したが、気を取り直して今度はまな板の上にパックに入っていた焼肉用タンの半分を取り出して縦横十字に4分の1の大きさに切っておく。
その後スキレットをコンロの上に置いて火を点けて温まったところで半分に切ったタンを入れタンに火が通ったあとカット野菜を投入。
味付けは塩コショウ、そして白い粉末調味料。パッパッパパパ!
ヘーヘー、ヘークション。コショウが少し舞ったようだ。
少ししたらご飯の入ったダッチオーブンが沸騰し始めた。
野菜炒めの方もいい
野菜なんだから生でも食べられるのだが、生で食べたいわけではない。今までの俺ならその程度のこと気にしなかったはずなのだがグルメになったものだ。
トングでご飯のパックをひとつダッチオーブンから取り出してビニールの蓋を引きはがして準備完了。と、思ったら飲み物の準備を忘れていたのでタマちゃんに緑茶のペットボトルを出してもらって準備完了。
2つのコンロの火を落として「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」
タマちゃんには悪いがおむすびセットにしてもらった。フィオナにはハチミツだ。
野菜炒めを摘まんでパックご飯の上にのっけてご飯と一緒に口に運ぶ。
ムシャムシャ。うまい。
手前味噌ではあるが、俺には料理の才能もあるのではないかと思えるほどの出来栄えだ。
これから先のダンジョンライフは不安ではあるが昼食はやはり温かいものに限る!
スキレットの上の野菜炒めを半分食べたところで1個目のご飯パックを食べ終わった。
直ぐに2個目のご飯パックをダッチオーブンからすくい上げてビニールの蓋を引きはがした。
パックご飯ってブランド米が基本なんだが、それにもましておいしい感じがするのはなぜだ?
炊き方に秘訣があるのだろうか?
スーパーかどこかで買ってくれば済むだけなのでどうでもいいと言えばそうなのだが、少々気になる。
館のご飯はそれほどブランド米というわけではないと思うのだが、館のご飯もおいしいよなー。決してうちの母さんのご飯がどうのと言っているわけじゃないぞ。
野菜炒めを食べ終え、パックご飯の最後のひと粒を食べ終えた。ちょっとだけご飯が足りなかったがこれくらいがちょうどいいのだろう。
今日の食後のデザートはきんつばにしてタマちゃんとひとつずつ食べた。これも量が少なかったのだが、それはそれでよかったと思う。
きんつばもそうだが和菓子は腹いっぱい食べてはいけない気がするし。
腕時計を見たら時刻は11時10分だった。
12時まで休んで、その間に次のことを考えよう。
後片付けを終えて、フィオナの手と顔を濡れタオルで拭いてやった俺はタマちゃんに毛布を1枚出してもらい石畳の上に敷いてその上に寝転がった。
中庭から見上げた空の色は妙に青かった。
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