第250話 真・27階層、宝石の部屋


 ツアー4日目。

 26階層から続く階段下の石室で焼き肉を食べ、その日を終えた。

 不寝番をいつものようにタマちゃんに任せた俺は、俺のバスタオル枕の隅で横になったフィオナともどもぐっすり眠った。


 目が覚めて腕時計を見たら午前4時半。昨夜早く寝た割に十分の睡眠時間がとれたようだ。

 部屋の中をざっと見渡したところ、変わったところはなく俺が寝ている間何か起きたということもなかったようだ。

 今回のツアーの目的は達成できたのだが、今日を含めてあと2日みっちりダンジョン探査を続けるつもりだ。目的を達成しているので気持ちはかなり軽い。



 朝の支度を終えて、朝食の準備に取りかかった。

 今日の朝食は何にしようかと悩んだ末、結局サンドイッチと調理パンになってしまった。

 したがって準備と言ってもお湯を沸かして紅茶を淹れたくらいだ。

 毎日違う朝食を用意することはある種の才能に違いない。


 ちなみにサンドイッチはポテトサラダサンド、ハムチーズサンド、玉子サンド、そしてハムカツサンドだった。調理パンは焼きそばの代わりにナポリタンの入ったナポリタンパンだ。実際のところナポリタンパンというのかどうかはわからない。ラベルに書いてあった名まえは単純に調理パンだった。


 サンドイッチも調理パンもいつ買った物なのかは定かではないのだが、タマちゃんに収納してもらっていた関係でフレッシュだ。

 ただ、電子レンジがあれば便利のような気がしないでもない。

 電気サンダー系統の魔法が使える今、電磁波系統の魔法が使えてもおかしくないような、おかしいような。

 昼にでも試してみよう。



 朝食の後片付けをして装備を身に着けた。もちろん昨日の防刃ジャケットは表地が割けてしまっているので新しいものだ。金額的には何の問題もないのだが、買うのが面倒なんだよな。


 今回のツアーではあまり意識してこなかったのだが、今日はちょっと真面目に行こう。

 ということで、『祈りの指輪』と『心の指輪』を左右の指にはめておいた。これで呪いと精神攻撃は怖くない。



 行くぞ!

 まずは罠発見を意識してディテクトトラップする。

 そして、万が一罠を踏み抜かないようにレビテート。

 あと事前的にできることは速さと強さをあげることくらいだが、そこまではいいだろう。


 今いる石室の中にたったひとつだけある正面の扉に手をかけた。


 扉を開いた先に広がっていたのはまっすぐ続く石造りの通路で両側にはところどころ、千鳥に並んで扉が見えるが、通路は一本道で途中で交差したりはしていないようだ。そして通路の突き当りに扉がひとつ見える。


 通路に面した扉の先がどうなっているのかは分からないが、この階層は26階層と打って変わって親切設計なのだろうか?


 なんであれ同じような石組のシュレア側の暫定28階層とどことなく雰囲気が違う。

 俺の記憶なので確実というわけではないが石の色がこちらの方が白みがかっているような気がする。


 それはさておき、目視範囲内に通路上に罠を示す赤い点滅はないようだし、モンスターもいなようだ。

 モンスターについてはあらためてディテクター×2。

 反応はない。見た目通り通路上にはモンスターはいないようだ。


 では、定石通り手前の扉から当たってみよう。


 フィオナにリュックのポケットの中に入っているように言おうと思ったが、自由にさせておけばフィオナは勝手に回避するハズなので、何も言わず部屋の扉に手を当て一気に押し開いた。


 部屋の広さは奥行き30メートル、左右20メートルくらいの長四角の石室で中はがらんどうだった。ただ、なぜか正面の壁が全面深みのある黄色だった。

 何の意味があるのか、全く分からない。

 壁に近寄ってよく見たところ、壁にペンキか何かが塗ってあるというわけではなく石自身が半透明で黄色の石だった。

 トパーズ? なんだろうか?

 宝石には疎いので分からない。

 鑑定するほどのことでもないと思いそのまま部屋を出て通路に戻り、斜め前の扉に手をかけて押し開いてみた。


 今度の部屋も長四角の石室で中は空っぽ、そして正面の壁が深みのある青だった。

 正面の壁に近づいてよく見ると、壁は半透明の青い石でできたいた。


 サファイア? なんだろうか?


 部屋を出て次の斜め前の扉を押し開いたら、今度は緑色の壁だった。

 エメラルド?


 通路に戻って、その先の扉に手をかける。予想ではルビーだよな。

 で、扉を押し開いたら、正面の壁は真っ赤。

 きっとルビーの壁なんだろう。

 横幅20メートル、高さ5メートル、奥行きは最低でも50センチの宝石の壁。

 タマちゃんに頼めば壁ごと収納できそうだが、こんなのを持って帰ったら宝石市場は大暴落だろうなー。

 この階層なら確実に転移で行き来できるので、その気になったらやってもいいかもな。


 ここまで開けた4つの石室には順に黄、青、緑、赤。4色の宝石の壁があった。

 5つ目の石室の正面の壁は白地で虹のように七色に輝いている。

 オパール?


 フィオナは俺の右肩に座って足をブラブラさせている。

 モンスターの気配など何もないし、そもそもフィオナは魔法耐性高いわけだし余裕なのだろう。


 6つ目の石室の予想はダイヤモンド。

 6つ目の扉を開けた。そしたら今度はやや紫色がかった壁だった。

 宝石なんだろうけど、何の宝石かは分からなかった。ただ屈折率がすごく高いようで近くで中をのぞきこむように見てると目の調子がおかしくなった。

 

 その部屋を出たところ通路沿いの扉は通路の突き当りの扉を除いてあと6個並んでいた。


 そこから順に6個の扉を開いていった。どの扉の先も今までと同じ空の石室で扉の向かい側の壁には宝石の壁が立っていた。


 結局『だから何?』状態のまま通路の突き当りの扉に手をかけた。


 ふー。


 一度大きく息をして念のためディテクトトラップを意識してから扉に手をかけて押し開いた。


 扉の先の部屋は5メートル四方くらいのこれまでの石室から比べるとかなり狭い石室で、扉の正面の壁の前には四角い台がひとつ置いてあった。


 この階層には通路の両側に12個の部屋があり、通路の片端に階段部屋。その反対側のこの部屋。全部で14室あっただけだ。

 この部屋の中に階段はないが、この先に進むための何かがあるはず。


 複雑なことを考えなくても怪しいのはたったひとつ鎮座する台なのでその前に行ってみたところ、台の上にも罠の類はないようで赤い点滅はどこにもない。


 台の上には横3列、縦2行、あわせて6個の四角い宝石?の板が貼られていた。宝石の板の色は黄、青、緑、白、赤、紫。

 これまでの12個の部屋の中にあった宝石の色と同じだ。

 おそらく6個の宝石板はスイッチになっているのだろう。スイッチっぽく出っ張っているから押せばいいはずだ。

 ただ、スイッチが全部で12個ではなく6個しかないのがちょっとひっかかるところだ。

 宝石の並びは1個目から6個目までが、黄、青、緑、赤、白、紫。

 7個目から12個目までの並びは、青、黄、緑、赤、紫、白。


 間違って押した場合なにがしかのペナルティーはあるかもしれないが、どう考えても間違いようはないほど簡単な仕掛けだ。


 ということで、まず黄色のボタンを押してみた。

 ボタンはそのまま押し込まれて、そこで止まった。

 今のところ正解かどうかは分からないが、部屋の中には何の異変も起きてはいない。

 次に、青のボタンを押してみた。同じようにボタンは簡単に押し込まれてその位置で止まった。

 あれ? このままいくとあと4回でお終いなんだけどいいんだろうか?

 6個全部押したらその6個がまた元に戻って新しく6回押せるようになるのだろうか?


 俺が何を考えようが、目の前のボタンの中身が変わるわけでもないのでそのまま緑、赤、白、紫の順にボタンを押していった。


 6個のボタンが押し込まれたままの位置で止まってしまったが、それ以外変わったことは起きていない。

 これってマズくないか?

 これで終わってしまえば先に進めないぞ


 ちょっとだけ冷や汗が出てしまった。

 次に何をすればいい?


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