第249話 26階層本格再探査5、ゲートキーパー


 26階層ツアー3日目。

 昼食時フィオナにゲートキーパーは近いのかとたずねたところ、フィオナは大きく首を縦に振った。

 俺は俄然やる気を出して、フィオナレーダーの指し示す方向に突き進んでいった。

 しかし、どこまで進んでもゲートキーパーの待つ受ける部屋は現れなかった。


 そして時刻は午後8時。次の部屋を今日の最後の部屋としよう。

「これが当たりだったらありがたいのだが。

 フィオナ、念のためリュックのポケットに入っていてくれ」

 右肩の上のフィオナがうなずいていったん飛び上がり後ろに回った。見えてはないがちゃんとポケットに入ったようだ。


 扉の向こうからは今までと変わらず何の気配もしなかったが、心の中で『いくぞ!』と自分に気合を入れて左手扉を押し開き、右手で部屋の真ん中と思しき方角に向けストーンバレットを放った。


 その後部屋の中の光景が目に入った。

 まず広い。

 そして、その部屋のまん中にゲートキーパーが鎮座して、俺の放ったストーンバレットはどこかに消えていた。


 ゲートキーパーは俺の予想では6本腕の超巨大爬虫類スケルトンだったのだが、予想と違ってそれほど巨大ではなかった。何より乾きものではなく生ものだった。

 いわば巨大爬虫類ゾンビ。腕は4本で、全部の手に幅広刀を握っていた。


 距離は50メートルほど。俺はそいつに向かって近づいていった。

 20メートルくらいまで近づいたらその巨大爬虫類ゾンビが俺を威嚇するように4本の腕に持った幅広刀を振り回した。

 威嚇?

 何かを考える前にビシッ! と音がして俺の防刃ジャケットの表地が数カ所裂けた。


 ほう。やつは俺に向かってウィンドカッターを放ったのか。

 防刃ジャケットの表地を割く程度の威力ではそこらの雑魚キャラのファイヤーボールとどっこいどっこいだ。


 それでは俺の方からお返しだ。

『ウォーターカッター3段』

 逃さないよう3段重ねでウォーターカッターを放ってやった。

 4本も腕があるわけなので刀で受けるかも知れないがウォーターカッターの刃は一カ所止めても他は独立して動いているのでそこだけ防げてもカッターの大部分は素通りしてしまう。従って物陰に隠れるか丈夫な大盾で防ぐしか手がない。


 結局ウォーターカッターを4本の生の腕で受けた巨大爬虫類ゾンビは4本の幅広刀と一緒に二の腕から先の手も失ってしまった。


 グギャー!


 腕を4本全部高圧水で砕かれて失ったのが相当痛かったようで巨大爬虫類ゾンビは大声で叫んだ。

 一辺100メートルはありそうな部屋なのだがヘルメットをしててもその叫び声が頭に響く。


 これで止めとどめと思い、巨大爬虫類ゾンビの頭に向かってファイヤーアローを放ってやったら、ファイヤーアローはあっさり巨大爬虫類ゾンビの額を貫通してしまい、巨大爬虫類ゾンビは後ろに仰向けになって倒れてそれっきり動かなくしまった。

 予想通り簡単に片付いてしまった。


 何も言っていないのにフィオナがリュックから飛び出して俺に右肩に止まって足をブラブラさせている。

 探索を始めて3日目。今日の最後でようやく見つけたゲートキーパーなのだが全く感動はない。

 それでも写真を撮っておこうとスマホを防刃ジャケットの内ポケットから取り出して何枚かゲートキーパーの写真を撮っておいた。

 ニーズもなさそうなので今回は俺入りの写真は撮っていない。


 写真を撮り終わったところでタマちゃんにゾンビを処分してもらうことにした。

 爬虫類ゾンビからはありがたいことに腐臭は漂ってはいないのだが、フレッシュではないだろう。

「タマちゃん、くさった肉に見えるけど大丈夫かい?」

「大丈夫です。何も問題ありません」

「じゃあ、いつも通り処分して核を渡してくれ」


 背中のリュックから数本の金の偽足が伸びてあっという間に巨大爬虫類ゾンビの死骸がちょぎれた腕から先も含めてタマちゃんに吸収されて、手元にゲートキーパーの核が残された。

 幅広刀についてはデカすぎて使い道もなさそうなのでそのままだ。

 そしてゾンビが立っていた場所の少し先に金の宝箱がいつの間にか現れて、さらにその先に下り階段が開いていた。

 やはり館のある暫定27階層は本当の27階層ではなかった。


 まずは金の宝箱の中身だ。

 金の宝箱はこれまでの宝箱同様簡単に展開した。中に入っていたのは銀色の指輪だった。

 鑑定指輪をタマちゃんに出してもらって左手にはめてその指輪を鑑定したところ『心の指輪』という名前ではめていれば精神攻撃無効効果があった。今後それ系のモンスターが出現するということか。


 今日はこれで終ろうと思っていたのだが、ウォーターカッターのせいで部屋の中は濡れているし、真・27階層を見てから終業することにした。


 階段を数えながら下りて行ったところやはり60段で下の階層に到着した。

 階段下はこれまでと同じように天井が明るく発光している石室だったが、階段の真正面の壁にひとつだけ扉が付いた縦20メートル横10メートルの細長い殺風景な部屋だった。

 いちおう罠の存在を考えてディテクトトラップを意識したが、赤い点滅は現れなかった。これで一安心。


 時刻は8時10分。今日はこの部屋でキャンプだ。俺は部屋の隅でキャンプの店開きすることにした。


 今日の夕食の予定は焼き肉だ。さっきゾンビをたおした後だがそんなものは全く関係ない。

 まな板を床の上に置きその上に肉のパックとカット野菜の袋、それに焼肉のたれを並べた。


 カセットコンロの上にスキレットを置き火を点ける。

 スキレットがそれなりに熱くなったところで、まずはレバーからスキレットに投入していった。

 レバーの片側に火が通る前に小皿に焼肉のたれとフィオナ用ハチミツの小皿を用意してスタンバイオーケーだ。


 トングでレバーを裏返し空いたところにカボチャとタマネギを入れておいた。

 十分火が通ったところで「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」


 スキレットから直接箸でレバーを摘まみたれに付けて一口。

「うまい!」

 次にタマちゃんようにレバーを摘まんでたれに付けてタマちゃんに渡す。

「おいしいです」

 昨日の今日でおいしいかどうかはわからないが、タマちゃんも味について訓練しているということが伝わってきた。

 前向きな者は応援したくなる。たとえそれがスライムで種の壁を越えていようともだ。


 何も考えず食べ始めたものの、飲み物は何にしようか?

 野菜ジュースを買っていたので焼き肉にはちょうどいいはず。

 ということで野菜ジュースをタマちゃんに出してもらってコップに入れて飲んでみた。

 まだレバーを一口食べただけなのだが確かにくちのなかがさっぱりして焼肉にあっている。二十歳過ぎればビールとかお酒を飲むから野菜ジュースの出番はないかもしれないが、家族で焼き肉を楽しむならぜひ試していただきたい。

 と、俺は誰に向かって話してるんだ?


 2枚目のレバーをタマちゃんと食べたところでカルビをスキレットに投入した。

 しかし、レバーがこれほどおいしかったとは。もう少し買っておけばよかった。


 カルビが焼けるまでタマちゃんとレバーを食べ、レバーがなくなった頃やっとカルビが焼き上がり始めた。カルビは前回の焼きそばのときの残りと新しいパックなので1.5パック分になる

 最初に入れた野菜にも火が通っていたので、そっちもいっしょに箸で摘まんでたれを付けて食べてみたところ絶品だった。カット野菜買っててよかったー。


 カルビの次はミノ、そしてタン。野菜を追加しつつどんどん食べていき、カルビ2週目。

 焼肉用の肉なのだが、1枚1枚結構厚めに切ってあり、その分ボリュームがある。

 タマちゃんと半分ずつにしているにもかかわらず結構お腹が膨れてきた。

 カルビの後タンをもうひとパック分食べたところで肉はお終いにして、袋に残っていた野菜を焼いてそれで最後にした。


「タマちゃん、足りたか?」

「はい。既に膨大な量の食料を吸収しているので量はあまり意味を持ちません。主と食事出来て楽しかったです」


 うちで食事を一緒にするとなると母さんが大変だから難しいけれど、新館とかで食べる時はタマちゃんの食事も作らせて一緒に食べるようにしていこう。


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