第248話 26階層本格再探査4。哲学3人組


 ツアー3日目の午前4時半。

 朝も早よから目が覚めてしまったので朝の支度をしてさっぱりしたあと朝食の準備に取り掛かった。


 まずヤカンに水を入れるのだが、なるべく熱いお湯を入れてみた。かなり湯気が立っていたから熱湯の部類だったはず。それをコンロにかけて火を点けたらすぐにゴロゴロ音がし始めた。


 さて今日の朝食は何にしようか?

 昨日の夕食がにぎり寿司だったのでサンドイッチでいいか。足りない分は調理パンとデザートだ。


 タマちゃんにサンドイッチの包みを何個か出してもらい沸騰したお湯をテーバッグを入れたコップに注いで準備完了。


「「いただきます」」

 フィオナはまだ食欲がないようでバスタオル枕の上で横になったままだ。


 タマちゃんとサンドイッチを分け合って4袋ほど食べたらだいぶお腹も膨れてきた。

 今日のデザートはイチゴにしてきた。

 このイチゴもひと粒がやけに大きいので、4粒も食べれば腹いっぱいになる。


 タマちゃんとイチゴを4粒ずつ食べてごちそうさま。

 そのころにはフィオナも起き出したので朝の片付けを済ませ装備を身に着け準備完了した。


 さあ、今日もがんばるぞ!


 ……。


 朝5時から頑張ったものの、午前中変化なく爬虫類スケルトンを数十体たおしただけだった。同じだけの核と魔法盤を手に入れてはいるものの少々疲れてしまった。


 昼の休憩時間。面倒だったのでおむすびを食べながらフィオナにゲートキーパーはかなり近くなったのかと尋ねたところ、フィオナは大きくうなずいた。

 俄然やる気が出てきた。

 俺の場合フィオナレーダーがあるからやる気を維持できているが、一般人ではこの階層突破は渦の部屋まででさえ無理だろうなー。



 早々に昼食を終えて装備を整えた俺は、フィオナレーダーを起動して隣の部屋に突入した。

 今まで見的必殺の構えで扉を開けて爬虫類スケルトンがいたらストーンバレットを放っていたのだが、ストーンバレットであれなんであれ魔法・魔術はいくら撃とうがタダなんだし、爬虫類スケルトンは部屋の中にいれば必ず部屋の真ん中に突っ立っているわけだから、扉を開けた瞬間ストーンバレットを部屋の真ん中に向かって撃ち込みそのまま突入することにした。


 この手順の変更で時間は節約できるとは思えないのだが、適当に撃った弾が当たるとそれなりに楽しい。ただそれだけだ。

 この方法の問題点は、扉の先にいるのがゲートキーパーだった場合、本格的な攻撃を繰り出すことが一拍遅れてしまうことなのだが、どうせゲートキーパーと言ってもたかが知れているので大した違いはないだろう。


 この慢心が俺にとって重大な結果をもたらすとはその時の俺は知る由もなかった。当たり前だよな。だっていくらゲートキーパーと言ってもどうせ26階層にいるような雑魚モンスターなんだもの。

 館の先にある渦の向こうのモブモンスターの方がよほど骨がある気がする。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 一方こちらは鶴田たち3人。

 今日は3人でサイタマダンジョンに潜っている。


「外はうだるような暑さだが、ダンジョンの中は年中快適な温度湿度だ。

 モンスター狩を抜きにしてもダンジョンの中で過ごす方が楽だな」

「ふたりとも夏休みの宿題はどこまで進んでいる」

「俺はあと半分くらいだ」

「……」


「明日は3人で宿題でもしないか?」

「坂口の提案とすれば珍しい」

「……」


「いや、ひとりでやろうが3人でやろうが見せ合うわけではない以上あまり差はないのだが、このダンジョンの中でそういった作業をすれば捗るのではないかと思っただけなのだがな」

「ここで勉強するというのか?」

「その通り。哲人カントは毎日の散歩の中で思索を練ったという」

「うーん。考えるだけならまだしも歩きながら書くのは難しくないか?」

「我々にできぬはずはないとまでは言わないが、試してみる価値があるのではないか?」

「哲学的思索と高校の宿題では少し趣は違うとは思うが試してみるか」

「……」


「そういえばふたりとも中学の時写生で使った画板を持っているだろ? あれを利用すれば歩きながらでも字は書けるぞ」

「確かに。画板で歩きながら宿題とは斬新だな」

「……」


「浜田、今日は朝からやけに口数が少なくないか?」

「昨日ドラゴンのウロコを舐めていたら舌を切ってしまった。まだ痛いんだ」

「浜田、その関係の夢は忘れた方がいいのではないか?」

「長谷川が悪いわけではないのだが、長谷川のおかげで夢がドンドンかなっていって手が付けられなくなってしまった自分がいる」

「浜田は現在進行形で幸せの真っただ中ということか?」

「そうかもしれない。この痛みもそう考えたら痛みではなく快感なのかもしれない」

「さすがに快感はないのではないか? いくら主観で世界が変わると言っても痛みが快感に変わるとなると倒錯が過ぎるぞ」

「痛みの感覚、痛覚は確かに俺に痛いという感覚を伝えているのだが、この感覚を得ること自体俺の夢がかなった事実の裏付けという意味で快感なのだ」

「なるほど。

 それはそうと浜田。顔をしかめてまでして無理に話さなくてもいいぞ」

「……」

「確かにな。不快な五感も感じられるのは生きているからこそではある。ましてそれが自分の望みがかなったことに由来するものであればその感覚を大事にしたいという考え方も理解できる。

 おっ! あそこの地面の上にいるのスライムじゃないか?」

「そうだな」

「……」

 3人が同時にメイスを構えて駆けだした。


 ……。


「いつもなら、話しているうちに時間が飛んでしまうのだが、たまにモンスターに出会うと自分が何をしていたのか思い出せてありがたいな」

「メリハリがあるとでもいうのか。俺たちは一般的ではないのだろうが、ダンジョンの利用法は人それぞれだしな」

「……」

「それはそうと、たまに茂みの中ものぞいた方がいいんじゃないか?」

「地面の上でじっとしているモンスターばかりではないだろうし、モンスターから見れば茂みの中に隠れている方が安全と思わないか?」

「それもそうだな。

 手始めにあそこに見える茂みをのぞいてみよう」


 3人が茂みの中に分け入ったが、モンスターはいなかった。そして妙なハプニングも起きなかった。


 午前中4個の核を手に入れて、3人並んで地面にじかに腰を下ろして弁当を食べ始めた。

 3人の弁当はどれもダンジョンセンターの売店で買ったのり弁だ。



「おい、いま地震なかったか?」

「ダンジョンの中で地震なんてないだろ? 地質学的にはどこにもつながっていないというぞ。現にダンジョンセンター側が震度4で揺れてもダンジョンの中は全然揺れないとか何度も聞いたことがある」

「気のせいだったか」

「そういうこともあるだろ? かぜをひいたときなんか、ちょっとクラっときたり」

「確かに」

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