第247話 26階層本格再探査3、夢5


 夕食にパックに入ったにぎり寿司食べ始めた。かなり大きなパックなので数えてみたら48個にぎり寿司が入っていた。家族用お得セットだ。

 フィオナに生魚関係は無理なので酢飯を少しと、あとはいつも通りハチミツだ。


 アジ、こはだ、はまち、ひらめ、イカ、まぐろの赤味と中トロ、海老、ホタテ、ウニ、イクラ、玉子の12種類。1種類2貫で4個、種類的には多いわけではないのだが、特に問題があるわけではない。


 今日はタマちゃんと一緒に寿司を食べよう。

「タマちゃん、一緒に寿司を食べよう」

「はい」


「それじゃあ「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」


「最初はアジだ」


 家族用のためかさび抜きなのでワサビをちょっと付けてから落っことさないようにつまんで醤油をネタにちょっと付けて一口で食べてしまう。


 ウグウグ、ゴックン。


 うまい。


 お茶を一飲みして、付いていたガリを一口。

 こんな最深部でにぎり寿司に舌鼓を打つ。タマちゃんの収納と転移があるからこその贅沢だ。

 タマちゃんに「アジのにぎりだ」と言ってアジのにぎりをひとつ渡してやった。

 そしたらすぐに消えてしまった。


「タマちゃん、味は分かるかい?」

「何を食べても正直味はよく分かりません」

「そうか。俺がおいしそうに食べている様子はわかるかい?」

「それは分かります」

「そしたら、俺がおいしそうに食べているものがおいしいんだって思って食べていれば、タマちゃんならそのうちおいしいってどういった感じなのか分かってくるよ」

「分かりました」


 これからはタマちゃんに少量でもちゃんとしたものを食べさせていこう。俺を参考にするということは俺の舌がもうひとつ増えるということだが、間違ってもグルメになることはないだろう。


 ネタを順にタマちゃんと食べていき12種類全部食べてみたところどれも予想通りおいしかった。こんなのは予想にもならないか。

 2巡目に入る前にお茶にお湯を継ぎ足した。

 マグロの赤身と中トロだと、俺自身の好みでは赤味の方が好きではあるが、もちろん中トロが嫌いということではない。


 パクパクパックン。


 2巡目も食べ終えた。12貫24個ずつタマちゃんと分け合った。少し足りない感じがしたが、デザートとして今日はリンゴをむいた。

 果物類はどれも1玉が大きいのだがリンゴは特に大きい。

 皮をむいて8等分にしてさらに小さく切ったものをフィオナのハチミツ用小皿に入れてやり、残りを俺とタマちゃんで分け合った。

 これでお腹いっぱいになってしまった。


「「ごちそうさま」」「ふぉふぉふゅーふゅ」


 フィオナの両手と顔を濡れタオルで拭いてやり、後片付けをして就寝準備に取り掛かった。

 準備と言っても毛布を2枚敷いてバスタオルを丸めて枕にするだけなのであっという間に終わってしまう。


 準備を終えたところで時計を見たら8時50分。まだ結構早いのだが何か用事があるわけでもない。


 バスタオル枕の端で先に横になっていたフィオナを横に見て俺は目の上にタオルを置いて目を閉じた。





 俺はまたあの世界の夢を見ていた。

 夢から覚めた後は夢の内容をすっかり忘れているのだが夢を見ている時は、前回見ていた夢の内容を思い出せる。不思議なものだ。



 俺は、とある町を通りがかった時に目にした光景をまた見ていた。

 そのころ俺たちのチームから上級騎士ハイマンが抜け、その娘弓術士イザベラ・ハイマンが加わって1カ月くらい経った後の出来事だったはずだ。



 俺たち5人がその町に入っていくと町の連中が広場に集まっていた。

 何があったのか様子を見たところ、これから捕まえた魔族を縛り首にするという。

 見れば広場の奥に縛り首用の台が設えられ、その台の上に目隠しをされたおそらく女がひとり立たされていた。

 その女の首にはロープが巻かれていて、どう見てもロープは締まっているし女の体には力が入っているようには見えず首のロープに全体重がかかっている。

 刑は既に執行されていたようで、とうに魔族の女はこと切れていた。

 その女の死体に向かって町の連中が石を投げつけたり怒声を浴びせている。



 おそらく罪状は魔族だから。それだけなのだろう。

 魔族と呼んではいるものの、魔人以外の魔族を人族と区別できるのかというと俺には見た目だけで判断はできない。

 その魔人も殺してみて死体が跡形もなく消えることで初めて魔人だと分かる。


 人族と魔族の区別を聖女マリアーナに聞いてみたのだが要領を得なかった。同じことを盾戦士バレルに聞いてみたところ、やはりあいまいな答えが返ってきただけだった。

 そういった問答をしていたら弓術士イザベラ・ハイマンが俺に向かって「そういったことを人前で話さない方がいい」と言われてしまった。

 魔族のことを話すことや聞くことはタブーなのか?

 俺は疑念に思ったがそれ以来そういった話題を口にしないように心にとどめた。


 俺たちは既に縛り首で死んでしまった魔族を遠めに眺め広場を通り過ぎ、その先の比較的こぢんまりした宿屋でその日の宿を取った。



 俺は10年間そういった諸々について何も疑問に思わないまま魔王城に突入して魔王と戦ってしまった。

 不思議だ。

 なぜそう言った諸々を疑問に思わなかったんだろう?

 夢の中の俺はこれまでのことを思い返して違和感を覚えていた。

 なぜ俺はあれほど必死になって魔族と戦ってたんだ?

 なぜ俺たちは魔族を滅ぼそうとしてたんだ?

 分からない。

 夢の中でそういったことを考えていたら頭が割れるように痛くなった。夢の中のくせに痛くなるのかよ!



「いつつつつー」

 頭が痛くて目が覚めたような気がしたのだが、目が覚めたら頭は全然痛くなく、いつもと変わらずスッキリしていた。


 何だか頭痛あたまいただけじゃなくってもっとちゃんとした夢を見ていたような気がするのだが全く思い出せない。

 今現在何ともないのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだが。

 得したような損したような。


 時計を見たら11時半だった。

 フィオナはもちろんおとなしく寝ている。

 上半身だけ起き上がって石室の中を見回したが変わったところは何もない。

 さすがに2度寝しないわけにもいかず、目の上にタオルをかけて目を閉じた。


 


 4時半起床がデフォになったのか、2度寝から目が覚めて時計を見たら今日も4時半だった。


 今日でツアーも3日目だ。

 運が良ければ今日にもゲートキーパーを見つけられるかもしれない。

 俺の予想だがゲートキーパーはあの渦の前の6本腕の巨大爬虫類スケルトンがさらにデカくなってパワーアップした感じになるのではないか。

 今まで隠れていたわけだからある程度ホネのあるやつにお出まし願いたいのだがスケルトンと言っても全然骨がないからなー。

 ドラゴンがいればこんどは解体せずに丸のまま鶴田たちに見せてやれるのだが。


 などとゲートキーパーのことを考えながらお湯**で濡らしたタオルで顔を拭いたらすごくさっぱりした。

 ついでだったんで全裸マッパになって体を拭いたらさらにさっぱりした。

 下着を新しいものと代えたらもっとさっぱりした。下着の替えは一組しか持ってきていないので、もう替えはない。

 次回からは毎日着替えるように数を揃えておこう。


 タマちゃんに頼めば石室の中に四角く穴を掘ることくらい簡単そうだから、湯ぶねを作って俺がお湯を入れてやれば風呂場の出来上がりだ。

 もう少し早く気付けばよかった。

 お風呂セットの用意も忘れないようにしないと。

 ただ、この26階層の場合同じ場所に転移で跳んでいけないからそういう必要があるだけで、同じ場所に跳んで行けるのなら最初からうちの風呂を使えばいいだけだった。

 俺はまだ入ったことはないが新館にも風呂はあるし、シュレア屋敷にも風呂はある。

 シュレア屋敷はミア専用のようなものだから、新館の風呂にそのうち入ってみるか。

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