第244話 3人組新館招待3、非日常と日常の境目。ツアー開始


 アインがドラゴンのウロコを取りに書斎を出て行ったところで俺は鶴田たちの前に転移で戻った。

「いきなり消えていきなり現れる。まさに日常的非日常だな」

「ウロコはとっていたようだからここに持ってきてくれるよう言っておいた」

「すまんな」

「気にするな」


 ドラゴンの首の前でアインを待っていたら3分ほどで玄関からアインが現れ小走りに駆けてきた。

「どうぞ」

 各人に大き目の下敷きほどもある透明なウロコを手渡したアインは館の中に戻っていった。


「周りがものすごく鋭利だな」

「指くらい簡単に落ちそうだな」

「ある種恐怖を感じさせる鋭さがあるな。先端恐怖症とまでは言えないが、これに対して恐れをいだくのは自然なのではないか?」

 確かにウロコはかなり薄いうえ、丸みを帯びたひし形っぽいウロコの周辺部分はそこらのナイフなどよりよほど切れそうな禍々まがまがしさがある。


「これはまさしくドラゴンのウロコではあるが、鋭利なものに対する恐れというものはドラゴンに対する原初の恐怖の表れかもしれんな」

「原初の恐怖か。なるほど」

「これとは関係ないが、人には水に対する恐れと言ったものもあるな」

「人の歴史が刻まれ始めて数万年。その中で遺伝子に刻み込まれ続けてきた原初の恐怖か。

 ただ生きているだけでは気付けないことを今日気付けたことは大きい」

「確かに」

「同じく」


 3人がウロコで盛り上がっているのだが、そろそろドラゴンの生首をしまって1階層に跳んで行った方がいいだろう。

「そろそろいいかな?」

「また時間が飛んでいた」

「同じく」

「この癖は一生ものなのかも知れんな」

「悪い癖ではないからいいんじゃないか?

 ウロコをしまったら1階層に戻ろう」

 3人がリュックを下ろしてウロコを片付けている間に生首はタマちゃんに収納してもらった。

 生首の周囲で金色のテープが揺らめいたあと生首が消えたところは3人にも見えていたはずだが3人は何も言わなかった。

 彼らの非日常が日常となったということかもしれない。


「それじゃあ、俺の手を持ってくれ、階段小屋の先あたりに転移するから」


 3人が俺の手首辺りを持ったところで転移した。

「驚くべき現象ではあるが、慣れればどうってことないな」

「だな」

「言い方を変えれば、俺たちも長谷川の日常に飲み込まれたということではないか?」

「そうとも言えるが、決して悪いことではないだろう?」

「それどころか得難い体験を重ねられたわけだからな」

「その通りだ」


 ほかの冒険者が少なそうな方向へ歩きながらディテクターで周囲を探り、見つけたモンスターに鶴田たちを誘導していく。


 これまで良くて2撃でモンスターをたおしていた鶴田たちだが午後からはいずれも1撃でモンスターをたおしていった。

 ドラゴンステーキを鑑定していないから詳しいことは分からないが何かの効用があったような気がしないでもない。

 果物でさえそれなりの効用があるくらいだから、ドラゴンの肉なら恒久的な何かがあってもおかしくないからな。


 結局今日の上がりと思っていた3時半までに全部で20個の核を手に入れていた。これだけあれば大成功だろう。



「今日分かったことは、長谷川の日常は俺たちにとっての非日常ってことだな」

「ただ、俺たちにとって非日常のハズのものに俺たち自身が慣れてしまって日常化してしまったことだ」

「日常と非日常の境目はあいまいだということだな。慣れと気の持ちようでは少し違うが中身は似たようなものだ」

「なんであれ長谷川、今日はありがとう」

「長谷川、ありがとう」

「それじゃあな」

「おう」

「そうそう。言い忘れていたけど、今日お土産に渡した果物は元気が出るし病気にも効くはずだから」

「長谷川、お前の言葉だから信じざるを得んが信じられんような話だな」

「もし身内に病弱な人間がいたら無理してもまるごとひとつ食べさせてやれ」

「うちにはいないけど、とにかくありがとう」

「うちはじいさん、ばあさんだな。明日にでも持っていってやろう」

「うちは親父が胃の調子が悪いと言っている。食べさせてみる」

「浜田。もし果物だけで改善しないようなら俺に知らせろ。他にも手があるから何とかできるはずだ」

「すまん」

「気にするな」


 渦に向かう3人と別れた俺は専用個室に転移し、カードリーダーに冒険者証をかざしてからうちの玄関先に転移で戻った。



 その日の夕食を家族3人で食べていたら鶴田たちの保護者から相次いで電話がかかってきた。内容はお土産に渡した果物についてだった。母さんが別に驚くこともなく対応してくれた。果物をいつも持って帰っているから違和感のない話だものな。



 さーて、明日は4泊5日ツアーの用意でダンジョンはお休みして明後日からツアースタートだ。



 翌日。

 やや遅めに起き出した俺はうちで朝食を食べた。

 今日は月曜日だが祝日なので父さんもうちにいる。

 普段着に着替えていつものホームセンターの近くに転移した。フィオナは留守番でタマちゃん入りのスポーツバッグを手にしている。


 時刻は8時。食品売り場は朝からにぎわっていた。

 俺はカートを押して魚売り場に顔を出してみた。魚料理をしようというわけではなく出来合いの寿司パックでも買おうと思ったからだ。

 俺なら4日の内2日は夕食に寿司を食べても問題ないので大き目の握り寿司の詰め合わせを2つと巻きずしセット、いなりセットを2つずつカートに入れた。

 そのあと目に付いたチューブのワサビと刺身醤油もカートに入れておいた。これで夕食2日分だ。


 その後俺は肉売り場に回ってステーキ用牛肉と焼き肉用牛肉をカートに入れておいた。焼き肉用の牛肉はカルビ4パック、レバー2パック、ミノ2パックとタン4パックにした。

 肉の売り場だったのだが焼き肉用のニンジン、タマネギ、キャベツ、カボチャの入ったカット野菜なるものを売っていたのでそれもカートに入れておいた。

 焼肉のタレで食べる野菜もおいしいからなー。

 ナスビはタマちゃんが沢山収納しているから問題なし。


 その後俺はレトルト食品コーナーに回ってカレーを何個かとスープを何個か見繕い、4パック入りのパックご飯を4つカートに入れた。


 途中の野菜売り場で野菜炒め用のカット野菜を売っていたのでカートに入れた。そしたら焼きそばも食べたくなったのでそれっぽいコーナーを探し当ててカートに入れておいた。

 焼きそば用の肉はカルビでいいだろう。


 飲み物売り場に回り野菜ジュースを何本かカートに入れた。トマトジュースも買っておこうかと思ったんだけどそもそもトマトはタマちゃんがそれなりの数収納しているので不要と思って見送った。


 1階でレジ前の長い列の最後尾に並ぶこと15分。なんとか精算が終わった。

 荷物をとっととタマちゃん入りのスポーツバッグに突っ込んで今度は2階に上がっていった。


 特に必要なものがあったわけでもないのだがキャンプ用品売り場に回ってよさげなものが見つからないかと思っただけだ。


 今回レトルト食品とかパックご飯を用意したからカセットコンロはもう一つあった方が良さそうな気がしたので、カートに入れておいた。ガスボンベもまだひとつも空になっていなかったはずだが3個セットをひとつ買うことにした。


 こんなものかな。

 そう思ってレジの方に歩いていたらおもちゃ売り場があった。

 ミアは決して幼児ではないが子どもの情操教育におもちゃは有効ではないか?

 新館の時は体育館があったがシュレア屋敷だと雨の日は勉強以外何もすることがなくなってしまう。


 そう思った俺はトランプと将棋と将棋盤、リバーシセット、そしてバランスタワーをカートに入れてみた。

 トランプとリバーシセットとバランスタワーには説明書が付いているようなので問題ないが将棋にはそんなものは付いていなかった。これについては駒の動かし方だけは知っている俺が直々教えてやろう。

 もちろん売り場には囲碁も売っていたのだが、囲碁の本を置いてもいなかったしそもそも俺は全く囲碁は分からないので敬遠した。


 精算を終えて荷物をタマちゃんに預かってもらった俺はゲームをミアたちに届るべく階段の踊り場に移動してそこからシュレア屋敷の居間に転移した。


「俺だー、誰かいるかー?」

 居間の中から声を出したら2階からドタドタとミアたち3人とソフィアが居間にやってきた。どうも勉強中だったようだ。

 ちょっと、というか、かなり悪かった。


「ミアの情操教育と雨の日なんかの暇つぶしにゲームを買ってきた」

 ミアには『情操教育』という言葉は難しかったかもしれないが聞き返してこなかった。気持ちは伝わったのだろう。


 そのあと俺はゲームを居間のテーブルの上に出していき簡単な説明をしていった。

 やはり見た目の派手なバランスタワーがミアの興味を引いたようだったので5人で試しにやってみることにした。


 箱から取り出した木の棒を組み立てて俺からミア、カリン、レンカ、ソフィアの順に棒を引っこ抜いて上にのっけてく。


 おそらくこの5人の中では最も運動神経が発達しているはずの俺が下から3段目の脇の木を引っこ抜いて一番上に置いた。もちろん危なげなくタワーは安泰だ。


 その後、無謀にもミアが俺の抜いた木の反対側の木を抜こうとした。

 引っ張るたびにタワーが揺れるのだがタワーは崩れることなくミアは木を引っこ抜くことができ俺の置いた木の隣りにその木を置いた。


 その後カリンが無難に上から5段目あたりを抜こうとしたのだがそのまま塔は崩れてしまった。


 文字通り大笑いの大騒ぎになってしまった。娯楽のほとんどない世界で育ったミアが大笑いするのは理解できるのだが、カリンとレンカも一緒になって大笑いしていたしソフィアも笑っていた。

 3人は自動人形ということなのだが人間とほとんど変わらないようだ。これで食事ができるようになれば人間だな。

 となるとこの中で俺が一番人間から外れてる?

 いやいやそれはないはず。

 

 それから3度タワーを作って遊んだ。


「遊び方が分かったようだから次はトランプだ」

 バランスタワーを片付けトランプで遊ぶことにした。

 最初は無難にババ抜きで遊んだ。

 ババ抜きのルールは簡単なので4人ともすぐに覚えたようだ。

 自動人形の3人は顔に出ないのだがミアは顔にすぐ現れるようで、最後までババを抱いてしまう。あんまりかわいそうなので俺がババを引いてやった。

 俺がババを引っこ抜いたときのミアの満面の笑顔を見られただけでも価値があった。



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