第243話 3人組新館招待2


 哲学3人組を新館に招待してドラゴンステーキをふるまった。

 ステーキを3分の1ほど食べたところで鶴田が聞いてきた。

「長谷川、それでこの肉は何の肉なんだ? 高級牛肉風でもあるがどことなく違うし脂もさっぱりしている。かなり量のある肉だが飽きる感じが全くしない。

 長谷川がわざわざこんなところまで連れてきてごちそうしてくれたということは想像以上の何かだとは予想できるが全く見当つかない」

 鶴田に図星を突かれたら少し寂しかったがさすがの鶴田でも無理だったようだ。


 もったい付けても仕方がないのでそろそろ教えてやろう。

「ここから少し行ったところに洞窟があってその中で巣食ってたドラゴンだ。

 結構デカかったから毎日この人数で食べても何年もかかると思う」

「「……」」

「俺の見込んだ長谷川だ。イノシシとかシカのジビエで十分だと思っていたのだがまさかドラゴンだったとは。

 ここのところ俺の夢がトントン拍子に叶っていく」

「浜田、ここで『幸せだー!』を叫ぶなよ」

「自制は出来ているから問題ない。俺の最後の夢はモンスターの解体だが、俺の技量ではまず無理なので一生の夢ということにしておこう」


「長谷川がドラゴンをたおしたということを疑ってはいないが、こうやって肉になって出てきたところは解体したってことだよな?」

「ここの入り口前でここの連中が解体してくれた」


「そういえばここの人たちって長谷川の召使に見えるんだが」

「そういう意味では召使だな。ただ、彼らは人間じゃない。

 自動人形だと自称している」

「人にしか見えなくても人ではないのか。

 長谷川は大金持ちではあるし、この屋敷も所有している。学業はトップクラスというのもおこがましいくらいのダントツのトップ。これから先何を目指していくんだ?」


「普通の生活を送りながらダンジョンの最下層を目指すつもりだ」

「普通の生活しながらドラゴンのステーキはないと思うが長谷川にとっては普通なんだろう。

 普通とは相対的なものであるといういい実例だな」

「第3者から見ていかに非日常であれ本人にとって日常ならまさしく日常」

「しかり」


「鶴田たちは何を目指していくんだ」

「それなりの大学を目指してそれなりの企業に入り、それなりの相手と結婚してそれなりの家庭を築く。小さな幸せの積み重ねと言えばいいか」

「派手さはないが人生に派手さなど不要なわけだから理想的な人生設計だな」

「いまのところ人生設計というにはおこがましい希望だがな」

「坂口たちはどう?」

「俺も鶴田と似たり寄ったりだな。足るを知ってつましく生きて行こうと思っている」

「俺も人生の目標としてモンスターの解体があるがそれ以外は鶴田と同じだ」


 みんな堅実だな。

 投機的な人生を否定するわけではないが、そういったことをしなくても満足できる生活が送れる。それこそ平和の果実を享受しているということなのだろう。


「胴体は解体してしまったからもうないが、頭はあるから後で見せてやるよ」

 確かこの3人にはタマちゃんを見せてはいなかったと思うが、いまさらだ。

「ほう。俺たちが日本で初めてドラゴンを見るってことだよな?」

「ドラゴンは誰にも見せていないから、そう言ってもいいだろうな」

「web小説なんかじゃドラゴンの素材は色々役に立つという話があるがその辺りはどうなんだ?」

「ドラゴンの血は薬の原料になるようだが今のところ製法は分からない。

 ほかの部位については全く分かっていない」

「なるほど」


 そういえば食べる前に鑑定しとけばよかった。料理として出てきた以上悪い効果は少なくともなかったろう。


 料理が片付いたところでデザートが並べられた。今日は桃のシャーベットだった。甘くておいしいんだよねー。


「これは桃なのか?」

「うん。果樹園があるんだ。そこの桃を使ったシャーベットのハズだ」

「いままでそれほどシャーベットを食べたことなどないがこれは信じられないくらいおいしいな」

「そうだな」

「不思議だ」


「そうだ。

 16号、桃と梨とリンゴを2個ずつ、ミカンを5、6個お土産用にとってきてくれるか?」

「少々お待ちください」そう言って16号は部屋を出て行った。

「おい。さっきの人の名まえは16号って言うのか?」

「うん」

「長谷川が付けた名まえなのか?」

「そうではないんだがな」

「ちゃんとした名前を付けなくていいのか?」

「たくさんいるから手が回らなかった」



 5分ほどで果物が盛られたカゴを3つ乗っけたワゴンを押して16号が帰ってきた。

 5分で戻ってきたところを見ると館内に在庫があったようだ。

「リュックの近くに置いておきます」

 そう言ってテーブルの先に置かれたリュックの手前にカゴを3つ並べた。

 シャーベットからはわずかな匂いしかしていないのだが、カゴからはミックスフルーツのいい香りが漂ってくる。


「なんだか至れり尽くせりだな」

「俺にとってはどうって事ないことだし、それでみんなが喜んでくれるなら越したことはないからな」

「すまんな」


「食べ終わって少し落ちついたら庭に出よう。そこでドラゴンの頭を見せてやる」

「わくわくだな」

「恐竜っぽいのか?」

「それは見てのお楽しみということでいいんじゃないか」

「それもそうか」



「そろそろ行くか。リュックの中にじかに果物を入れると傷みそうなのでカゴごと果物を入れた方がいいと思うぞ」

「わかった。しかしこのカゴも高そうだな」

「ここで作った物のハズだから高い安いの値段はないけどな」


 準備が整ったところで俺もタマちゃん入りのリュックを背負って先頭に立って食堂を出て行った。

 鶴田たちは律儀にも「ごちそうさま。おいしかったです」と言いながら16号たちに頭を下げて食堂を後にして俺に続いた。


 礼儀正しいところも好感が持てる連中だ。


 玄関ホールから外に出て、芝のきれいな辺りまで歩いていった。

「この辺りでいいかな」

「この辺りでいいかなって?」

「長谷川、どういうこと?」

「???」

 手ぶらな俺がどうやってドラゴンの頭をここに持ってくるのかそりゃ疑問だろう。16号たちがいれば誰かに言いつけて台車か何かで運んでくるも可能性もあるが俺たちしかいない以上そんなことできそうにないものな。


「まあ見ててくれ。

 タマちゃん、ドラゴンの頭をその辺に出してくれ」


 金色の偽足が背中のリュックから伸びて、一瞬後にはドラゴンの生首が芝の上に現れていた。


「おい、いまのどうなってたんだ?

 ドラゴンの頭もすごいが、急に現れたのも謎だぞ。

 金色の筋が一瞬見えた気がしたんだが目の錯覚だったのか?」

「鶴田、相手は長谷川だ。俺たちの非日常も長谷川にかかれば日常なんだよ」

「たしかに」

「いやいや、そういう話なのか?」

「そういう話なんだよ。今はドラゴンの頭を観察しようではないか。

 しかしでかいなー。3メートル以上あるぞ。

 長谷川、元の大きさはどれくらいあったんだ?」

「立ち上がった背丈で15メートル近くあったから、頭の先からしっぽの先まで25メートルくらいあったかもな」

「これどうやってたおしたんだ?」

「大剣で叩き斬ってやった」

「長谷川は大剣も使えるのか?」

「そんなに差はないが大剣の方が得意だな。ただ俺のメイスはそこまで丈夫じゃないからこういった大物にはおそらく使えない」


「長谷川、記念にウロコを1枚貰っていいか?」

「構わないが、うろこは固いぞ。気を付けて引っぺがせよ」

「分かった。防刃手袋はめておけば大丈夫だろ」


 浜田が首筋当たりのウロコに手を伸ばして引き抜こうとするのだが指もうまくかからないようでびくともしないようだ。

「残念だが無理そうだ」

「胴体を解体した時のウロコを採っているかもしれないからあったら3人にやるよ」

「すまんな」

「俺たちにもか」

「なければこの首から引っぺがすほかないからそのうちだ。ちょっと聞いてくるから待っててくれ」

 俺は3人をその場に残して書斎に転移してアインを呼んだ。


「アイン、ドラゴンを解体した時のウロコはまだあるかな?」

「鎧などの素材に加工可能と思えましたので全て保管しています」

「そしたら大きくないウロコを3枚持って、表でドラゴンの首を見物している3人に1枚づつ渡してやってくれ」

「了解しました」

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