第241話 夏休み前、予定。


 ミアと昼食をとった後、ソフィアを居間に呼んだ。

 午後からミアたちはさっそくお勉強タイムだったのだが、ソフィアがいないので雑談でもしているのだろう。


「ここが落ち着いたらラザフォート学院に行って編入試験の手続きを忘れずにな。

 お金で解決できることなら惜しむ必要ないから。それと、カリンとレンカはミアと同じクラスになるよう学校側と交渉してくれ。ある程度の寄付をすれば何とかなるだろう」

「はい」

「以上だ。ミアたちの勉強見てやってくれ」

「はい」



 ソフィアが居間を出て行ったので、俺はシュレア屋敷用に米を補充するためタマちゃん入りのスポーツバッグを手にうちの近くの総合スーパーの近くに転移した。


 カートを押してコメ売り場に回り、聞いたことのあるような銘柄米の10キロ袋を4袋カートに入れて精算した。時間帯が時間帯だったのでレジが空いていたのはありがたい。


 カートからタマちゃん入りのスポーツバッグにその4袋突っ込んでタマちゃんに収納してもらった。一部始終を見ている人間がいたらすごく奇妙な光景だろうが、誰の注目も集めていなかった。


 そして、第2ラウンド。今度は新館用だ。

 再度10キロ米を4袋カートに入れてレジに並んでいたら後ろから声をかけられた。また結菜だ。

「一郎、お使い? というか一郎んち3人なのにお米ばっかりそんなに食べてるの?」

「そうだな。腐るもんじゃないから一度に買っても何も問題ないだろ?」

「確かにそうだけど、今日って安売りでも何でもないじゃない。あんたはお金持ちだからそんなこと気にしてはいないのかもしれないけれど」

 確かに値段のことなど冒険者になってから気にしたことはほとんどなかった。あまりいい傾向ではない。これからはもう少し値段についてシビアにいった方がいいな。

 結菜に意見されて気付いてしまった。まさに『負うた子に教えられて浅瀬を渡る』心境だ。ちょっと傲慢か?


 その結菜だがスーパーの買い物カゴにちゃんとした食材を入れていた。

「聞いてよ」

「なに?」

「うちの学校、今日はほんとなら休みだったんだけど教育委員会の誰それが視察にきて午前中特別授業があったのよ」

「ということは4時間分授業が増えたということだろ? よかったじゃないか?」

「そうとるの?」

「俺たちは高校生だぜ」

 結菜が何か言い返そうとしていたがそこで俺のレジの番になったので俺は先に進んだ。


 荷物置き場でスポーツバッグにお米を入れ終わったら結菜が精算を終えてやってきた。


 結菜が買い物袋に荷物を詰めたところで、

「冷たいものでも飲んでいくか?」

「そうね」


 カートの上にタマちゃん入りのスポーツバッグをのっけて、結菜とテナントのハンバーガーショップまで歩いていった。

「俺はバナナシェイクだな」

「わたしもそれにするわ」


 結菜は感心なことにおごってくれとは言わなかった。その程度のことだが気にかけるようになったということは少し成長したのか?


 シェイクを受け取った俺たちは向かい合って椅子に座ってすすり始めた。

「一郎こそ、ダンジョンはどうなってるの?」

「いろいろあって、まとまった休みがないと先に進めなくなってしまった」

「どういうこと?」

「要するに夏休み待ちだ。夏休みになったら泊りがけでチャレンジするつもりだ」

「ふーん。そんなのがあるんだ」

「まあな。転移で好きなところに跳んでいけると言えばそうなんだが、今取り掛かっているところは特徴がなさ過ぎて直接跳んでいけないんだ。いったん戻れば振出しに戻るわけだから泊りがけで先に進む必要があるんだ」

「わたしには関係ない世界だけど、頑張って」

「うん」


 その辺りでふたりともシェイクを飲み終わったので椅子を立った。

 カートをスーパーの出口まで押してそこで結菜とは別れた。


 買ったお米はシュレア屋敷と新館に4袋ずつ届けておいた。



 

 翌日の日曜日。

 朝はシュレア屋敷に行って朝食をミアと一緒にとって、それから暫定28階層に転移して夕方まで暴れてやった。いつも通りの収穫だったが言い方を変えれば特に変わったものを見つけることはできなかった。

 手に入った28階層の核はそれまでのものと合わせて200個を超えていたが全部アインに渡しておいた。

 なんだか自動人形の一大軍団が作れそうな数だが、あって悪いものじゃない。




 週が明け期末試験が始まった。

 2日間にわたる期末試験はいつも通り楽勝だった。おそらく全教科満点のハズ。



 試験を終えた翌日から試験結果が返り始めた。

 クラスメートたちが返ってくる試験結果に一喜一憂するなか俺は淡々と満点の答案用紙を担当の先生から返してもらった。


 1年生の時は『よくやった』とか『すごいじゃないか』とか答案を返してもらう時先生が声をかけてくれることがよくあったのだが2年になってそういったことも無くなってしまった。

 デフォルトで満点だから『よくやった』もないとは思う。これがもし90点くらいとってしまったら逆に『どうした?』とか言われそうだ。


 試験結果があらかた返ってきた後のクラスの話題は夏休みに移っていった。

 海外に行くとか、祖父母の住む田舎に行くとかいろいろだ。

 その中で冒険者の資格を取るという者が数人いた。

 少しずつではあるのだろうが冒険者の人数も増えていくのだろう。


 そういった中で俺は鶴田たちに休みに入ったら一緒に潜ろう。俺はいつでもいいから都合のいい日を決めてくれ。と、言ったところ、そういったことは早い方がいいと即答され、夏休みの初日ということになった。

 その際、昼食は俺が用意するから用意しなくてもいいと言っておいた。

 浜田はすぐに察したようでニコニコ顔だった。

 浜田の察しとはちょっと違うと思うが、お楽しみはとっておいた方がいいから内容については黙っておいた。


 終業式が終わり1学期最後のクラスルームで担任の吉田先生から月並みではあるが夏休みの注意事項の話があり高校2年の1学期が無事終了した。


 そして、待望の夏休み。本格的な冒険者生活だ!


 夕食時父さん母さんに4泊5日でダンジョンに潜る了承も取っておいた。成績表をその前に渡していたのもすんなり了承された要因のハズだ。


 4泊5日ツアーは鶴田たちを招待したあと中1日置いて実施するつもりだ。

 丸々4日もあれば真27階層への階段が見つかると思うが甘いだろうか?

 もしダメならさらにロングなツアーを実施することになる。夏休みだから問題ないだろう。


 その日の夜、斉藤さんからメールが届いた。

 秋ヶ瀬ウォリアーズとは8月月初に一緒に潜ることになった。

 夏休みに入って少し時間が空くのは、3人で宿題を済ませてその後じっくり高校2年の夏休みを遊びたおすためだそうだ。



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